これがホントに最後のバッチ来~~~い!!!

生田斗真演じる潜入捜査官=モグラの姿を通じて、正義や友情、ラブに笑いにアクション…と“全部乗せ”的なエンターテインメントを展開してきた「土竜の唄」。ハイテンション&ハイスピードなストーリーに見る者はいつしか魅せられ、1作目「土竜の唄 潜入捜査官REIJI」(2014年)、2作目の「土竜の唄 香港狂騒曲」(2016年)も大ヒット。そして5年の月日を経て、シリーズはついに「FINAL」へ──。

完結編の完成および公開を機に、主人公の菊川玲二(生田)が敵ながら男っぷりに惚れてしまうクレイジーパピヨンこと日浦匡也役の堤真一と、三池崇史監督にインタビュー。シリーズを振り返りながら、それぞれの「ファイナル=終わりにしたいこと」について語ってもらった。

<堤真一×三池崇史監督 インタビュー>

皆川猿時の体はどこまでも撮りたくなる!?

──堤さんは完成された「土竜の唄 FINAL」を、どうご覧になりましたか?

堤:ぶっ飛びましたし、ずっと笑っていましたね(笑)。懐かしいシーンも出てきたりして、「あぁ、(大杉)漣さんが映ってる」って思ったり…。笑いつつも、いろいろな思いがよぎりました。

脚本を読んだ時点では、ト書きの部分を演じた時にどうなるのかを、役者側はあんまりわかってないというか…イメージしづらいところがあって。たとえば、オープニングのカモメ(が菊川玲二の体をくちばしでつつくシーン)のところとか、「吊した鳥の人形じゃね~かよ!」という、ツッコミ待ちみたいな感じになっていて。ああいうセンスが、たまらないですね。

バカバカしいし、そもそもあり得ないシチュエーションなんですけど、イタリア人のマフィアは真剣な顔で玲二を見ていて、挙げ句「気に入った…」なんて言うわけじゃないですか。「なんだ、それ!?」っていうね(笑)。

あの辺りは、想像していたのものと全然違っていましたし…麻薬取締官の福澄独歩(皆川猿時)と玲二がキスするところも、「あれ、台本にこんなシーンあったっけ?」って。しかも、玲二は福澄とキスしたことを知らずに(女性とキスをしたと思い込んで)どんどん話が進んでいくじゃないですか。でも、次の芝居で皆川くんはちょっと照れる仕草を見せていて…ああいうところで光る監督のセンスが、本当大好きです(笑)。

三池:意外と皆川さんのキスしている姿が心地よさそうに見えて、「ああ、この仕事をやって良かった」って非常に積極的な印象を受けたので、「その感じでいくと…ある一線を越えたっていう感じになりますよね?」と聞いてみたんですよ。そしたら「そうそう、なった、なった」なんて言うものだから、「じゃあ、そのまんまの感じで次のシーンにいってください」ってお願いして(笑)。

堤:しかも、周りはもう次のことに意識が移っているのに、皆川くんだけなんか照れてるっていうね。見ていて大笑いしました。しかも、やたらとこの作品、皆川くんのハダカが出てくるじゃないですか。ついつい見ちゃうんですよ、彼の乳首を!そんな自分がすごくイヤで…(笑)。

三池:皆川さんのカラダって、どこまで映してOKなのかがわからないんですよね。「普通は、ここまでだよね」っていう基準からハミ出しているというか、「もうちょっと映しちゃっても大丈夫じゃないか?」みたいに、攻めた撮り方がしたくなるんですよ(笑)。

堤:銭湯でのシーン、かなりきわどいところまで映してましたよね。

三池:いやぁ、つい面白くなっちゃって…。

堤真一&三池崇史監督が感じる生田斗真の変化

──では、シリーズを通じて主人公の玲二を演じた生田斗真さんについて、お二方はどう感じていらっしゃるのでしょうか?

