2017年の日本初演で大成功をおさめた舞台「ビリー・エリオット~リトル・ダンサー~」が、新たなキャストを迎えて9月11日に開幕する。初演に引き続き、ビリーの才能を見出すバレエ教師・ウィルキンソン役を柚希礼音が演じる(安蘭けいとのWキャスト)。
新型コロナウィルスによる上演延期を経て、感染対策をとりながら稽古に励んでいるという柚希。インタビュー後編では、その素顔に迫ってみたい。
柚希礼音インタビュー・前編はこちら!
<柚希礼音 インタビュー・後編>
――待ちに待った稽古が再開し、稽古場は活気にあふれたご様子ですね。
はい。自粛期間中は一人で、「自分に足りないところをひたすら練習する時間だ!」と思って歌やバレエのレッスンをしていたので、今、誰かとお稽古することが純粋にうれしくて。相手と向かい合い、目の奥と目の奥で確かめ合いながらお芝居ができるって、とても貴重で幸せなことだなと感じます。
――自粛期間はどのように心身の状態をキープされましたか?
お芝居に関しては、一度立ち止まって自分の現状を見つめ直す、本当にいい時間が過ごせました。それ以外の時間では、部屋の片づけや料理など、普段はできない家のことをいろいろやりましたね。
――新たに始めて、「コレいいな」と思ったことはありますか?
料理はいいなと思いました。和も洋もとりあえずは挑戦して、肉じゃが、きんぴら、タイ料理のガパオ(ライス)に、市販のルーを使わないカレーなど、やるべきことはかなりやり、もうなんでも得意です!
ただそれは、インターネットのレシピ通りに作っただけで、何も見ないでもう一回作れと言われたらできないんですけど(笑)。
でもこれまでは、食事もテイクアウトやデリバリー、コンビニごはんで済ませたりしていたのが、ついに体のことをちょっと考える時間にもなりましたね。料理を始めてからは、食材や調味料を買うときに、パッケージ裏の原材料名や栄養成分表示を見るようになって。やっぱりこれからは、体のことをちゃんといたわらねば、と思うようになりました。
――自炊がきっかけで、生活も変わりそうですね。
そうなんです。しばらくお休みしていた野菜ジュース作りも再開して。野菜、果物、プロテイン、オメガ3系のオイルなど、摂りたいものを一気に摂れるので、朝はそれを飲んでいます。
――柚希さんの美肌の秘密はそれかもしれません!
いえ、肌が荒れやすいのが大きな悩みで、決して美肌とはいえないんです。でもそれも、自粛期間中に“肌をこすらないお手入れ”を学びました。忙しいときは、クレンジングもゴシゴシやってたんですけど、クレンジングも保湿も極力肌をこすらないように気を付けるようになりました。
ほかにも、肌の再生を促すサプリを飲んだり、肌にいいらしいサジーというフルーツをジュースに入れてみたり。いろんな情報をインプットし、それを試せる時間もあったので、よかったなと思います。
――よい気分転換にもなったのでは?
