あの涙から1年。
連覇を狙った前回大会、東山は無念の棄権で大会を終えた。告げられたのは、3回戦に向け、ユニフォーム姿でコートでのウォームアップを行い試合に向けた準備をしていた最中。前夜発熱者が出たが、事前の大会規定に従い該当選手はホテルで隔離し、他の選手は平熱であることを確認したうえで入場、試合に備えていたが複数名の選手がやや微熱と診断され、要経過観察者になると判断された。
戦うこともできず、うつむき、涙しながら会場を後にした選手たち。あの悔しさ、無念を晴らそうと臨んだ1年は、決して楽な道のりではなかった。
2年前の春高は、後に東京五輪にも出場したエースの髙橋藍を擁し、初優勝を遂げた。当時から主軸を担った選手たちが、昨年もチームの主軸だったため、今年はほぼメンバーが一新。この2年は公式戦や練習試合の機会も限られ、1つでも多く経験を重ねたいとインターハイ出場を目指すも、同じ京都の強豪洛南の前に涙を飲んだ。
セッターの當麻理人と大会屈指の高さを誇る206のミドルブロッカー麻野堅斗は、中学時に全国大会で優勝経験を持つ。2年生ながらチームの中心となる選手で、さらに1年生の尾藤大輝、花村知哉などスタメンを見れば1、2年生が主軸のチームにも見えるが、豊田充浩監督は「生命線は3年生。3年がどこまで伸びるかがカギになる」と言い続け、その象徴として常に名を挙げ続けたのがオポジットの佐々木達郎だ。
チームの主将であるリベロの辻本怜要と共に、精神的支柱ではあるが、最上級生になった今年、要所では洛南に負け続け、自信を失いそれがプレーに影響することも少なくなかった。
しかし泣いても笑ってもこれが最後のチャンス。打倒洛南、春高での昨年のリベンジを近い、夏から秋へ季節が変わる中、佐々木も成長を遂げた。全員がさまざまな位置から同じタイミングで攻撃に入るべく、スピードを磨く。得意なコースばかりでなく、苦手なコースにスパイクを打つ練習や、実戦形式の練習を重ね攻撃のレベルアップに努めてきた。
前衛からの攻撃だけでなく、バックアタックの完成度も高まり、少しずつチームとしての完成度も高まってきた。
そんな矢先、予期せぬ事態が起こる。何と京都府予選で洛南が敗れたのだ。打倒洛南を誓い続けた佐々木は、最大のライバルが敗れたことに少なからぬ動揺があったと振り返る。
最大のライバル校が敗北「マジか…」
「サーブレシーブや攻撃、ブロック、基本的にいつもイメージするのは洛南でした。自分たちが3年になってからずっと負け続けて本当に悔しかったし、このスパイクだったら洛南にも決められる、このサーブで洛南を崩す、と思い続けてきた。負けたと知って、内心はマジか、と思いました」
同時に、洛南だけがライバルではなく、京都の全チームに勝たなければ全国大会に出場する権利など得られない。当たり前の事実にも改めて気づかされた。1人1人のプレーの質を高め、組織としての技を磨く。練習中は誰よりも声を出し、周りも自分も奮い立たせてきた。
そして、迎えた京都府大会決勝。相手は洛南を下した大谷高校。ジャンプサーブと強烈なスパイクを武器とするチームであることは事前のデータから理解していた。攻撃だけでなくサーブでも「相手のサーブにやられてメンタルをえぐられることがないように」と直接失点しないことを心がけ、強烈なサーブは無理に返そうとするのではなく上に上げ、そこから時間をつくって攻撃に入る。
冷静に、落ち着いて、と言い聞かせながらも試合開始早々、當麻からの1本目のトスがライトの自分に上がってきた時は、嬉しかったし興奮した、と笑う。
「ライトからの速い攻撃は、東山の代名詞。絶対に決めてやる、と思ったし、しっかり決め切って流れをつかむことができた。めちゃくちゃ嬉しかったし、自分の気持ちが一気に乗ることができました」
チームを盛り立て、勝利に導く。逞しいエースへと成長した佐々木を豊田監督も手放しで称える。
「チームのムードメーカーでバランスの取れた選手。彼の伸び率がチームの伸び率でもあると思っていましたが、想像を絶するほどの成長を遂げてくれた。技術、フィジカル、高校生でこれだけ伸びるのか、と驚かされた。まさにあっぱれ、です」
監督も絶賛「彼の伸び率がチームの伸び率」
打倒洛南と抱いた思いを、洛南に勝った大谷にぶつけ、決勝戦は3-0のストレート勝ちで3年連続の春高進出。本大会になれば昨年の記憶も蘇るかもしれないし、連覇を目指した先輩たちと何かと比較される機会も増えるかもしれない。
だがそれも、佐々木は力に変えると意気込む。
「去年は去年、今年は今年。自分たちでつくって、磨いてきた武器があるので、課題を克服して、もっと強いチームになって春高で暴れたいです」
レギュラーとしてコートに立つ春高はこれが初めて。最初で最後の大舞台を、存分に楽しむだけだ。
写真:JVA2021-12-138 ©月刊バレーボール