すゑひろがりずインタビュー!10周年で第一章終了「第二章は“おめでたい枠”に足場を置いていきたい」
狂言風のネタで人気のすゑひろがりず(南條庄助・三島達矢)が、今年で結成10周年を迎え、春から夏にかけて全国ツアー「すゑひろがりず結成拾周年全国行脚~諸国漫遊記~」を敢行。
千秋楽では、観世能楽堂(東京)という格式高い舞台で単独ライブを行った。
その単独ライブはDVDで発売、さらにデビューデジタルシングル「雅-MIYABI-」をリリースするなど、華々しい10周年を迎えている彼らが、今度は初の書籍「すゑひろがりずのをかしな和風会話」を上梓した。
現代社会を想定した50の和風会話術が掲載されている本書は、学校やビジネス、プライベート、はたまたLINEでの会話など、さまざまなシーンで使える「をかし」(=興味深い)な例文が楽しいイラストとともに紹介。クスッと笑いながら楽しく和風会話を身につけることができるというもの。
フジテレビュー!!では、本書を出版するにいたった経緯やこだわった点などについて聞くとともに、この10年を振り返って思うことについても語ってもらった。
<すゑひろがりず インタビュー>
「ピストルを撃ってる人がザビエル!こういうところ、みなさんにも気づいてほしい」(三島)
――「すゑひろがりずのをかしな和風会話」を出版することになったのは、どういう経緯からですか?
南條:だいぶ前に、ちょっと面白い古典の単語帳みたいなものを出せたらいいなとは言っていたんですけど、単語帳ともなると(単語が)むちゃくちゃいっぱいあるし、難しいということで一旦話が止まっていたんです。
そんな中、今回、本書を監修してくださった東大マンという作家さんが「ぜひやりましょう」と言ってくださって。単語を揃えて、枠組みを作って「これなら実際に使えます」というものをいっぱい持ってきてくださった。それを、みんなであーだこーだ言いながら会話風にしていきました。
――現代の会話を古典で言い換えているのが面白いですが、特に心掛けたことはありますか?
三島:古典って、普通に読んでもなかなかわからないので、そうはならないように、というのは思いました。イラストと一緒に見てもらえれば、なんとなくやりとりの意味がわかるようになっているというか。わかりやすさということに重点を置きました。
南條:いや、実はこの作業、普段やらないことなので、全体的にかなり難しかったんですよ。「そういえば僕ら、普段あんまり古典単語使ってなかったな(笑)」って。
お客さんにわかるように、僕らが勝手に考えた造語とか、そんなものを和風に言っていただけであって、ちゃんとした古典単語ってほとんど使ってなくて。だから、いざそれをやりとりの中に入れようとしたら「あれ?なんか難しいなあ」ということだらけでした。
三島:実際のところ、ネタでは「かたじけない」とか「やんごとなし」とか「はなはだしい」とか、今でもまだ使う人がちょっといそうな言葉を使って、“古典っぽく”見せているだけだから(笑)。
南條:というのも、古典単語を使っても、意味が通じないとウケないんですよね。ホンマはガンガン使いたいんですけど、意味がわからないとウケないから使ってなかったんです。だから、これを出すことでみなさんにちょっと古典単語を覚えていただいて、僕らもネタで使えるようになったらいいなって(笑)。
面白くしようと思うと「ちょっと難しいな」となったりすることも多かったから、イラストにもだいぶ助けてもらってますしね。
三島:イラストは、すごくいいなと思いました。めちゃくちゃかわいくて、色もポップなんです。
南條:本当の学習書じゃないので、“ちょっとだけ面白い”という要素は絶対必要だと思って、そこは気をつけましたし、苦労したところでもあります。最初に持ってきた例題を見ると、少し固かったり、このままだとわかりづらいなというものもあったので、わかりやすくした上でちょっとだけ面白く感じるやりとりにするのに苦労しました。
――本書の中で、特に気に入っているところや、今後ネタでも使いたいと思うような古典単語はありますか?
三島:「いみじ」(「大変良い」「大変ひどい」という意味。どちらの意味かは文脈から判断する必要がある)ですね。「いみじ」は、かなり万能というか。ポップな感じもちょっとしますし、いいですね。
あとは、「一緒にゴールしよう!」と約束した相手が、スタートしたら先に行ってしまうという、マラソン大会の“あるある”を紹介した例文で、そこに描かれたイラストのスターター、ピストルを撃ってる人がザビエルなんですよ。
“鉄砲を持っている”というところから、ザビエルにしてくれてるんですよね。こういうところ、いいなと思うので、みなさんにも気づいてほしいです。
南條:僕は「なのめなり」と「おぼろけなり」という言葉ですね。この2つには「普通だ」という意味と「格別だ」という逆の意味とがあるんです。
これは古典でよくある“文脈で判断してください”のパターンで、「をかし」とかもそうやと思うんですけど、いいところでもあり、ちょっとややこしいところでもあるのが面白いなあと思いますね。今の若い人の言葉で言うと「ヤバイっすね」みたいな。
「マジヤバイっすね、それ」って言ってるときは、適当に返したいときとかですもんね(笑)。今も昔も、国民性は変わってないんやなっていう気がしますね。
――本作は学生を始め、老若男女が楽しめますが、特にこういう人に読んでほしい!というのはありますか?
