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<試写室>自分を見守ってくれる人がいることが、すでに奇跡かも。肝っ玉母さんと自閉症の息子の物語「梅切らぬバカ」_site_large

<試写室>自分を見守ってくれる人がいることが、すでに奇跡かも。肝っ玉母さんと自閉症の息子の物語「梅切らぬバカ」

11月12日(金)全国公開 映画「梅切らぬバカ」

めざましmedia編集部

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当たり前だと思うものこそ、実は一番かけがえがない――この言い古された言葉は、頭でわかっていても、忙しい日々の中で忘れがちになるものだ。

11月12日(金)から公開される映画「梅切らぬバカ」は、“ささやかな出来事”を積み重ねて描くことで、見失っていた幸せを思い出させてくれる作品だ。

若手映画作家を育てる「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト」の長編映画として選出・制作された本作を手がけたのは、ドキュメンタリー映画の編集に携わり、障がい者の住まい問題に接してきた和島香太郎監督。加賀まりこが54年ぶりに主演を務めたことも話題となっている。

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息子に注がれる珠子の視線は愛おしさにあふれ、自分亡き後の息子の未来を思う心は切ない

加賀演じる母親・山田珠子と、自閉症を抱える息子・“ちゅうさん”(塚地武雅)は、そこだけ昭和で時が止まったかのような古民家で暮らしている。軽口をたたきながら息子の世話をする珠子と、分刻みのルーティーンをかたくなに守る息子の日常は、判を押したように同じだ。

ちゅうさんの1日は、6時45分の起床から始まる。きちんと布団をたたみ、着替えをして、6時55分にトイレへ。7時1分に珠子にヒゲを剃ってもらい、7時3分に歯磨き、7時10分にトーストに目玉焼きとサラダの朝食。「30回噛みましょう」と珠子に言われ、「はい」と答えてキッチリ30回数えて噛み、飲み込む。

この朝のシーンだけで、何十年も共に生きてきた親子の暮らしが想像できる。コミカルでありながら、「あ・うん」の呼吸で流れるように動く加賀と塚地は、まるで本物の親子のようで、一気に2人の生きている世界に引き込まれる。

そう感じるのは、加賀の徹底した役作りだろう。白髪の根元が伸びた髪を引っつめにし、履き古したズボンに割烹着姿で台所に立つ姿は、自閉症の大きな息子に振り回され、自分の身だしなみまで手が回らないであろうせわしない生活を想像させる。

ちゅうさんよりも早く起きて朝食を作り、家事と仕事をしながら、ちゅうさんの散髪をし、ヒゲを剃り、爪を切る。50年間、息子を甲斐甲斐しく世話してきた珠子は、「自分がいないと、この子は生きていけない」、きっとそう思って生きてきたのだろう。“大きな子供”に向ける視線には、愛おしさがあふれている。

「梅切らぬバカ」に出演する加賀まりこ(左)、塚地武雅
珠子(加賀まりこ)は、50年間、息子の身の回りの世話をしている。しかし、ちゅうさん(塚地武雅)の夢は「お嫁さんをもらうこと」

ところが、息子の50歳の誕生日に、ふと気づく。「このまま共倒れになっちゃうのかね?」。自らも老いを感じてきた珠子から吐き出されたこの一言は、見る側の心をドキリとさせ、母亡き後の息子の未来を連想させる。

そんな珠子の生業は、「素直なだけが取り柄」の占い師。歯に衣着せぬ物言いで、女性たちの悩みを一刀両断するが、それは、自分の経験からにじみ出る核心を突いたアドバイス。

「父親といい関係を築けなかった女は、落としやすいんだよね」「(不倫を止めたいという女性に)そうはいっても好きだし、止められない。ままならないね」など、一人ひとりに寄り添った珠子の言葉は、彼女たちの心を軽くする。占い師としての珠子は、頼もしく、とてもキュートで魅力的だ。

また、加賀のアイデアで生まれたシーンがある。珠子が息子を抱きしめて「ちゅうさんがいてくれて、母ちゃん幸せだよ。ありがとう」という場面だ。

「梅切らぬバカ」に出演する塚地武雅(左)と加賀まりこ

加賀は、プライベートで18年間連れ添うパートナーの息子が自閉症だと明かし、その経験から息子に感謝を伝えたくてセリフを追加してもらったと語っている。押し殺していても込み上がる愛情が、ひしひしと伝わる最高の一幕だ。

