9月17日(木)より、東京芸術劇場 プレイハウスにて上演予定の舞台「ボクの穴、彼の穴。」。 2016年の初演から4年経っての再演となる今作で、宮沢氷魚と大鶴佐助が二人芝居に挑む。 

主人公は、戦場の塹壕(ざんごう/敵の攻撃から身を守るための穴や溝)にそれぞれ取り残された敵同士の2人の兵士。互いの存在に対する恐怖と疑心暗鬼にさいなまれていく姿が描かれている。 

“見えない敵”に対して妄想を膨らませるあまり、相手を“モンスター”と思い込み恐怖心を募らせるさまは、今、世界中が抱える不安な状況とも、どこかリンクしている。 

フジテレビュー!!では、主演の宮沢と大鶴にインタビュー。 

前編では、作品の話を軸に、親友同士での二人芝居に挑むにあたっての思いなどを語ってもらった。 

中編となる今回は、プライベートでも仲がいいという2人の関係性、そして、今この状況下で舞台に出演することへの覚悟に迫る。 

「良きライバル」と言い合う仲 

──お2人はお互いをどんな役者だと思っていますか? 

大鶴佐助(以下、大鶴):「豊饒の海」のときの氷魚ちゃんは、すごく真っ白で、純粋で、余白があって。これからどういう役をやって、それを通してどういう役者さんになっていくんだろう?って思っていたんです。それが「ピサロ」になったら、もう神々しかったです。 

宮沢氷魚(以下、宮沢):あははは(笑)。 

大鶴:そして、良きライバルだと思います。 

宮沢:嬉しいですね。僕の佐助くんの第一印象は一生忘れないと思います。 

大鶴:それ、よく言うよね(笑)。 

宮沢:「豊饒の海」のプレ稽古で初めて会ったんですけど、いかついサングラスに、真っ赤な靴下、黒いプリーツのパンツを履いていて、「なんだ?この人は!」って思いました(笑)。どこかの大御所俳優みたいな風貌だったんです。若いのにすごい雰囲気とオーラがある人だな、と。 

そのときは「この人と(稽古と上演期間を含めた)2ヵ月間一緒にいられるんだろうか…」と思ったんですけど、稽古が始まったらすごくフランクで優しい人だってことがわかりました。 

大鶴:(笑)。 

宮沢:それから、佐助くんが僕のことを良きライバルって言ってくれましたけど、僕も同じように思っています。ただ僕らはタイプが違うし、演じる役もかぶることはないと思うので、これからも共演の機会は多いように思います。そういう関係性を持てる人はあまりいないので、大事にしたいと思っています。あとは、すごく真面目です。 

大鶴:お酒も飲まないからね(笑)。 

宮沢:酔ったことがないもんね(笑)。 

大鶴:あははは(笑)。 

宮沢:これ、このまま書かれちゃうよ?大丈夫?本当は(大鶴は)お酒大好きです(笑)。 

──お互いが敵になったら「これは自分はかなわない」というところは? 

大鶴:身長ですかね(笑)。なんだろうな?

宮沢:日常で敵になるって凄く仲が悪くなるってこと?そういうことじゃないか。 

大鶴:打撃とかではなくて知力的に、すごく分からないところでやられてそうな、張り巡らされてくるようなイメージはありますけどね。 

宮沢:そうかも(笑)。結構表ではぐさっと大きな攻撃はしないかも。下の方で細かく引きずり落とそうとするのかな。わからない。でも多分、佐助は生まれた時から、生まれる前からかもしれないですけど、芝居をする環境下で生まれているので、そういう意味では多分人生のほぼ全てが芝居なので、そこは僕が絶対に勝てないところでもあるし。 

芝居を愛する気持ちっていうのは、多分、後からどんなに学んで芝居を好きになっても、生まれもった素質っていうのはあると思うので。そこは勝つことができないし、勝とうと思っていないし、そもそも全然別のこと。僕は僕で、自分としてやるだけじゃないかなと思います。 

大鶴:僕だけアホみたいなこと言っちゃった。 

宮沢:俺もアホみたいなこと言っておこうか。こんなに赤い靴下が似合う人はいないです。 

大鶴:ありがとうございます。 

宮沢:それは僕が勝てないところです。今日(僕も)履いてくれば良かったよね。 

──トレードマークなんですか? 

