高橋由美子と鈴木拡樹が共演する舞台「時子さんのトキ」が9月11日(金)に初日を迎えるにあたり、マスコミ向けの公開稽古が同日、東京・よみうり大手町ホールで行われた。
「時子さんのトキ」は、離婚後に一人息子とも離れて暮らす時子が、路上シンガーの翔真と出会い、人生を大きく狂わされていく物語。約1年ぶりの舞台出演となる高橋が時子に扮し、鈴木が翔真と、時子の息子・登喜の2役を演じる。
開幕を目前に控え、高橋は「コロナウイルスが世界中で猛威をふるう情勢の中、こうしてお芝居の幕を開けさせていただけることに心から感謝を申し上げます。このような時に演劇を行うことへのご意見もあるかと思いますが、今、私にできることは駆け抜けることだけ。皆様に楽しみにお運びいただき、精一杯お迎えできるよう精進致します」とコメント。
鈴木は「9月11日から予定通り、舞台『時子さんのトキ』を開始致します。ご来場の皆様と特別な時間を過ごせることをうれしく思います。また、今回はアフタートークショーがある公演回もございます。お時間よろしければ、アフタートークショーも楽しんでください」とメッセージを寄せた。
そんな高橋と鈴木のほか、漫画家としての進境著しい矢部太郎が、時子の息子・登喜の小学生時代やNPO法人の職員に扮し(矢部は稽古の様子をパンフレットにて漫画でリポート)、多くの作品で唯一無二のコメディエンヌぶりを発揮している伊藤修子が、スナックのママや時子のママ友役で出演。
さらに、山口森広や豊原江理佳が物語を強力にサポートしているほか、作・演出を手掛ける田村孝裕は「人は人がいないとダメになる。でも、人をダメにするのも人である。そんなお芝居になりました。映画にもテレビにもYouTubeにも小説にもない演劇独自の空間を劇場や配信で体感していただけたら」とアピールしている。
物理的な距離と心の距離、双方を考えさせられる作品に
物語は冬の寒い夜、帰宅を急ぐ時子が広場を通りかかったところ、路上ライブを行う翔真と出会う場面からスタート。まったく関心のない時子だったが、なぜか足を止めてしまい、決してうまいとは言えない翔真の歌に聴きいってしまう。
鈴木といえば、役柄が憑依したような芝居と、役に入っていない状態の“凪”のような佇まいで人気の役者だが、冒頭の場面では満面の笑みを浮かべながら、時子へ向けて熱唱。
オーバーなアクションとともに、なんとか時子の心をつかもうと情熱的に訴えかけてくるその姿に新鮮な驚きを覚える。
対する高橋は、離婚によって生じた心の傷や、会いたくても会えない息子への寂しさをうめようと、翔真へ依存していく女性の悲壮感を体当たりで熱演。時子が明るく振る舞おうとすればするほど、その笑顔が痛々しく映る。
また、伊藤扮するスナックのママが店内で念入りに消毒を行ったり、客への検温をしきりに促したりするほか、役者陣がマスクやフェイスシールドを装着して登場する、コロナ禍のこの時期ならではの演出も随所にみられた。
詳細は明かせないが、それまで止まっていた広場の大時計や小便小僧が、ラストで息を吹き返したように突然動き出す。
感動的な一場面であると同時に、劇場の再開を祝福しているようにも、そして、劇場の灯を何としてでも守り続けるという演劇界からのメッセージにも受けとれた。
先だって、当サイト内の企画「眼福♡男子」で「(作品を観た方から)嫌われるかもしれない」とジョーク交じりで不安を口にしていた鈴木だが、残念ながらその懸念は杞憂に終わりそう。
どんな人物に仕上がっているのか、その答えは劇場、配信でぜひチェックしてほしい。
公演は本日から21日(月・祝)まで東京で行われた後、9月26日(土)・27日(日)には大阪・サンケイホールブリーゼで上演される。詳細は公式サイトで。
写真提供:エイベックス・エンタテインメント