デビュー10周年という節目を迎えた福士蒼汰。俳優としてさまざまな役柄への挑戦はもちろん、アクションや語学への旺盛な探究心も知られている。
そんな福士が、次なる挑戦に選んだのが、綾野剛主演の『アバランチ』。演じているのは、警視庁特別犯罪対策室に所属する警察官・西城英輔。警察幹部の父親を持ち、捜査一課の刑事として将来を嘱望されるも、不正を働いた上司を殴り飛ばしてしまい左遷された、という役どころだ。
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アウトロー集団「アバランチ」の中で、もっとも視聴者の目線に近い西城を演じている福士に、作品の魅力、役柄について、今後の目標などを聞いた。
<福士蒼汰 インタビュー>
時間と労力をかけた作品づくりに感動「綾野剛さんの竜巻のような熱意に巻き込まれています」
――『アバランチ』は、内容もアクションも斬新なものに挑んでいるということですが、現場の雰囲気はいかがですか?
ものすごく高性能なカメラで撮影していますし、光や音などお芝居以外の部分にも、現場で生まれるアイデアを生かしています。これまでのドラマ作りでは考えられないほどの時間と労力をかけている作品なんです。
藤井道人監督を筆頭に、綾野さんの竜巻のような熱意に巻き込まれながら撮影していますが、その竜巻が作品としてものすごくいい方向に進んでいて。
第1話で藤井監督イズムの道が作られたので、第2話以降はそのペースを崩さないように、みんないい緊張感を持って臨んでいます。藤井監督と綾野さんが共鳴していて、すごい波長が生まれています。
「こんなことができるんだ」とか「こんなアイデアを持っているんだ」とか、それまで全然知らなかったことが次々と出てくるので、綾野さんに尊敬の念が湧きました。台本も素晴らしいですが、それ以上におもしろい作品になっていると思います。
どんなキャラクターにも変身できることが西城英輔のおもしろさ。だからピュアに演じている
――それぞれに心に傷を追い、信念を持って任務を遂行する「アバランチ」のメンバーに対し、福士さん演じる西城は巻き込まれ感が強く、異質な存在のように見えますが、どういう人物だと思いますか?
不思議ですが、他のメンバーにはそれぞれ信念も役割もあるから、そうでない西城が異質に見えますよね。でも、本来は西城が普通で、周りのメンバーが変なんですよ(笑)。
きっと視聴者の方も西城が異質だという印象を抱いていると思います。そこが、このドラマのおもしろい世界観じゃないでしょうか。
僕自身は、一般性とか共感性を重視して、西城が普通の人であればあるほど、それが違和感になっていくように演じていきたいなと思っています。
――そんな西城を演じる上で、もっとも大事にしていることは何ですか?
この後どうなるのか、僕自身もまったく知らされていないのですが、西城はいろんな描き方ができると思うんです。実は最初から「アバランチ」に潜入していたとか、途中でメンバーを裏切るとか、あるいは、単純に「アバランチ」の中で自分を見つけていくという西城の成長物語にもできるじゃないですか。
どんなふうにでも描けるキャラクターだからこそ、素直に純粋無垢に演じようと心がけています。
この先、西城と「アバランチ」の関係がどういう展開になっていったとしても、視聴者が西城の行動に納得できるように、きちんと愛されるキャラクターでいたいなと思います。
警察官としての立場と『アバランチ』との狭間で揺れ動く西城は、ブレるからこそ人間らしい
――「アバランチ」の活動に対する西城のモチベーションは、どう理解していますか?
先ほどの共感性にも含まれるのですが、あいまいな感じといいますか…。
世の中の人がみんな正義感を持って、夢ややりたいことに向かって突き進んでいるというわけではないじゃないですか。何も決まっていなくて、なんとなく生きていて、周りに流されながら過ごしている人も少なくないと思うんです。
西城はそういう人々を体現しているというか…。「そんなところまで考えが及んでいませんでした」という人間でいることで共感も生まれると思うし、揺るぎない正義感を持っているメンバーとのギャップにもなると思うんです。
普通は答えを出そうとしますよね。その方が一貫性のある人間になるから。でも、西城は一貫性がなく、ブレている人だからこそ人間らしいのかな、と。
警察官としての自分の立場と「アバランチ」の狭間で、どちらが正しいのかわからずに揺れている。その中で、だんだん自分の正義とかやるべきことが見えてくるのだと思います。
そういう意味でも、この作品は見る方がそれぞれいろいろなことを感じて、考える作品になると思います。そのためにも、僕自身はフラットでいたいですし、わからないことをわからないままにしておくことを大事にしています。
デビューして10年。仕事を通して自分自身を知ることができるようになった
――いろいろなことに挑戦され、走り続けている福士さんですが、デビューから10年の節目を目変えた今、改めて感じていることはありますか?
やっと、役者の道のスタートに立ったという感じがしています。これまでの10年は、めまぐるしかったというのもあるし、お芝居に悩むことばかりでした。
だけど、そうやって続けてきたことの芽がポツポツと出てきたと認識できるようになって、自分自身を知るきっかけにもなったのかな、と思っています。
この10年で、自分はどんな存在なのか、どんな性格なのかがわかってきたので、自分を信じて進んでいきたいと思うようになりました。
内省することが多いですし、自分はこれでいいのかと考えて落ち込むこともありますが、それを乗り越えると自分のことをより理解できるようになる。
「ああ、自分はこういうときに落ち込むんだ」と認識できると、その時はつらいけど、そこから収穫できるものもあります。その繰り返しで、自分の性格がわかってきました。
これからは自分の意志で動くことも大切。新たな扉を見つけたい
――これからまだまだやりたいことはたくさんありますか?
夢は広がっていて、やりたいことはたくさんあります。今までは、目の前の仕事をとにかく一生懸命やってきましたが、これからは自分の意志で動くことも大切だなと思っています。
その分、より責任が伴ってプレッシャーを感じるし、間違った時にはダメージを負うことになるだろうという怖さはあります。
でも、うまくいけばより一層の喜びになるのは間違いないので、新たな扉を見つけていきたいです。
――ちなみに、やってみたいことを1つ教えてもらえますか?
ボーダレスに仕事をしたいと思っています。固定概念を壊して、何かができたらいいな、と。言語が好きなので、いろいろな言語を使って何かやってみたいです。勉強するきっかけにもなりますから。
結果がないからまだ夢の話ですけど、新たな道を見つけていきたいと思います。
撮影/今井裕治