三島:雅(※)な方!雅な方には、全員読んでいただきたいですね。
(※)雅(みやび)…上品で優雅、風流な様を言う。
南條:僕は、古典が嫌いな人に。やっぱり、僕も単語帳とかあんまり好きじゃなかったし、学生のころは「うわ~、次の授業古典かぁ…」みたいな感じだったんですけど、これでちょっとだけでも興味を持ってもらえたらいいなって。ほんまに入り口の入り口ですけどね。
「ちゃんとバカバカしい感じというのも、もうちょっとやった方がいいのかな」(南條)
――今年、10周年を迎えましたが、この10年を振り返って、特に印象深い出来事は?
三島:それは「M-1グランプリ」(※)になりますね。
(※)2016年「M-1グランプリ」2016準々決勝進出。2019年「M-1グランプリ2019」決勝進出。
南條:「M-1」以外ないですね。
三島:衝撃でしたね、やっぱり。「ああ、行けるんや」みたいな。それまでは、本当に地方の小さい営業に行かせてもらっていたのが、急にフェスだとか大舞台でやることが多くなってきた感じがするのは、やっぱり「M-1」と「どうぶつの森」のYouTube(※)のおかげなのかなっていう。
(※)YouTubeで「あつまれどうぶつの森」を狂言風にゲーム実況し、大人気に。
というか、「僕らって何のイメージがありますか?」って聞いたら、たぶんその2つしか挙がらないんじゃないかな。それをまだ更新できてないから、何かまた新しいものができたらいいなと思ってます。
南條:やっぱり決勝に行けたっていうのは、最大の出来事でしたね。まぁ、準決(勝に)いけたときも「ウワッ!」ってビックリしたんですけど。その年(2019年)、目標にしてたのが準決やったんで。
決勝のときはもうホンマに、あんまり覚えてないんです。だから、2019年の「M-1」の年がいちばん印象的でした。その次に印象的だったのは、最初に伝統芸能風のショートコントをやってめっちゃウケたことですね。
――次の10年に向けて、これからはどんなことをやっていきたいですか?
三島:10周年を迎えたことで「第一章終了」という感じがしています。これで1回ピリオドを打つといいますか、歌もDVDも出して。ここから第二章だなという感じがしています。僕はずっと、“おめでた芸人”と言えば~といったところで名前が挙がる芸人になりたいというのがあって。
――お正月に呼ばれたりするような?
三島:そうです。海老一染之助・染太郎さん(※)のような。だから、これまでの10年はそのための第一章と言っても過言ではないというか。そうなるためには有名にならなきゃいけないというのがあって、「知名度を上げるためにがんばるか」という感じだったので。
(※)海老一染之助・染太郎…実の兄弟による伝統演芸「太神楽師」コンビ。「おめでとうございま〜す」と言いながら、和傘の上で毬を回すなどの芸で、正月のテレビ番組には欠かせない存在だった。
やっぱり知名度がないと。営業先でも、知らない芸人より、知っている芸人のほうが喜ばれるわけですし。
そのためにはもっと、テレビやYouTubeなんかで知っていただく必要がありましたが、そこはある程度いけたんじゃないかな、と感じています。ここからは、“定番芸人”といいますか、“おめでたい枠”に足場を置いて、「これでご飯を食べていくんだ」という気持ちでいきたいと思っています。
そういう意味では、この装いといいますかビジュアルも、賞レースなどで優勝すること以上に「深い爪あとを残してやる」という点で成功したんじゃないかと思っています。晴れ舞台で、記録より記憶に残ることができたのかな、と。
南條:とにかくこの1年、特に年明けぐらいからは、ババッといろいろなことをやりすぎたと思っているくらいでして…。売れてる人は「これくらいあたりまえやろ」って言うかもしれないですけど、僕らからしたら今までのペースがあまりにも遅かったので(笑)。急にブレーキもエンジンも熱なってオーバーヒートするぐらいガーッとなっている感じなんです。
ただ、ある先輩が「止まったら、そこでもう終わりやから」みたいなことを言っていたので、確かにペースは速いとは思うけど、なんとなく止めることはしたらあかんなとは思っています。
ただ、観世能楽堂でやらせてもらったり、歌や本を出したり、なんとなく格式を上げすぎてるなと思うんで…(笑)。
三島:(苦笑)。
南條:もともと、地下ライブで下ネタやってスベったりとか、むちゃくちゃしてたので、本来の、ちゃんとバカバカしい感じというのも、もうちょっとしっかりやった方がいいのかなと思います。
今、なんか側(がわ)だけきれいにしてもらってる感じがするんで、本来のお笑いの感じをちゃんとがんばらないと、って。
――それでは、最後にお願いがあるのですが…。「フジテレビュー!!」を和風にしていただけませんか?
南條 :(笑)。
三島:……富士山眼(まなこ)。
――お見事(笑)! ありがとうございました!
<最高のポンをお見舞い!動画メッセージはこちら>
「すゑひろがりずの をかしな和風会話」
すゑひろがりず
2021年9月15日(水)発売
定価1,430円(税込)
取材・文:落合由希
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