「梅切らぬバカ」に主演する加賀まりこ
庭の梅の木を見上げる珠子の心情は…

塚地武雅が体現したかわいらしい“ちゅうさん”がなければ本作は成立しない

塚地の演技も称賛に値する。役作りのために、知的障がい者が共同生活するグループホームを訪問して自閉症の人たちの生活を見たり、家族や世話人から話を聞いたり、多くのドキュメンタリー映像を見たという。

塚地は、「そうする中で、自分の中にちゅうさん像が見えてきて、それをまっすぐに演じた」と語る。

本作は、ちゅうさんが愛される人物でなければ成立しないのだが、塚地はそれを見事にやってのけた。落ち着きのない動きや、独特な言い回し、こだわりの強い行動パターン…。リアルさはもちろん、見た目はぽっちゃりの中年男だけれど心の中は子供のままという、実にかわいらしいちゅうさんを体現したのだ。

その一方、怒りやパニック感情を自分への痛みにしてしまう場面では、言葉にならないうなり声を上げながら、顔を真っ赤にして自分の顔や体を殴り、歯止めがきかないほど暴れまくる。

ちゅうさんになりきるため、加賀とは一切世間話をしなかったという塚地。それほど徹底した役作りで挑んだ彼の熱演は、観客の心をわしづかみにするだろう。

「梅切らぬバカ」に出演する塚地武雅
知的障がい者施設で真面目に働くちゅうさん。仕事は丁寧で正確

和島監督が伝えたいことは「厳しい現実を見せるのではなく、微妙な折り合いを付けて生きている大切さ」

和島香太郎監督は、自閉症男性の一人暮らしを描いたドキュメンタリー映画に関わったことで、「自閉症を原因とする予想できない言動によって隣家とトラブルが繰り返され、その男性が地域の中で孤立していることが見逃せなかった」というのが、本作を制作するきっかけだったと語る。

その男性の母親はすでに他界しており、社会の軋轢とどう向き合ってきたのかを聞くことはできなかったが、「フィクションであれば彼女の本音を表現できるのではないかと思った」と着想。

劇中では、隣に引っ越してきた家族から苦情が来たり、ちゅうさんをグループホームに入居させたり、乗馬クラブのポニーが逃げたり、近隣住民がグループホームの存続に反対運動を起こすなど、さまざまな問題が持ち上がる。

その中で、監督が本作でもっとも伝えたいのは、「厳しい現実を見せたいわけではなく、微妙な折り合いをつけて生きていることを大切にしたい」ということ。それが、取材の中で受け取ったもっとも大切なメッセージだと語る。

「梅切らぬバカ」に出演する(左から)加賀まりこ、塚地武雅、斎藤汰鷹、森口瑤子、渡辺いっけい
ある事件をきっかけに、隣に引っ越してきた外村一家と珠子たちの距離が近づく。

あえて“梅切らぬ馬鹿”でいることで、些細な幸せを守ることができることもある

珠子とちゅうさんが暮らす古民家の庭には、1本の大きな梅の木がある。ちゅうさんにとって亡き父の象徴であるこの木は、枝が伸び放題で塀を越えて私道にまで大きく飛び出している。

タイトルの「梅切らぬバカ」は、「桜切る馬鹿、梅切らぬ馬鹿」のことわざに由来する。樹木の剪定には、それぞれ木の特性に従って対処する必要があるという戒めだ。桜は幹や枝を切ると腐敗しやすく、梅はよけいな枝を切らないと良い花実がつかなくなるからだ。

だが、そうとわかっていても、あえて“梅を切らぬ馬鹿”でいさせてほしい。それで些細な幸せを守ることができるのだから――。

50歳を迎えた息子の未来を案じながらも、ユーモラスで愛情深い肝っ玉母さんを演じる加賀の演技に胸が苦しくなり、マイペースだけれど“いい子”に育ったちゅうさんが愛おしくなる。

奇跡は滅多に起きないけれど、自分を見守ってくれる人がいることが、すでに奇跡なのかもしれない。ありふれた毎日こそが宝物。そのささやかな幸せに感謝したくなる。そんな作品だ。

庭の梅の木の下で、ちゅうさんの散髪をする珠子は幸せを感じ…

Text by 出口恭子(ライター)

映画「梅切らぬバカ」は11月12日(金)より全国公開

配給:ハピネットファントム・スタジオ

©2021「梅切らぬバカ」フィルムプロジェクト 最新情報は、映画「梅切らぬバカ」公式サイトまで。

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