7月4日(日)14時から、フジテレビでは、『ザ・ノンフィクション「ボクがなりたいもの〜芸人になる。 と上京した娘〜」』が放送され、語りを松岡茉優が担当する。

現在、27歳の幸世(さちよ)は、芸歴7年の売れないお笑い芸人。9年前、「東京でお笑い芸人になる」と言って家を出たが、毎月のように挑むオーディションやコンテストは落選続きで、芸人としての収入はゼロに近い。

女性として生まれた幸世は、中学生の頃に「自分は男性だ」と違和感を覚え始めた。家族や友人に打ち明けられないまま、高校卒業後、幼い頃からの夢だったお笑い芸人になるために上京。月に一度のホルモン注射で、少しずつ顔つきが男性らしくなり、声も低くなっていった。

幸世のネタは、自分自身の経験がベース。周囲から男性として認められなかった経験を「笑いにして伝えたい」とネタを作るが、ライブで披露しても客席から笑いは起こらず、戸惑いの空気が流れるばかり。自分を追い越して売れていく後輩芸人たちの姿に焦りが募る日々を過ごす。

そんな幸世が生まれ育った静岡には、両親と姉がいる。上京後に、カミングアウトされた両親は、幸世を理解しようと努めるも、今も複雑な気持ちを抱える。

元漁師の父親は、58歳の今も、睡眠時間を削り、水産加工工場など3つの仕事を掛け持ち、母親は占い師をして、幸世のサポートを続けている。いつまでも親を頼る幸世に憤る父は、芸人になった娘のネタを見ようとしない。

「芸人になるため」そして「男性になるため」に上京した娘とその両親。家族の葛藤に“語り”という形で寄り添った松岡は、何を思ったのか。収録後に聞いた。

<松岡茉優 インタビュー>

――『ザ・ノンフィクション』の語りを初めて担当されていかがでしたか?

『ザ・ノンフィクション』のシリーズは、子どものころから父や母がいつもとちょっと顔つきを変えて見ているような、大人の番組という印象がありました。大人になってからは、実感を持って見られるようになったのかな、と思います。

今回、ナレーションを読むにあたり、100%幸世さんの心に沿うことはできないかもしれませんが、幸世さんとご家族が見たときに、大きくがっかりしないように、「それは違うな」と思われないように、読みあげたいと思いました。

――語りで幸世さんに寄り添うような雰囲気を感じましたが、そんなことは意識されましたか?

幸世さんと私は同世代なのですが、やっぱり、私の周りにも芸人さんを目指していらっしゃる方はいて、俳優もそうですけども、エンタメはお金にならない時間が長いというのはあると思います。なので、幸世さんがご家族に何かプレゼントができたり、ごちそうができたりする日が1日でも早く来るといいな、そんなことを考えてはいました。

――幸世さんは、30歳になって食べられなければ芸人を辞める、と公言していますが、そんな幸世さんに声をかけるとしたら、どんなことを言いたいですか?

私の仕事もそうですが、表現をする仕事って、耐えられないくらいつらいことや、「なぜこんな目に遭うんだろう?」といったことも、表現として昇華させることができると、私は実感しています。

勝手なことは言えませんが、幸世さんにしか救えない人はいると思います。すごく明るいパワーのある方だと感じましたので、ぜひ光が当たらないところにその光を降り注がせてほしいなぁと思いました。

――ご自身にとっては、どんな印象を残した作品となりましたか?

ニュースを見ても、ジェンダーの問題について、日本は遅れを取ってしまっているという受け止め方もあると思います。歴史もあるでしょうし、なかなか受け入れがたい、という方がいるのもよくわかります。ただ私は、割と「性には多様性があるよ」っていう時代に育ったこともあり、ほとんど偏見がありません。

だから、幸世さんや私のような世代というのは、これからの誰かを生きやすくできる世代なんじゃないかなって。偏見がないんだから、偏見がある人たちとは戦わずに、「どうしてそう思うんだろう?」というスタンスで話し合っていけたらいいんじゃないかと思います。

今回取り上げた幸世さんの葛藤も、今までずっとあったんだろうけど、やっとみんなが“新しい価値観”として、認識してくれたものなんだろうなって。10年後に見たら、「なんでこんなことに悩んでるの?」と思えることになるかもしれない。そう思える時代が早く来たらいいな、と思っています。

――最後になりますが、改めて読者、視聴者にメッセージをいただけますか?

今回は多分、語り手のキャスティングが難しかったのでは、と勝手に想像しました。若い男性がいいのか、若い女性がいいのか、あるいは、親御さんのような世代の方がいいのか、たくさん選択肢がある中で選んでいただいたのかなと。「性別を感じさせない読み方があれば」と思ったのですが、やはり難しかったです。

番組には、幸世さんとご家族の生き様が刻まれています。ぜひ楽しみにしていただきたいです。