3月6日(土)21時より、フジテレビでは、スペシャルドラマ 土曜プレミアム『死との約束』が放送される。
『オリエント急行殺人事件』(2015年)、『黒井戸殺し』(2018年)に続く、「野村萬斎主演×原作・アガサ・クリスティ×脚本・三谷幸喜」の夢のコラボレーション、待望のシリーズ第3弾。
このたび、シリーズ3作目、3年ぶりに主演の名探偵・勝呂武尊を演じる野村萬斎に作品への思いを聞いた。
<野村萬斎 コメント>
――この作品の話を聞いたときの気持ちは?
三谷さんは、すでに『黒井戸殺し』を撮影しているころから今作の構想がおありだったようで、「次回は勝呂が淡い恋をする…」とおっしゃっていたんです。その通り、今回は女性に囲まれている!という、とても華やいだ心地でした(笑)。
今までの勝呂は“風変わりな小男”というイメージがありましたが、シリーズを追うごとに、人間味を増してきている気がしました。
――三谷さんの脚本の魅力とは?
“楽しく読み進める小説のような感覚が三谷さんのこのシリーズにはある”という感想をよくいただきます。
アガサ・クリスティの原作を好んでいる方からすると、ポワロってちょっと嫌なやつということも含めて、原作に忠実であってこそ面白い。それをまさしく三谷マジックが日本人の感覚でも受け入れやすい作品に仕上げたと思っています。
今回もエルサレム、死海を熊野古道に置き換えるというところとか、ほかにも「ABC殺人事件」を「いろは殺人事件」に言い換えるとか、そういうウイットに富んだ変換術も非常に面白いですし、演じていてもとても楽しいんですよ。
――勝呂のキャラクターがなじんできたという実感はありますか?
3作目にしてある程度投球方法も定まってきたところはありますね。豪華な役者さんたちとの演技やセリフのキャッチボールもどんどん楽しくなってきました。
ポワロ自身は少し憎たらしくて、露悪的なところがあったり、卑劣だったり。勧善懲悪ではあるものの、格好いい系とはちょっとちがう探偵です。でも、どこか正義感は持っているところが、このキャラクターの魅力だと、改めて今回演じながら思いました。
三谷さんの好きな探偵は、くせ者が多いかもしれませんね(笑)。
――前作から3年のインターバルがありましたが?
さすがに3回目になりましたので、勝呂のスタイルもある意味確立されてきて、すっと入りやすくなりました。ヒゲのように、象徴的なものを身につけると勝呂の話し方に自然と入りやすくなるので、ヒゲは演じる上での助けにもなっています。
“三谷節”をやっているとだんだん“ちょっと古畑任三郎ぽいかな?”と思うような間ができてくることがありますが(笑)、そこは勝呂なりの間に変えられるようになってきたような気がします。
どうしてもしゃべりが中心になってくるので、動きの部分ででもバリエーションをだしていきたいと、無声映画のチャップリンみたいな動きを初回からやっているのですが、意識して強調しているところもあるかもしれません。
今回は、昭和30年という設定で、一種の時代劇だとも思うんです。その様式美とかある種のパターン化された動きも許されると思うので、そういう楽しみ方もできると思います。また、今回も衣装が素晴らしいですね。大正モダニズムから戦後の洋服の流れも興味深いのではないでしょうか。みなさん、本当に格好いいんです。
――3作目にしてもっともややこしい事件ということです。
ややこしくてねぇ、謎解きが大変でした(笑)。自分でも何をしゃべっているのかわからないくらいややこしくて。オセロゲームで角を置くと全部色が変わっていくような、すべてが裏返っていくどんでん返しと、そのための伏線が本当によくできているなぁと思います。
今回の脚本は、ご覧になっているみなさんが、“裏切られる展開”かもしれません。トリックも、これまでとは全然違うんです。『オリエント急行殺人事件』、『黒井戸殺し』そして今作と、勝呂は共通ですが、第3弾によって、それぞれ1本1本のアイデンティティがはっきりとしてきたと思います。そこが今回の魅力でもあると思います。
――撮影現場の雰囲気はいかがでしたか?
