2024年8月15日(木)、映画『ムヒカ 世界でいちばん貧しい⼤統領から⽇本⼈へ』の野外上映イベントが東京・お台場海浜公園で開催され、映画の上映前には俳優の斎藤工さん、濱潤プロデューサー、田部井一真監督、フジテレビ西山喜久恵アナウンサーによるトークショーが行われました。斎藤工さんはトークショー終了直後の取材で田部井監督の素晴らしいクリエイティビティに感銘を受けたことを明かし、自身も監督としてドキュメンタリーを作ってみたい気持ちが「大いにある」と話しました。
公開から4年『ムヒカ 世界でいちばん貧しい⼤統領から⽇本⼈へ』に斎藤工「賞味期限がない映画という証拠」
8月15日(木)、『お台場冒険王2024〜⼈気者にアイ♥LAND〜』の⼀環として、2020年に公開され、第30回日本映画批評家⼤賞・ドキュメンタリー賞を受賞したドキュメンタリー映画『ムヒカ 世界でいちばん貧しい大統領から日本人へ』を「PARK CINEMA FESTIVAL in お台場海浜公園」として野外上映するイベントを開催。
映画上映前のトークショーに、俳優・映画監督として活躍する斎藤工さんと、映画の企画・プロデュースを担当した濱潤さん、監督を務めた田部井⼀真さん、フジテレビ西山喜久恵アナウンサーが登壇しました。
斎藤工さんは、浴衣をリメイクしたという夏らしい涼しげな衣装で登場。
まずは、お台場海浜公園で初めての実施となる野外上映について、濱プロデューサー、田部井監督、斎藤さんが思いを語りました。
濱プロデューサー:
この映画は野外で見ると本当に良い味のある映画になると思うので、この後もムヒカさんの魅力などをお伝えしたいと思いますが、ぜひ、映画をこの環境も含めて楽しんでいただけたらと思っています。
田部井監督:
まずは開催を実現してくださった皆様、本当にありがとうございます。映画を作るきっかけになったのが、ムヒカさんをずっと取材してきて撮りためたものを、みんなのものにしたい、いつでもみんなで見られるものにしたい、という思いだったので、本日こういった野外、しかも無料という形で皆様に見ていただけることを本当にうれしく思います。ありがとうございます。
斎藤工:
実はフジテレビさん、めざましテレビさんと一緒に、この10年、被災地での移動映画館「cinéma bird(シネマバード)」というイベントを開催させていただいていて、野外だったり避難所を映画館にしたり、“1日限りのお祭りを持っていく”ということを全国でやっておりまして、今年も3月に能登で開催させていただきました。
やはりこの素晴らしい映画は公開されてから年数は経っているんですけど、今日の気候であったり、周りにいるご友人だったり、知らない方も含めて世界で“この瞬間しかないもの”に、映画自体も一番最新の“食べ頃”のような機会を設けられる。「賞味期限がないものなんだな」というのは野外イベントをやる度に僕も学んでいます。なので、今日この環境で、この皆様と、田部井監督の素晴らしいドキュメンタリーを一緒に体感できることが嬉しく思っております。
西山アナ:
野外での運営の大先輩として斎藤さんにお越しいただいたんですけど、環境と映画が今日はバッチリと合っている?