三池:回想的に「モグラ=潜入捜査官とは何か?」ということを、「土竜の唄」を今回初めて見るお客さんにも分かるようにモンタージュしているんですけど、確かに7年もの時間が流れてはいるものの…そんなに1作目の時から違和感がないんですよね。

それは堤さんにも言えることですけど、おそらく現場に入るとパンッと気持ちがリセットできるからだと思うんです。実生活では家庭を持ったりと…いろいろな経験をされた人ではあるんですけど、役を演じるとなると瞬時にして玲二とパピヨンに変わる。

ご自身が過ごしてきた時間が、役を演じている間は消滅するんですね。しかも、1作ごとに何年か空くというインターバルで演じたにもかかわらず、それができるというのはとても面白い現象だなと思いましたし、やっぱり瞬間的に役の中で生きられる人なんだなと感じました。つまりは、役者なんですよね。

堤:斗真くん、1作目(『土竜の唄 潜入捜査官 REIJI』)の時は“イケイケ~!”という雰囲気でしたけど、やっぱり大人になった印象がありますね。年相応の顔つきになったと思いますし、地に足が着いている感じがするなと、今作の撮影をしていて思いました。

最初は「三池組で映画を撮れるのが楽しくて、楽しくて!」といううれしさがとめどなく出ていたのが、3作目でフッと落ち着いた印象があるんですよね。

三池:その落ち着いた人間が、本番になると…。

堤:ドカ~ン!とハジけるっていう。

三池:ある種、以前の自分(=何年か前の玲二と生田斗真自身)を演じているという、そういう感じはありましたよね。

堤:ただ、相変わらず玲二になると表情豊かでしたね(笑)。すごいなコイツ、と思いましたから。顔芸がスゴい。

三池:ちょっとメタっぽい(※)構造だよね、玲二を演じることで昔の自分にもなるっていう。ただ、物語の中でも描かれているように、思ったよりもずいぶん長いこと潜入していたわけです、玲二という男は。

※フィクションの中に現実世界が織り込まれること

実際の時間の流れとしては現実のほうがもっと長いんですけど、役者・生田斗真とファンがともに過ごした8年──お客さんも現実の人生でいろいろなことがあったはずなので、そこはシリーズを通じて共有できるんじゃないかな、と。

長く続く作品って、始まったころと終わる時でトーンやニュアンスが変わっちゃっていたりもするんですけど、「土竜の唄」は頑なに、愚直なまでに同じことを繰り返してきたので、ちょっと珍しいタイプの映画だと思います。何にしても、ちゃんと終わらせることができてよかった(笑)。

堤真一が演じるパピヨンは“究極の役”

──長く続いてきた、というところで…堤さんは「FINAL」への出演が発表された際に「ようやく日浦匡也という役をつかめた」というコメントを出されていましたが、それほど難役だったと…?

堤:それはなんと言いますか…正直、ツッコミどころが満載なわけですよ。「なんでパピヨン、玲二がモグラだって気づかないんだよ!!」って(笑)。演じながらチラッと思ったりすることが2作目まではあったんですけど、そのあたりを「FINAL」では覚悟を決めて、「日浦は何も知らないんだ。ただ、玲二という男に惚れてるんだ」とシンプルにとらえればいいんだという感覚、その思いだけで演じられたんです。

結構、最初のころは「いやいや、いくらなんでも気づくだろう!?」というのを、自分の中でどう消化したらいいのか迷いながら演じていた部分もあったけど、最後だし、もうシンプルに「玲二のことは“(盃をかわした)兄弟”として好きなんだ。信じるんだ」と。

でも、三池監督もおっしゃったように、ちゃんと完結できたことで、制作側の人たちも胸をなで下ろしているんじゃないかなと思うんです。実際、コロナの影響で撮影が1年延期になりましたし、いろいろなことがある中で、監督やスタッフのみなさんの“執念”のようなものを感じましたね、いい意味で。

三池:シリーズ1作目の時は、もう少し「玲二の正体がバレるか、バレないか!?」というところを繊細に描いてはいたつもりなんですよ。どうやってヤクザの世界に潜入していくかがカギになっているわけですから。

