長く声優として活躍してきた3人が、業界の変化や将来について語りました。

8月14日(日)の『ボクらの時代』(フジテレビ)に、声優の田中真弓さん、日髙のり子さん、山口勝平さんが登場しました。

日髙のり子「声優になったらセリフがしゃべれる」

公私にわたり、長い付き合いのある3人は、改めて、声優になったきっかけを語りました。

山口:(田中さんに)何がきっかけで、声優を目指したんですか?

日髙:あ、確かに。

山口:真弓さんって、今でも精力的に舞台をやるじゃないですか。

田中:入った劇団がテアトル・エコーだったの。当時、山田康雄さんであったり、熊倉一雄さんとかさ、いわゆる声優の創成期みたいなのを作った人たちがいて。

山口:たまたま、入ってきた仕事が「声の仕事」?

田中:うん、そう。だから「声優になりたい」と思ったことは、一度もないの。

日髙:そっか。じゃあ、普通の舞台とかのお仕事とかと同じように、「声優の仕事」が入ってきたっていうことで?

田中:そうそう。

山口:じゃあ、僕も一緒だ。僕も、肝付兼太さんの劇団だったんで。

田中:(劇団21世紀)FOX。

山口:で、そこに『らんま1/2』(フジテレビ)(※)の録音監督の斯波(重治)さんとかも見に来てくださってて、仕事もらったのがきっかけなんですよ。

(※)山口さんは、早乙女乱馬役を担当。

一方、日髙さんは声優になる前は、アイドルとしてデビューしています。

日髙:私は、小学校のころから劇団に入って女優になるのが夢だったんです。

田中:だけど、なんで歌い手に?

日髙:あるとき、「ふた子のモンチッチのうた」を歌う人をレコード会社の方が探していて。普通に、劇団にお仕事として私のところに来たんですよ。で、お付き合いができていくなかで「アイドルでデビューしてみない?」っていうふうに言われたの。

田中&山口:へぇ!

日髙:私は「女優になりたいんです」って。でも、「いや、君みたいな新人が、一から積み重ねていっても、ドラマにいつ出られるかな?」みたいな。「歌で名前をみんなに覚えてもらったほうがいいんじゃないかな」っていうふうに。

山口:先にね。

日髙:それで、アイドルでデビューして。だけど、やっぱりお芝居がやりたくて。どうやったらセリフをしゃべる仕事に戻れるかなって思ってたときに、やっていたラジオ番組に「日髙さんは、声に特徴があるから、声優のお仕事に向いてると思います」ってお便りを見て。「声優になったら、セリフがしゃべれるんだ」って思ったのがきっかけ。

田中:なるほど。

日髙さんは「『タッチ』(フジテレビ)(※)が終わるころというか、途中くらいから「この世界でやっていけるかも」というふうに思いました」と振り返りました。

(※)日髙さんは、ヒロインの浅倉南役を担当。

声優業界を取り巻く環境の変化「ジャンルの垣根がなくなった」

3人は、新人のころの失敗談や、先輩声優に厳しく鍛えられたエピソードを明かし、「昔の先輩って、そういう人多かったっていうか…業界自体がそんな感じだったような気がしますね」と回顧。

その流れで、現在の声優を取り巻く環境にも言及しました。

日髙:真弓さんや、私たちがデビューしたころから、この業界もすごく変わってますよね。

田中:変わりましたね。

山口:何よりも、ジャンルの垣根がなくなってきたじゃないですか。

日髙:確かに。

山口:僕らのころって、本当に芝居だけだったのが、今はドラマとかにもみんな出るようになったし。ライブをやったり、グラビアをやったり。また、アイドルの人も声優をやったり。もう垣根がなくなってきた分、やっぱりマルチにできないと、通用しない。

田中:今の人は、本当にそうだよね。だって、歌ったり、踊ったりっていうことが当たり前にできて。

日髙:うん。

田中:何か若い人へのアドバイスって、本当にできない。

日髙:いろいろ変わってくるけれども…。

山口:そうですね、いろいろやんなきゃいけないけど、根本は芝居であってほしいっていうのはありますよね。

日髙:根本は、そうだよね。あとは、声に自信がなくても大丈夫ですよね?