はい。これまで、あまり自分に向き合う時間がないまま走ってばかりいたなと思って。自粛期間を過ごせたおかげで、自分に必要なことがシンプルにわかるようになってきました。
――そんな中、柚希さんの呼びかけで、19名の元宝塚トップスターが集結し、YouTubeで宝塚の楽曲「青い星の上で」を披露。リモートでの夢の競演が大きな話題となりました。
自粛期間も1ヵ月になろうかという頃、何かできないか?とずっと考えていたことをマネージャーに話したら、「いいじゃないですか!」となって。そして宝塚時代をともに過ごした100周年以降の仲間に声をかけてみたら、「むしろありがとうございます!」という反応だったんです。
みんな事務所も違うし、こんなこと成立するのかな?と思っていたけど、みんなも同じように、何かしたいけど何をしたらいいかわからない中にいたんですよね。
そこからは、みんな前のめりになって意見を出し合って。歌の部分はしっかり歌い上げるために、「REON JACK」でご一緒している本間(昭光)さんに新しくコーラスを作ってもらって、振り付けのSHUN先生も、“今は触れられないけど、やっぱり人というのは触れ合いたい気持ちがあるんだよ”という振りをつけてくれました。
――実際には離れているのに、息がぴったり合った“カップル振り”も見事ですね。
そこもコンビごとに連絡を取り合い、なんとかタイミングを合わせてくれたんだと思います。私も(夢咲)ねねに、「ウインクのタイミング、絶対合わせて」と言って(笑)。私もちょうどいいところでウインクをするんじゃなく、気分でしてるから、合わせる側は大変だったと思います。
でもそれも、宝塚の娘役のみんなの素晴らしいところで。男役が伸び伸びとやったことを娘役たちが受けつつ、完成させてくれていたんだなと思います。
とにかく、舞台を楽しみに待っていてくださる方々や、公演が延期になって立ち止まり、いろいろ悩んだり葛藤してるだろう現役タカラジェンヌたちが、思わず笑顔になっちゃうようなものが作りたかったんです。
――ネットの反響を見ると、みなさん涙、涙で受け取ったご様子でしたね。
自分もはじめて見たときは泣きました。特に現役タカラジェンヌに対しては、自粛中はみんな神経がピーンと張って、1人で過ごしてとても孤独だったと思うけど、私たちの間にはひとつの曲があって、ひとつの思いがつながっている。離れていてもみんなはひとりじゃない、絆があるんだ、ということを伝えたくて。
それがみんなに伝わったのは、作った仲間がその思いをひとつにやってくれたからだなと思って。宝塚歌劇団で同じ時代を生きたことは生きたけれども、組も違えば学年も違う。そのみんなが、この状況の中、心ひとつにやってくれたら、こんなにエネルギッシュで思いがあふれる作品ができたというのがすごく幸せで!出来上がった作品はもちろんですが、作っている過程こそが宝になりました。
――そうした、ここぞというときの団結力や“宝塚出身”という矜持、社会に貢献する力は、やはり宝塚で育まれ、OGの皆さんの共通理念になっているのでしょうか。
公演のラストでトップスターが背負う羽の重さが15kg近くあることから、宝塚では「羽の重さは責任の重さ」と言われるんですね。私も5年前に退団した直後は、「トップって重いものを背負っているから、退団したら楽になったでしょう?」と言われて、「あ、楽になった気がする♪」と思っていたんです。
でも、そのあとの自分の行動も、“元タカラジェンヌの柚希が○○をした”になるんですよね。それは、宝塚時代の自分がいるから今の自分がいるわけなので、当然といえば当然のことで。そればっかりにとらわれて身動きがとれなくなってはいけないし、ちゃんと伸び伸びと自由に歩いていくんですけれども、宝塚出身であることの責任と誇りは、ずっと胸に抱いて生きていかねばな、と思うので。
それは私に限らずOGの間でも、宝塚106周年の歴史を汚さないよう、現役タカラジェンヌに迷惑をかけないよう生きていこうね、となっています。
――“女性”として舞台に立つ日々はいかがですか?
宝塚で男役を始めたときは、男性のしぐさを学び、ぎこちなくても真似てみることで、だんだん自然にできるようになったんですね。退団後は、初めて女性として芝居をするわけですから、男役らしさを身につけたときと同じように、また1年生からのスタートで。
多くの男役OGと同じく、私も男役のときの自分をなくさないことには、女の人になれないような気がする時期もありました。
でも今は、男役だった自分をなくさなくても、それを経ての今の自分の女性像がきっと表現できるはずだと思うので、かつての自分を大切に、新しい自分を見つけることも楽しみにしながらやっていきたいと思います。
――最後に、フジテレビュー!!の読者にメッセージをお願いします。
「ビリー・エリオット~リトル・ダンサー~」は、本当にさまざまな要素が詰まった作品で、どんな年代の方にも何かしら心に響くものがきっとあると思いますので、普段ミュージカルはあまり観ないという方も、ぜひ足を運んでいただけたらうれしいです。
いまだ予断をゆるさない状況ではありますが、そんな中、劇場に来てくださった方々には、自分たちもより、明日から生きていく勇気や糧になるようなものをお届けせねば!とさらに強く思っております。
取材・文/浜野雪江 撮影/河井彩美 ヘアメイク/CHIHARU スタイリスト/間山雄紀(M0)