大鶴:いや、赤が好きなだけなので。赤い靴下しか持ってないですけど。 

宮沢:結婚式とか行った時も赤い靴下なの? 

大鶴:そうね。お葬式の時はさすがに黒にするけどね。 

──本当に仲が良いことがやり取りから伝わってくるのですが、そもそもどうしてこんなに仲良くなったのですか? 

大鶴:「豊饒の海」のときの役柄の影響もあると思います。時代を超えて描かれる物語で、僕と氷魚ちゃんが絡むシーンはなかったんですけど、お互いの存在がお互いに影響を与える役どころだったんです。だから常にお互いのことを考えていないといけない、というのはありました。 

宮沢:そもそも「豊饒の海」チームの仲が良くて。稽古の帰りにご飯を食べることも多かったですし、僕らはどちらかが早く終わったときは、どちらかが待っていることもよくありました。歳も近いですし。僕、そういう俳優さんがこれまであまり周りにいなくて。 

映像だと、撮影している最中は仲良くなるんですけど、終わるとそれぞれに別の仕事があるから、なかなか会えなくなってしまうことが多いんです。でも舞台だと、映像よりも一緒にいる期間は短いこともあるけど、その時間の濃度が濃いんですよね。 

そのときは、僕にとって2作目の舞台だったんですけど、ホントに毎日、自然と(大鶴と)一緒にいたので。温度感とかタイプは違うんですけど、ハマったんだろうなと思います。 

──プライベートでも芝居の話をしますか? 

大鶴:もう芝居の話ばっかりですね。 

宮沢:ただ芝居の話と言っても、「俺はこう思うんだ!こうしろ!」みたいなのは全くなくて。自分の意見を何となく「こうだと思うんだけど…」って言い合う、意見交換の場みたいな感覚です。何かを主張するわけではないので、思っていることを気持ちよく言えるんです。 

それに、たまに自分では正しいと思っていたことが、佐助くんに話してみると、違ったかも知れないって気づくこともあって。話すことで、自分の考えや気持ちに気づかされることも多いです。 

──お互いの好きなところも教えてもらえますか? 

大鶴:声がいいし、目がすごくキレイなところ。芝居をしていてもキレイな目をしているなって、つい思っちゃう。嘘をついてない、というか。それは役者として大事なことだと思います。 

宮沢:僕は佐助くんの肌ですかね。毛穴がないんですよ(笑)。 

大鶴:あるわ(笑) !

宮沢:卵みたいなツルツル肌の持ち主です(笑)。そこも好きなんですけど、他にもあります。舞台の本番期間って、僕はわりとジャージとかのゆるい恰好で劇場に入ってしまうんですけど、佐助くんはときどき全身セットアップとかで来るんですよ。気合を入れるためなのか、それを見るとカッコイイな、と思いますね。 

「豊饒の海」のときは、プレビューも含めて30公演以上あったんですけど。ずっと同じ芝居をやっていると、気持ちが切れるというか、モチベーションが保ちづらくなるときがあるんです。そういうときに自分でエンジンをかけて、うまくコントロールしているんだと思いました。 

大鶴:そんな大層な。その日の気分で着ているだけです(照笑)。 

今、舞台で演じることへの思い「ほんの少しだけ光が見えたような感じ」 

──コロナの影響を受けて、お2人の出演していた舞台「ピサロ」も途中で中止となってしまいましたが、そのような経験を経て、改めて舞台に立つ気持ちを聞かせてください。 

大鶴:繰り返しになる部分もありますが、多くの舞台ができなくなったり、劇場が潰れたりもしている状況ですし、地方の方の中には東京に来ること自体が怖い、という方もいると思うんです。そんな中でもやらせていただける、というのは、僕たちは芝居をするだけでなくて、それなりの責任を持たなくちゃいけないと思っています。覚悟が必要だと。 