斎藤工:
そうですね、嫌じゃなかったら肌足で砂浜を踏みしめたりしながら、風を味わいながら、日の行方を追いながら、映画と今日というこの瞬間を楽しんでいただけたらいいなと思います。
トークショーの後に上映された映画『ムヒカ 世界でいちばん貧しい大統領から日本人へ』は、2010年から5年間、南米・ウルグアイの大統領を務めたホセ・ムヒカ氏と日本の知られざる関係を描いたドキュメンタリー。
西山アナ:
まずは濱さん、ムヒカ元大統領がどういう人物かという話から。
濱プロデューサー:
2010年から2015年のウルグアイの大統領で、2012年に環境をテーマにした国連の会議で感動的なスピーチを行ってYouTubeで話題になり、そのスピーチが日本では『世界でいちばん貧しい大統領のスピーチ』という絵本になって有名になった方です。
田部井監督:
プロフィール上はそうなんですけど、本人は「貧しい大統領」というのは否定しておりまして、それはBBCが付けた名前なだけであって「自分は貧しくはない、質素なだけだ」ということで、そういう世界を作りたいということで「質素な生活をしたい人はすればいいし、お金を追求することを否定するものではない」というふうには言っているんですけれども、そういった愛称で非常に話題になった人であります。
収入の大半を寄付し、公邸に住むことを拒み、愛妻と愛犬と共に小さな農場で質素な暮らしを続け、「世界で最も貧しい大統領」とも言われたムヒカ氏は、2012年にブラジル・リオデジャネイロで開かれた国連会議で、先進国の大量消費社会を優しい口調ながら痛烈に批判。
その感動的なスピーチが、世界中で大きな話題を呼びました。
濱プロデューサー:
斎藤さんは当時のムヒカさんはご存じでしたか?
斎藤工:
ニュースで拝見する限りでは存じておりましたが、旧ユーゴスラビア出身のエミール・クストリッツァという監督のドキュメンタリーで拝見したのが、彼のビハインドというか、10数年間獄中にいて、そのあと大統領になって国連のスピーチが印象的だったというのもありますが、やはり印象的なのは月収を大統領だからといって特別なものにするんじゃなくて、必要最低限の月収で、しかもその約7割を貧困層に配布するということを当たり前にしていた。
発言と行動がこんなに一致していた大統領および政治家は、いまだかつてムヒカさんを超える人はいないんじゃないかなと今も認識しています。
西山アナ:
そのムヒカさんを取材するきっかけとなったのはどういうところだったのでしょうか?
濱プロデューサー:
今も放送している『Mr.サンデー』という日曜夜の番組の、当時、私がプロデューサーで田部井監督が一番若いディレクターだったよね。
まさにムヒカ大統領というのは清廉な政治家で、国連でスピーチをして感動的。
に加えて、これは言葉を選ばず言うと、情報番組的に「おいしいな」と思ったのが、大統領が出勤する途中に工場労働者がヒッチハイクを求めて、そのヒッチハイカーを大統領が車を止めて乗っけて工場まで送ってあげたりとか、いろんな面白いエピソードに事欠かない大統領がいるというのを番組の会議で見つけて、この大統領は面白そうだし、斎藤さんが仰っていただいたみたいに、いろいろ掘っていくと本当にユニークで価値のある政治家なんだなということが分かって、取材に行こうと思いました。
ただウルグアイの当時大統領、地球の裏側の大統領で、僕らには何のツテもなくて、でも実はそのときに2週間後に大統領を辞めるというタイミングで、大統領を辞めるまでに取材に行きたいなということで、当時一番若くて体力があってスペイン語はできないけど英語もできた田部井に「地球の裏側までムヒカ大統領を取材に行ってくれないかな?」と。
プロデューサーとして今だったらハラスメントで訴えられるかもしれないですけど「ムヒカ大統領のインタビュー撮ってくるまで帰ってこなくて良いから」っていう風にある種、片道切符で…
田部井監督:
もうちょっと怖いトーンでした(笑)
濱プロデューサー:
で、取材に行ってもらったっていうのが最初のきっかけです。
西山アナ:
でも行ったら田部井さん、変わりましたね人生が。
田部井監督:
そうですね。当時2015年の2月だったんですけど、本当に何も考えてなくて、上司から言われたことを忠実に行う、「よし出来た」で終わるはずだったんですけども、その放送が大きな反響があったので、今度は日本に呼べないか、ということで大きなプロジェクトになりまして、1年後の2016年4月に来日いただくということで、ここでも終わるはずだったんですけども、そこから何故か映画になってしまったという流れになりますね。
ムヒカ大統領を取材した田部井監督は、ムヒカ大統領が日本の歴史や文化にとても詳しく、日本をリスペクトしていることに驚かされ、大統領退任後もムヒカ氏の取材を重ね、多くの日本人に彼の言葉を聞いて欲しいと願うようになります。
ムヒカ氏も訪日を熱望し、2016年に初来日を果たします。
西山アナ:
斎藤さんも映画をご覧になってくださったということですけども、取材対象者へ入り込んでいく様って、観ていてどう感じられましたか?