ただ、「FINAL」まできて“この映画においては、パピヨンは玲二の正体に気づかなくてもいいんだ”と堤さんに腹を括ってもらえたんだと、僕も思っていて。本来、役者さんとしては「兄弟、今の芝居は正体バレてるよ」というところでシーンをつくりあげていくわけですけど、そこを「土竜の唄」のパピヨンという男は気づかないのが普通、と少し解釈を変えるという。

パピヨンがまた不思議なキャラクターで、おそらく登場人物の中でも1~2を争う悪人なんですよ、冷静に見れば。ただ一点、クスリは絶対にダメだという信念がある。リスペクトしていた兄貴分がクスリでボロボロになって、人間を腐らせ悪魔にしてしまうモノだと憎んでいるわけです。

でも、理不尽な取り立てに行って火炎放射器は使うし、クスリ以外はハチャメチャなんですよね。そういう部分と、“パピヨンは玲二の正体に気づかなくていい”というところは、ある種つながるというか。だからこそ、役者が演じにくい究極の役かもしれなくて。

──“究極の役”…ですか!?

三池:そう。「家族とか、どうなってるんだ?」とか「どんな暮らしをしてきたんだ?」といったバックグラウンドを全部取り払わないといけないから。玲二でさえ、「子どもの時からスケベでどうしようもないヤツだったけど、正義感だけは強くて警察官になった」というドラマが見えるんですけど、パピヨンはそうじゃないんです。

そういう意味では、ある種の理想像的なキャラクターでもある。「こんな男にいてほしいな」という思いが生み出した、ファンタジックな存在。ただ、堤さんが演じるとリアリティがあるんですよ。余計なお芝居をしない人だし、上手にコーティングして、器用に表現していくことに魅力を感じていないであろう役者さんだから、フッと武骨にその場にいて、何もしないんだけど“男っぷり”が伝わってくる。

しかも、原作の日浦匡也とは違う魅力があるんですけど、主人公の菊川玲二が男として惚れる存在に、ちゃんとなっているんですね。そこはものすごく大事なところで。「パピヨンなんて別に裏切ってもいいんじゃない?」と思わせるようなキャラクターだと、この物語は成立しないんですよ。そこは堤さんのパピヨンだったからこそ、うまくいったと思うし、本当に助かりましたね。

演出家としては、そこを成立させていくのが大変なんですけど、堤さんが見事なまでにパピヨンを体現してくれたので、僕はカモメの人形を吊して茶番のようなシーンを撮ってみたり(笑)、スタッフへの指示に専念させてもらえたっていう。

堤:あの人形ね、何回思い出してもアホらしくて笑っちゃいますよね(笑)。でも、セッティングするの大変だっただろうな…とか思うと、余計おかしいっていう。

──ものすごく大がかりなアクションもありつつ、そういった…しょーもなくて笑っちゃうシーンのギャップも魅力ですよね。

堤:そもそもの話になっちゃいますけど、玲二を潜入させる3人(吹越満演じる酒見路夫、遠藤憲一演じる赤桐一美、皆川猿時演じる福澄独歩からなるジャスティストリオ)って、こんな人たちが警察にいたらエラいことだぞ、と思わせるようなキャラクターですからね(笑)。

三池:あの3人も1作目はちゃんと警察官らしい役割があったんですけどね(笑)。潜入捜査官候補を選び出して、手取り足取り玲二を鍛えていって、マトリ(=麻薬取締官)とはこうだ、日本の警察はおとり捜査ができないがマトリはできる、だから菊川玲二、お前なんだと仕込んでいったわけですけど、仕込んだあとは情報をもらうばっかりで、どんどん警官らしくなくなっていくというね(笑)。