田中:それは、そうだよね。

山口:そうだと思います。

日髙:そこが一番大きいと。「こんな声だけど、声優になれますか」なんてよく質問とか…。

田中:よく、そんな質問あるね。

日髙:だけど、みんながきれいな声だったらおかしいですもんね。

田中:そうそう。おかしいもんね。自分の声の良いところとか、自分の特性の良いところを伸ばしていけば。

日髙:確かに。声優の仕事って、多岐にわたってますもんね。

田中:多岐にわたる、本当に。

日髙:ナレーションもそうだし…。

山口:ノン子さんみたいにね、ほら、ETCの。

日髙:ETCね。機械音声みたいなものもあったりとか。

田中:だから、「自分が本当に何をやりたいのか」ということは、考えるといいよね。

山口:そうですね。しっかりビジョンを持つっていうのは、大事かもしれないですね。どういうふうな自分になっていきたいかみたいな。

日髙:「思い描く」ということ。

田中:そうそう、具体的にね。

山口:思い描く。いいですね。いい言葉です。

と、3人は若い世代へエールを送りました。

『ワンピース』あるある!?同じシーンを再録

人気アニメ『ワンピース』(フジテレビ)で、モンキー・D・ルフィを演じる田中さん、ウソップを演じる山口さん。日髙さんも、ルフィとウソップの仲間であるナミの育ての親・ベルメールを演じています。

日髙さんは、『ワンピース』の「あること」が「怖い」と明かしました。

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日髙:『ワンピース』では、よくあることなんでしょう?回想で、もう1回同じシーンを演じるっていうか。

山口:ありますね。

日髙:あれが、5年に1回くらい来るから、怖くて怖くて。

田中:そうだよね。

山口:あれ、同じシーンをやるのってつらいですよね。

田中:そうそう。

日髙:「日髙のり子のベルメール、3回目が一番良かったね」とか、そんなふうになったら嫌だなとか。思いませんか(笑)?

田中:(笑)。私も何回もやるから、もう、やっぱり「最初が一番良い」って思ってる。

日髙:やっぱり、そう。

山口:最初にやったときの印象が自分の中にもあるから、そこをなぞるじゃないけど、同じように…。

田中:なぞりたくないけどね。なぞりたくないのに。

山口:でも、やっぱり、なぞらなきゃいけない部分っていうのもあるのかなみたいな。で、変わったら変わったで何か言われそうだなみたいな。

日髙:確かに。

日髙さんは、20年以上同じ役を演じ続けることについて、田中さん、山口さんに質問しました。

田中:でも、変わってないよね。17歳から。ルフィでいうとね。

山口:今、実際(の物語では)2年しか経ってないよね。19になってるんですもんね。

田中:そうそう。その間に、相当成長するんです。精神的にも、ほら、エースが亡くなって、大人になってるので。19になるとき「ちょっと、今までより声を低くしてください」って言われたのね。だけど「ごめんなさい、私、今までの17歳やってるときに、自分が持ってる一番低いとこ、使っちゃってるんで。これ以上、低くはならない」(と、低い声でやってみせる)って。

日髙&山口:あはははは。

田中:だから、無理なんですよって。で、気持ちは大人になったっていうことだけは頭に入れておきます。でも、声はたぶん変わらないですって。

と、思わぬ形で『ワンピース』の裏話が飛び出しました。

「演技過多になってないか?」声優の葛藤

そんな田中さんに、日髙さんが「やっぱり、少年声をずっとやり続けていく感じなんですかね?」と聞くと…。

田中:いや、なんかもうやり尽くした気持ちがしてる、少年は。

山口:(笑)。

田中さんは、演じる少年が成長して体つきなどが変わってくると「あ、これはおばさんではもう無理」「戦う相手(の声優が)男の人だったりすると、勝てる気がしない」ことがあるそうで「つらいことがある」と打ち明けました。