宮沢:今までは出演が決まったら、よほどのことがない限り、ほぼ確実に公演をすることができていて、できないかもしれない、という不安に駆られたことは一回もなくて。でも今の状況だと今回の舞台も100%できるか?と言ったら、まだわからないですよね。 

もちろん僕らはやるつもりでいますし、そこに向かって一生懸命にやっていますけど、だからと言ってできるわけではない、当たり前じゃなかったんだ、というのをすごく感じています。舞台に立って、人前で何かができるというのは、すごく恵まれていて、意味があることなんですよね。 

そして、そんな状況で来てくださるお客さんも大げさな言い方かもしれないけど、命をかけてくれていると思うんです。演劇ってそのくらい、人にとって必要なものだとも思うし。その責任感というのは、今まで以上に感じています。 

──やはり観客の前で演じたい、という思いはありますか? 

宮沢:ありますね、もちろん。 

大鶴:役者はそうだと思います。お客さんがいると本当に力をもらえるんです。嘘みたいに聞こえるかも知れないですけど、こっちが芝居をすると、お客さんからパワーが返ってきて、そこに相乗効果が生まれる。あの力はすごいなと思います。 

僕は無観客でのオンライン舞台もやりましたけど、「これって届いているのかな?」って不安になることがありました。この間、久しぶりに劇場で「大地(Social Distancing Version)」を観劇しましたけど、劇場自体が喜んでいるように感じましたね。 

──宮沢さんは大鶴さんの「いかけしごむ」の配信を見たと言ってましたが、観客としてどう感じましたか? 

宮沢:すごく面白かったし、挑戦だと思ったし、いろいろ伝わってくるものは多かったです。ただ劇場で見る感覚とは違いますよね。自分の好きな場所で、好きな体制で、気楽に見られるのはいいんですけど、配信だと没頭するのは少し難しいかなとも思いました。 

劇場だと、みんな同じ方向を向いて、同じものを見ている一体感があるじゃないですか。その中で生まれるものは間違いなくある。これから配信という形は増えてくるとは思うんですけど、それは見方の一つだとは思います。 

大鶴:あと、劇場には匂いがあるよね。無観客でやってみると、より感じました。 

宮沢:わかる。あとは熱も。人が入るので実際の温度も多少上がるかもしれないんですけど、それ以上に見てくれる人の熱量を、演じていて感じます。 

大鶴:僕、姉との二人舞台をやるって決めたときは、こういうときだからこそ、受動的であるよりも能動的でなければいけないと考えていたんですよ。でも、ここまで状況が深刻化していくと、もう誰のせいでもないじゃないですか。だから今は能動的になることはいいことだと思うけど、それ以上にお客さんが見てくれていることへの感謝の気持ちを強く持つべきなのかなと考えるようになっています。 

宮沢:これからどうなっていくかわからないし、これをやろうって決めても、心の底からやろう!っていう気持ちになれない自分もいて。状況がどんどん悪化して、演劇が一切できなくなる可能性もないとは言えないし。だから手探りのまま突き進んでいる感じもしているけど、何もせずにはいられない。 

今回、こういう形で佐助くんと芝居ができることは、そこにほんの少しだけ光が見えたような感じはあるかなと思っていて。まだわからないですけど。その光を両手で包み込んで、消えないようにしたいと思っています。 

大鶴:その光を自分たちで消さないようにしなきゃね。

後編では、自身にとってのバイブルや過去の挫折経験など、2人の内面に迫るインタビューをお届けする。

「ボクの穴、彼の穴。」公式サイト

メイク(宮沢氷魚):KOSUKE ABE(traffic)