新型コロナウイルスの影響で旅行ができない今、旅への欲求を高め、次の旅を妄想する期間に充てたい方にお届けするシリーズ企画【達人に聞く!次に旅するならココでしょ】、略して「ツギタビ」!!
第2弾は、歴史を感じる街と美食と大自然と、多彩な魅力あふれる旅行地として大人気のイタリアを【絶景】【美食】【深】のテーマで紹介する。
第1弾の台湾編はこちら!
イタリアに関する著書を多く執筆し、ローマに暮らすこと20年目のライターの田島麻美さんにイタリア旅のこだわりについて教えてもらった。
世界は地続きだと実感する旅
<達人・田島麻美さん インタビュー>
――ローマに住み、イタリア中を旅する田島さんが思うイタリアの魅力とは?
日本にいた頃は、島国ゆえに国境に対する意識が少なかったのですが、北イタリアのトリエステに行った時、夜のバスターミナルに故郷に帰るたくさんの東欧の人たちが大荷物を持ってバスに乗り降りしていて、いろんな言葉と人種が混ざり合っている様子に衝撃を受けたんです。
国境が地続きであること、ヨーロッパというのはこういうことかと肌で感じた出来事でした。
トリエステの高台に上るとスロベニア、クロアチアが見えるんです。海と沿岸線、そして内陸側に広がる大地が見渡せ、まるで地図を見ているような感じでした。内陸側のパノラマを見ながら、同じ大地の上にくっついているのに、別々の国なんだということを不思議に感じたのを覚えています。国境と言っても、壁も線もない。地球はひとつなんだなということを実感しました。
これまでにアルプス山脈を歩いてフランス、スイスとの国境を越えました。山を歩いていても気付いたらスイスに入っていたという経験もあり、「世界は繋がっているんだな」と日本にいると感じられない体感があります。
ひとことにイタリアと言っても、シチリアはアフリカ、北イタリアはスイスに近いんですね。アフリカとスイスってぱっと名前を聞いただけでも頭に浮かぶ印象は違うと思いますが、それがひとつの国の中に集まっているというところがイタリアの旅の醍醐味です。
【絶景】今見ておくべき!イタリアアルプス
――おすすめの絶景スポットは?
「今見ておくべき」という点では、イタリアアルプスです。モンブランやマッターホルンといった山の氷河が温暖化の影響で溶けていって、毎年行くたびに山の景色が変わっているので今のうちに見ておいたほうが良い気がします。
モンブランやマッターホルンは何回行ってもいいですね。大自然の中で人間の小ささを実感します(笑)。実はローマからのアクセスも良く、ユーロスターとバスを乗り継ぎ、4~5時間で着きます。日本からはミラノ経由で、ミラノから2~3時間で着きます。
私は、夏になるとだいたい2週間は山の中にいます。拠点を1ヵ所決めて1週間、次の拠点に移動して1週間。
だいたい1日に8時間くらい歩くので、バカンスではなく山岳部の強化合宿と言われています(笑)。でも、徒歩でないと本当の絶景は見れないんですよね。
田島さんおすすめ!ビギナーでも楽しめるとっておきの絶景4選
マッターホルンの麓の村「ブレイユ=チェルヴィニア」はイタリア国内で唯一、夏スキーが楽しめる場所としても知られている。チェルヴィニア周辺には無数の登山・ハイキングルートがあり初心者でもアクセスしやすい絶景スポットが目白押し。
1.ロープウェイの終点はスイス国境「プラトー・ローザ」
2. ハイキングでもバスでも行ける「ラーゴ・ブルー(ブルー湖)」
3.大自然が生み出した奇跡の洞窟「グフレ・デ・ブッセレイユ」
4.荒涼とした景色の中で一際輝く「チーメ・ビアンケ」の湖群
――観光客がトレッキングに行く際の注意点はありますか?
どんなに整備された観光スポットでも、アルプスのルートは4000m級の山が連なっていますので、夏でも絶対に軽装で行ってはいけません。高所へ行けば気温も下がりますし、酸素も薄くなります。
しっかりしたトレッキングシューズ、水、薬類、万が一のための厚手のジャケットや雨具など、万全の準備をして行く必要があります。また、ロープウェーとはいえ高所へ行く場合は事前にご自身の健康チェック(血圧など持病がある場合は特に)をして行くことも必要です。
【美食】 海、山、地方ごとのグルメを味わう
――イタリア旅でグルメを堪能するコツを教えてください。
イタリアでは、その土地土地でおいしいものがあります。海の近くに行けばシーフードがおいしいし、山に行けばジビエがおいしい。どこに行っても絶景とおいしい食べ物があるので、「どこに行くか」が重要になります。
ワインが好きならトスカーナがおすすめです。車の運転ができるのなら、レンタカーを借りて行くのもいいですね。トスカーナは絵葉書のような丘陵地帯が広がる中に、村とワイナリーが点在しているので、そこで飲んで泊まってという、のんびりした旅もおすすめです。
渓谷一帯がユネスコの世界文化遺産「トスカーナ」ヴァル・ドルチャ
海辺の街ならどこでも美味しいシーフードが食べられます。ナポリ近郊の街なら、シーフードにプラスで出来立ての美味しい水牛のモッツァレッラ・チーズも楽しめますよ。
地中海に面した「スペルロンガ」
――美味しいお店の見つけ方はありますか?