斎藤工:
ちょっとネタバレじゃないとは思うんですけども、冒頭に田部井監督のプライベートな部分が流れて、それと末尾につくパートがあるんですけども、それが全てですね。
そして取材の中でも日本人、日本という文化に対してとてもご縁がある、南米と日系の日本人の歴史というものが深く関わってくるので。
この作品は菊という花が関係してくるんですけど、そういう事実もね、みなさんこれから知っていかれることで、ムヒカ元大統領の功績の記録、田部井さんの受け取った“種(タネ)”が花咲く瞬間が見られるんじゃないかと思います。
西山アナ:
いっぱい良いワードがあって紹介したいんですけど、ネタバレになってしまうので言いづらいとは思うんですけど、映画の見どころを。
濱プロデューサー:
見どころは、僕らとしてこの映画を作ったのは、田部井監督がムヒカ元大統領に魅せられて、その人生をとても興味を持って心酔して作った映画です。
なので斎藤さんがおっしゃったように、冒頭は全然関係なさそうな田部井監督のプライベートから始まるんですけど、それは映画を見ていただくと分かりますけど、本当に彼がムヒカ大統領に心酔していたっていうことと、日本の観客にムヒカさんの魅力を伝えるのに客観的に「ムヒカ大統領ってこういう人でしたよ」って伝えてもちょっと伝わりづらいので、1人の熱量を持った男がどうムヒカ元大統領を見たかを伝えた方が日本の観客には分かりやすいかなと思って、あえて田部井監督の1人称のドキュメンタリーになっています。
田部井監督:
先ほど斎藤さんもおっしゃったように、非常に著名なエミール・クストリッツァ監督もムヒカさんを撮っていますし、NetflixとかAmazonとかで「ムヒカ」って打つと多分、映画が出てくるぐらい、いろんな方がいろんなアプローチでムヒカさんを描いてきたんですけれども、唯一「ムヒカと日本」っていうテーマだけはどこにもなくて、書籍にも当時なくて、国会図書館に行って調べたりとか、本当に人づてに人を紹介していただいてストーリーを聞いたりとか、そういう形で一つ一つのエピソードを掘り起こして作ったという形になります。
あとは補足すると、当時、報道を覚えている方もいらっしゃると思うんですけど、僕たちとしても「どうしてもムヒカさんという人を知ってほしいな」と思って番組で一生懸命、伝えてきたんですけども、僕があるとき思ったのは、熱量を高く伝えたが故に「一瞬でムヒカさんの言葉がかき消されてしまうな」というか、「大量消費社会を批判した政治家を紹介しておきながら自らテレビという枠で消費してしまっているな」という感覚があって、それはテレビが悪いわけではなくて、僕の伝え方がとても至らなかったなという思いがとてもあったので、原動力となったのは「映画にすがるしかなかった」というか、自分に対する苛立ちから「何とか映画にしたいな」という思いで作りました。
なので、斎藤さんの前で監督とか映画について語るのはおこがましいんですけど、僕はもう「映画を通して皆さんに知っていただきたい」っていうだけの思いで作ったので、本当に今日はめちゃくちゃありがたい機会でございます。ありがとうございます。
西山アナ:
斎藤さんは映画が本当にお好きで、映画のパワーというものも、すごく魅力を感じてらっしゃると思うんですけれども、改めてこの映画をお薦めするとしたら、どんな言葉がありますか?