堤:本当、あの3人は笑っちゃいますね(笑)。

“映画”を残していくため「徹夜しないようにするから、法律で縛らないで」

──最後に、「土竜の唄 FINAL」に掛けまして…お2人が「もう最後にしたい」「やめにしたい」と思っていることをお聞かせください。

堤:娘たちのことを、いまだに「学校や幼稚園で大丈夫かな?」みたいに余計な心配をしすぎてしまうことですかね…。一応、アプリを通じてGPSで見守ることができるんですけど、それをドキドキしながら見ている時があって。

気にならない時はまったく見ないんですけど、それを見だしてしまうと、もう…ずっと気が気じゃなくて。で、犬の散歩をするふりして迎えに行ったりして。「もう1人で大丈夫なんだから」って思いつつ、心配性がとまらないのを、もう終わりにしたいですね(笑)。

三池:将来、結婚するなんてことになったら、堤さんどうなっちゃうんだろうね。見てみたいね(笑)。

堤:いやぁ、どうなっちゃうんですかね!?そこは相手にもよるんでしょうけど、たぶん大丈夫だと思うんですよ。ちゃんとうれしいはずだって自分を信じているんですけど…ロクでもない男と一緒になる、なんて言ってきたらどうしようって…。

三池:心配は尽きないですね(笑)。僕はなんだろうなぁ…仕事で徹夜することかなぁ。自分の中では…おそらく出演者のみなさんも周りのスタッフもそう感じていると思うんですけど、「土竜の唄」の1作目って本当に大変だったんですよ。自分で言っちゃうけど、最高にキツかった(笑)。

堤:昼とか夜っていう概念が、あの時はなかったですよね(笑)。

三池:昼間にスタジオで撮って、港に移動して、そのまま夜通し撮るっていう。でも、今作では、そういう無茶なスケジュールがだいぶ減りました。

堤:そうですよね、今回はスケジュールが事前から組まれた通りに進んだ印象があって。前までは、「あらあらあら…現場に入ってずいぶん時間が経ったけど、まだワンカットも撮ってない」ということが全然ありましたからね。

三池:それが終わってまだ移動して、そこからセッティングして撮って、さらに移動して…なんてことがザラでしたからね、以前は。1本目ということで、勝手がわからないところもありましたし、負荷の掛かるシナリオなんですよ。アクションもあるし、しょーもない笑いもあれば、細かく計算された笑いもある。かと思うと、「お~、なるほど」と唸らされたり、宮藤(官九郎)さんの台本は要素がたくさん詰まっているから、最初は具合がわからなかったんですよね。

でも2本撮って、今作を撮っている時には、“「土竜の唄」は、こう撮るんだ”という方法論が演者さん側もスタッフ間でもわかっていたので、スケジュールを絞り込めたところがあって。ただね、時間を制限せざるを得ない昨今の状況は、僕らの撮り方とはそぐわないかなと思う、正直言うと。

──働き方改革やコロナの感染予防を鑑みた、ということでしょうか?

三池:それもあります。確かにいいんですよ、アメリカや韓国の映画界を見ても、働きやすい環境であることに違いはないんです。韓国の基準でいうと、週に52時間しか稼働しちゃいけないんですって。僕らのペースに換算すると、週休3日ですよ。そのぶん予算もかかるので、ヒットするものをつくることが必須になってくる。そうすると、挑戦的な作品がつくりづらくなるんです。

アメリカはその典型で、A級とB級に分けられてしまうんですね。MARVELのような大作とインディーズ映画に二極化するのは、どうも自分にはそぐわないなと。でも、俺が反省して徹夜しない撮影にしていくから、どうか法律で縛らないでくださいと言いたくて。

やっぱり、芝居に納得いかない時、役者さんとしても「もう1回やらせてほしい」と思うだろうし、そうなったら「いや、時間ですから」って切れない。だから、自分たちのことは自分たちで決めていい、という世界で映画を残していくためにも…徹夜はやめます(笑)。

堤:いやぁ、今後の三池組が楽しみです。いろいろな意味で(笑)。

撮影:山越隼
取材・文:平田真人

映画「土竜の唄 FINAL」は、11月19日(金)全国ロードショー。

詳細は、映画「土竜の唄 FINAL」公式サイトまで。