イタリアではどの街でもランチタイムなら13時、ディナーなら20時以降にイタリア人で混雑している店を狙えばまず外しません。
イタリア人は12時以前にランチを食べることはないですし、開いている店も観光客をターゲットにしているお店です。それでも美味しいですけれど、やはり舌の肥えたイタリア人が集まっている店がおすすめです。
私はいつも行った先の地図を見て、街の周囲の地形を見てから何を食べるか決めます。山奥や丘陵地帯ならジビエ、海が近ければシーフード、という感じで。
ジビエはやはり秋ですね。特に、ポルチーニ茸やトリュフと一緒に猪やウサギ料理、出来立ての赤ワインをいただくのは最高です。
山奥の断崖絶壁にそびえる「ソラーノ」
【深】パワースポット、深掘りしたテーマのある旅
――いわゆる観光とは違う、ディープなテーマ性のある旅も得意とされていますが、どのように旅のテーマを決めていますか?
イタリア国内には季節ごとの行事がとても多いので、それをめがけて行ったり、あとはその時々で面白そうだなと自分のアンテナに引っ掛かったものを追いかけたり、という感じです。
個人的には、歴史を感じさせる古代の遺跡や宗教的な場所、ミステリースポットが好きです。
北イタリアのトリノは、フランス風の華やかな宮廷文化が今も色濃く残る華麗な街ですが、実はヨーロッパのブラックマジックの中心地と言われていて、ミステリースポットの宝庫です。
欧州で最も多くのエクソシスト(ヴァチカンから派遣された悪魔払い)が活躍する街でもあるため、ミステリー&パワー・スポットが満載なんです。
カステッロ広場、エジプト博物館、モーレ・アントネッリアーナは必見ですね。ローマにもたくさんあります。個人的にはパンテオン、ちょっと通の方には聖パオロの伝説が残る聖パオロ・トレ・フォンターネ教会などがおすすめです。
「トリノ」ミステリースポット探訪
あと、生ハム好きの人にぜひともおすすめしたいのが「パルマ」のランギラーノ村にある「プロシュット・ディ・パルマ博物館 」です。美食の都パルマのフード・ヴァレー(食の渓谷)と呼ばれるエリアには、パルミジャーノ・レッジャーノ博物館、パスタ博物館をはじめとする8つの食の博物館があります。
「プロシュット・ディ・パルマ博物館 」は、レンガと木材でできた1900年代初頭の市営倉庫の建物を改装した趣のある博物館で、紀元前7000年頃に始まった生ハムの歴史や、生ハムと共に生きてきたランギラーノの人々の人生に触れることができます。
厳しい条件が定められ、手間をかけて作られる極上の生ハム作りを見学したい人には見学可能な工場を紹介してくれます。ここでしか体験できない、本場のプロシュット製造現場を体験してみるのもおすすめです。
「パルマ」生ハム博物館
コロナが収束したら行きたい、ヒマラヤトレッキング
――現在のイタリアの様子はいかがですか?(5月6日時点)
規制緩和といっても厳密なルールがあり、好き勝手に動き回れるわけではないんです。移動は州内に限って可能となり、第六親等までの親族と恋人と婚約者同士までは会うことができるようになりました。
家族か恋人には会えるというところがイタリアらしいですよね(笑)。どこでもベタベタしているイタリア人がくっついて歩いていないし、これが当たり前になっていくのかなと思いますね。 イタリアでは、良いことも悪いことも情報はすべて発表するので、国民も腹を括らないといけないという空気があります。
気分的に多少は開放的になっていますが、緩和といってもお祭り騒ぎになっているわけではないのが現状です。イタリアでは、5月18日からさらに広範囲の緩和が進む予定なのですが、ここで感染の第二波が来ないように油断はできません。
――そんな中、おうち時間をどのように過ごされていますか?
イタリア人が時間を持て余すと、大多数は食に走ります。手作りでピザやパンを焼いたり、パスタを作ったり。パンの発酵に必要な酵母も品薄になったので、私は手作りするようになりました。
この2ヵ月の間でかなり上達しまして、もうパン屋さんに買いに行く必要はないんじゃないかと。イタリア人の夫もピザを焼くのがかなりうまくなりました(笑)。
今回の状況で一番驚いたのは、危機的状況になった時のイタリア人のメンタリティ。ものすごくタフですし、こうなったのならしょうがないから家の中で楽しく生きようと、楽しむことを諦めないですね。
――コロナが収束したら行きたい、田島さんの“ツギタビ”を教えてください。
コロナが収束したら、次はヒマラヤに行きたいです。アイゼンを使用して氷河を渡るような登山は私にはできないので、ヒマラヤ周辺でエベレストを見ながら氷河の一歩手前の山道をテクテク歩くトレッキングです。
コロナで観光客が減って空気が澄んでいるので、エベレストの姿がきれいに見えるうちに歩いてみたいです。他にも北欧のフィヨルドなど、早く行かないと見られなくなってしまう風景をたくさん見たいですね。
【プロフィール】田島麻美(たじま・あさみ)
千葉県生まれ。大学卒業後、出版社、広告代理店勤務を経て旅をメインとするフリーランスのライター&編集者に。国立ローマ・トレ大学マスターコース宗教社会学のディプロマ取得。旅、暮らし、料理をメインテーマに執筆活動を続ける一方、撮影コーディネイター、通訳・翻訳者としても活躍中。著書に「南イタリアに行こう」「ミラノから行く北イタリアの街」「ローマから行くトスカーナと周辺の街」「イタリア中毒」「イタリア人はピッツァ一切れでも盛り上がれる」ほか。
紹介した旅以外にも興味深いテーマに沿った、イタリアに密着した情報が盛りだくさんな連載コラム「ブーツの国の街角で」は、双葉社が運営する旅の達人たちによる本物志向の旅サイト「TABILISTA」で楽しむことができる。