斎藤工:
そうですね…やはり来日されて、世界中に対してじゃなくて、これからの日本を担う若者に向けた講演のやり取り、言葉がやっぱり非常に印象的でした。
「150年前の日本人、日本の文化なら共感できるだろう」ということをしきりにおっしゃっていて、かつて僕らの文化にどれだけ豊かな思考が生活があったかっていうことを、「1000年以上続いた文化が」っておっしゃっていたんですけど。
多分、僕が個人的に研究している縄文時代のことなのかなと。縄文は1万年以上続いていたりするんですけど、何かそこで僕らのルーツだったりそういったものをムヒカさんも理解して、僕らに分かりやすい言葉として届けてくださっている。
これは日本人である僕らが受け止めるべき、すごくこう、愛のフィルターがかかった作品になっているなと思いますね。
西山アナ:
さあ、いよいよこれから観ていただくんですが、最後に、どういう風に観て欲しいですとかメッセージがあったら、濱さんからお願いします。
濱プロデューサー:
先ほどもちょっと言いましたけど、この映画を観ていただきたいっていうよりも、この映画を通じてムヒカさんが発信している言葉、メッセージをぜひ覚えていただきたい、聴いていただきたいなと思います。
特に後半に外語大で日本の若者に向けてスピーチをするんですけど、そのスピーチは当時テレビの放送でもしたんですけど、やっぱりその言葉、スピーチを聞いていて、私と田部井監督は、この言葉は1回の放送で終わらせたくないなと思いました。
「これは形に残したいな」って強く思って、それから5年かけて映画にしました。
で、映画を公開して4年経って、またこのような形で皆さんにお伝えできることを私は本当に嬉しく思ってるんですが、そのムヒカさんの言葉を、多分皆さんそれぞれ違う言葉が印象に残ると思いますが、ぜひその言葉を持ち帰っていただけたらなというふうに思っています。
田部井監督:
ムヒカさんが日本に来た時に、どこに行きたいですか?って聞いたんですけど、すぐ答えられたのが広島と沖縄だったんですね。
広島に実際に行かれた時は結構足が悪かったんですけど、「自分の足で歩きたい」ということで、1回も車などは使わずにいろんな各地を回ったということがありました。
今日は8月15日で終戦の日なんですよね。
そういう思いを直接込めたわけではないんですけれども、日本人が辿ってきた道とこれから行く道、みたいなところがもしかしたら入っているのか、あるいは感じられる内容になっているかなと思っておりますので、今日という日に見るという意味もとても貴重だと思いますので、ぜひ最後までごゆっくりご観覧いただければと思います。
西山アナ:
私も広島出身者として、ムヒカさんが原爆ドームを見ていて、動かなくなってましたよね、ちょっと。
ネタバレになるのでもうこれ以上は言えないんですけれども、そういったシーンでも本当に、「平和」ということも何かこの映画の中に訴えるものが入っているのかなと思っております。
斎藤工:
監督の後に恐縮なんですけれど、「人間だけが同じ石につまずく」という言葉が、僕はもう、それが全てだなと思っております。
人間というものは何なのかということをですね、ムヒカさんに日本の文化を通じて、この終戦の日に教えて頂く、そんな気がしますし、あとすごく印象的だったのが、ムヒカさんが来日した時に銀座の街並みを見て「どうして日本人はこんなにきれいな日本人がたくさんいるのに西洋のモデルを使うんだ」と言う。それがなんていうんですかね、すごくそのモデルさんだけじゃなくて全てにおいて、今僕らが持っている本当の宝っていうものは何なのかっていうことを、職業柄もそうですし、いち日本人として、とても深く自分の中に響いた言葉がたくさんあります。
とはいえ教科書的な、授業的な時間にこれからしてほしいということではなくですね、今日の風、今日の砂、今日の天気、時間をみんなで共有して、地球の裏側のおじいちゃんのくれたもの、そんな“種”を、是非みなさんお持ち帰りいただけたら嬉しく思います。
西山アナ:
ありがとうございました。もう田部井監督は感無量な感じが...
田部井監督:
感無量ですね。公開して4年後にこんなことが待ってたなんてもう、本当にありがとうございます。
斎藤工:
“賞味期限がない映画”という証拠だと思います。
斎藤工さんはトークショー後に取材に応じ、「今後作ってみたい気持ちは大いにあります」とドキュメンタリー作品の監督に意欲を見せました。
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