松坂慶子さんから原菜乃佳さんまで幅広い世代のみなさんがご一緒でバラエティに富んでいたのが面白かったですね。松坂さんは、あこがれの銀幕のスターの一人ですし、シルビア・グラブさんや山本耕史さんはこれまでご一緒したことがなかったので、今回スリリングな駆け引きができたのも楽しかったです。
勝呂は嫌なやつですから、わざと怒らせて言葉を引き出すような駆け引きをうまくするには、はめられる側のリアクションも重要です。押して押していくんだけれどもそれが実は罠(わな)だったというような演技の掛け合いが楽しめました。
また、若い方々のナチュラルな演技も新鮮でしたね。そして、鈴木京香さんはお美しい方ですが、実はとてもはつらつとした明るい方で、三谷さんがお好きな女優さんだということがよくわかりました。僕もすっかり京香さんのファンになりました。
――もし次回作があったとしたら演じてみたい原作、トリックなどはありますか?
イギリス映画でポアロを演じているケネス・ブラナーに対抗していきたいですね(笑)。すでに三谷さんは次の作品を構想しているというのが、実は我々の耳には入ってきています。でも毎回すごい量のセリフ劇なので、今から戦々恐々ですが。
――改めて『死との約束』の魅力を教えてください。
“家族”がテーマになっているということでしょうか。それと“旅”というもののロマンであり不思議さというものが実は大きなテーマになっています。人と人がその場所で出会う偶然性を含めた、旅の面白さというもの…家族と旅人と。コロナ禍で、みなさん旅がなかなかできないと思いますが、この作品で旅行気分を味わっていただけたらと思います。
――視聴者のみなさんにメッセージをお願いします。
第3弾の今作は、過去の2作品とは全く異なる側面をもった、とても非常にスリリングな作品になっていると思います。このトリックの面白さを手に汗握りながらご覧いただきたいですね。
場所も熊野古道という日本の神秘のパワースポットということもあって、絵としても非常に楽しんでいただけるのでないかと思います。
そして何より、三谷組のおなじみの役者さんをはじめ、素晴らしいキャスト陣がとても熱いお芝居を繰り広げています。もちろん三谷さんならではの笑えるポイントも随所に盛り込まれていて、ぜいたくな作品に仕上がっていますので、ぜひお楽しみください。
<あらすじ>
休暇で和歌山の熊野古道を訪れた勝呂武尊(野村萬斎)は、ホテルのラウンジで医学書を読んでいた医師の沙羅絹子(比嘉愛未)に声をかける。沙羅は勝呂のことを新聞で見て知っていたため、二人はすぐに打ち解ける。
そこに、本堂家の夫人(松坂慶子)、次男の主水(市原隼人)、長女の鏡子(堀田真由)、次女の絢奈(原菜乃華)がやってくる。どこか異様な雰囲気をかもしだす夫人は、やってくるなりホテルのスタッフをどなりつけ、子どもたちにはあれこれと命令し始める。さらに遅れて、長男の礼一郎(山本耕史)と妻の凪子(シルビア・グラブ)もやってくる。
夫人の言動は、まるで一家の独裁者のようで、子どもたちはみな完全に彼女の支配下に置かれていた。その風変りな家族の様子に、勝呂はあっけにとられてしまう。一家と古くからのつきあいがあるという男・十文字幸太(坪倉由幸)によると、主である本堂氏が、家族が一生遊んで暮らしていけるほどの十分なお金を残して死んだため、本堂家は家族全員で日本中を旅しているのだという。
沙羅から誘われて本宮大社を訪れ、散策をしていた勝呂は背後から声をかけられる。振り返ると、婦人代議士・上杉穂波(鈴木京香)と編集者の飛鳥ハナ(長野里美)だった。穂波は、自分を見つめ直すために熊野を訪れたというが、どうやら勝呂とは古くからつきあいがあるようだ。
二日後、貸し切りバスで古道散策ツアーに向かった本堂一家と勝呂、沙羅、穂波、飛鳥。霊峰と言われる熊野には神秘的な山道が多く、昔から天狗(てんぐ)の目撃談も後を絶たない。そんな中、参道沿いのベンチで休んでいたはずの本堂夫人が、遺体となって発見される。
地元の警察署長・川張大作(阿南健治)に事件解決を要請された勝呂は、早速捜査をはじめる。夫人は普段から心臓が弱かったというのだが、勝呂は、その右腕に注射針の後を発見する。
勝呂は、ホテルに到着した晩に、偶然耳にした言葉をふと思い出す。「分からないのか、こうなったらもう殺すしかないんだっ」。ぎくしゃくしていた家族の誰にも動機があり、全員に殺害するチャンスがあった。
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