そして話題は、「声優の仕事の難しさ」へ。

田中:われわれの仕事って、やっぱり音で表現しないと。だから、どんなにいい芝居してても、体は持っていってもらえないので。そこは、ちょっとつらいとこだよね。

日髙:確かに。

山口:そうですね。どうしても音に乗せますよね。

田中:音。だって、「ここ音要らないじゃん」っていうとこにも、アップで来てたら…。例えば、嗚咽(おえつ)。ウワーッて泣いてない、だけど涙は出てるときに、「嗚咽を入れてくれ」って言われるわけじゃん。だけど…(実際は)ないよ。本当を言えば。特に男の人さ、「うっくっ」とか言わないよ、って思うのよ。でも、入れざるを得ないし。

日髙:生身の役者さんの顔がアップになって、嗚咽の声が聞こえなくても、すごく悲しんでるって伝わるんだけど、アニメの場合でアップになっていて、そこが無音だと、急に、こっちがドキッとしちゃうっていうか。

山口:ジブリの作品みたいに、例えば表情がとても豊かに描かれると、それもありなのかなと思うんですけれどね。

日髙:確かに私、『(となりの)トトロ』をやったときに、「絵が十分演技をしてるので、余計な息は入れないように」って言われた(笑)。

山口:でも、それって僕らの、言ってみたら職業病みたいなものなんですよね。

田中:そうそう。

山口:「ちょっと演技過多になってないかな?」みたいな。でも、やっぱアニメはそれくらいでやらないとバランスが取れないっていう。普通のお芝居をあてても、絵に負けるっていうのもありますもんね。

田中:だから、それをわかってて使い分けなきゃいけないと思うのよ、俳優って。今、でもテレビドラマ見てると、逆にテレビドラマのほうが演劇に近づいてきてて、演劇のほうが、ちょっとなんていうの、ナチュラルな傾向にない?小劇場見てるとさ。

山口:ああ。あ、そうかもしれないですね。確かにちょっとドラマのほうが…。あと、漫画原作とかが増えたからですかね。ドラマの。

田中:それもあると思う。日常の中にああいう、濃い芝居が入ってきて「あれ、面白いじゃん」っていう、化学反応が起きてる感じ。

日髙:確かに。

田中さんは「その行き来が面白い」「演出家によって、役者が何を求められているかを察知してやっていかないと」と、語りました。

だんだん、大人の役をやりたいという欲求が…

終盤は、自分たちの今後についても言及しました。

田中:年齢に合った役、できるといいね。

山口:そうですね。

田中:私なんかだと、もう本当にミス・クローリー(※)みたいな役。声優としてはね。

(※)映画「SING」の登場人物。老イグアナ。日本語吹替版では、田中さんが声優を担当。

日髙:個性のある、おばさんというか。

田中:うん。

山口:自分は、少年役でしか価値がない、と思っていたんですけど。だんだん、大人の役がやりたいなっていう欲求が出てくるんですよね。で、おじいちゃん役みたいなのを、ときどきやると、めちゃくちゃ楽しいんですよ。

田中:やっぱり、自分の年齢で無理しないところをやりたいっていう感じはあるよね。

日髙:確かにそうかも。ちょっと逆になっちゃうんだけれども、たぶん面白いからだと思うんですけど、私、いまだにゲームとかで高校生(役)とかやってるんですよ。

田中:あー、うんうん。

日髙:「え、私、高校生でいいんですか?」って言ってやってるんですけど、これがいつまできるのかなっていうのが。

山口:(笑)。

日髙:でも、もしも(オファーが)来て、面白いと思ってもらえるなら、それもやって、あとは自分の実年齢に、地に足を着けた形でやる役と…両方楽しめたらいいかな、なんて私は思ったりしていて。

日髙さんが「二足のわらじで行きたい」と語ると、山口さんは「そのギャップが楽しいのかもしれない」と、大きくうなずきました。

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