昭和の気骨あふれる作り手のエピソードが、次々と飛び出しました。
3月26日(日)の『ボクらの時代』は、堺正章さん、岸部一徳さん、西田敏行さんが登場する後編を放送しました。
堺正章「嫌われるのも大事な芸の素材」
堺さんは、先日七回忌が執り行われた、ザ・スパイダースのかまやつひろしさんを「みなさんに愛されていた」「憎まれない人だった」と語りました。
堺:かまやつさんの良いところは、人の悪口を言わなかった。
西田:ああー、やっぱりそれはそうだ。
堺:人の悪口言わないで、自分を肯定するって難しいよね。(悪口を)言って、自分を肯定することのほうが、楽だよね。
岸部:うん、うん。
西田:おっしゃる通りです。ずーっと、肯定しっぱなしだ、俺。
堺:あなた相当、人の悪口言ってたの(笑)?
岸部:あはははは。
西田:あの…でも…だいぶ…嫌いな人はいます。
堺:(笑)。どんな人です?
岸部:(笑)。
西田:うまくは言えないなぁ。そうやって、誘導するんだからなぁ(笑)。
西田さんが「友人だったにも関わらず、約束を破ってしまったり。思いのほか、しんどいなっていう付き合い方になっちゃう人はいました」と打ち明けると…。
堺:僕ね、年齢ある程度きてからはね、そういう人は排除。
西田:ああ、なるほど。俺もその方向で行こうと思ってはいるんですよね。
堺:その人まで、自分の中に入れる必要ないだろうと。
岸部:そうね。うん。
西田:結構、心広いと自分で思っていたんだけど。キャパ狭いんだなっていう(笑)。加齢とともに、そんなふうになってきましたね。
岸部:僕は、意外と若いときに、好き嫌いが激しかったんですよ。
堺:ああ、そう。
岸部:うん。それも会ったことないのに。
西田:あ、へぇー。
岸部:だんだん、それがなくなってきましたね。
堺:許せる心境に?
岸部:「許せる」って、会ったことないわけですからね(笑)。
西田:(笑)。
堺:だけど我々ってさ、向こうは見てても、こっちは会ったことないって。同じ業界で、いくらでもいるわけですよ。
西田:ああ、あります、あります。
堺:「あの人の芝居、嫌だよ」とかね。
岸部:ありますもんね。
堺さんは「やっぱり嫌われるっていうのも、大事な芸の素材だと思う。全員に好かれようなんて思っても無理」と言い、西田さん、岸部さんもうなずきました。
岸部一徳、俳優転身の裏に久世光彦さん、樹木希林さんの存在
岸部さんは、ザ・タイガースを辞めたあと、別のバンドに移り、その後、俳優に転身した経緯を語りました。
堺:(バンドを)辞めたあと、空白があるんですよ、この人。
岸部:空白は、仕事がない空白ですよね。
堺:何をしていたの?
岸部:僕は音楽を辞めて、TBSの久世(光彦)さん(※)っていう演出家の人がいて。その人のドラマに、まだ音楽をやっているときにちょっと出たりしていたんで。「もう辞めるんです、僕は」って。そしたら、「俳優の方をやればいいじゃないか」って。(樹木)希林さんがそのころ(久世さんの)ドラマによく出ていたんですよ。
(※)久世光彦さん…『時間ですよ』(1965年~1990年)『寺内貫太郎一家』(1974年)などのドラマを演出。
堺:はい、はい。
岸部:「希林さんの事務所に入れてもらえば?」って言って。
堺:うん、うん。
岸部:「わかりました」って面接を受けて。で、希林さんが「やったほうがいいんじゃない?」というの(作品)をやりながら。それで、「もう大丈夫だ」って言って、希林さんの事務所を解散して、それぞれがやるようになったと。
堺さんが「見事な復活を遂げましたよね」と現在の活躍ぶりをたたえると、岸部さんは「考えてみれば、希林さんのおかげもありますね」と感謝しました。
堺:久世さんは、僕、『時間ですよ』(※)で抜擢されて。ここで久世さんがすっごかったなと思ったのは、向田邦子さんが(脚本を)書いてたんですよ。
(※)『時間ですよ』…森光子さん主演。下町の銭湯を舞台とするコメディ。
西田:「時間ですよ~」って言うのは、向田さんのセリフだったんですね。
堺:あれはね、僕が考えたんですよ。
西田:ああ、どうりで「なんか軽いなー」と思ってたんだけど。
岸部:ふっふっふ。
堺:そうですよ。向田さん、そんなこと考えませんから(笑)。
西田:考えませんね。
堺:(当時は)ドラマの世界なんてわからなくて。ただ、僕らが出ていったときに、まったく本線と関係ないことを…
岸部:うん。
堺:ショートコントみたいなのをちょっとやって、スッと引っ込むっていうのを。それを見て、久世さんに「これ、ドラマじゃないじゃないですか」と。「こんなことやっていて、森光子さん、船越英二さん、そういう方たちが繰り広げるドラマには、まったくいい影響がない」とクレームがついた。
西田:ほう。
岸部:へぇ。
堺:そしたら、久世さんは「その通りですね。来週からやめます」とは言わなかった。「このスタイルを崩すくらいだったら、こんな番組やめます」と。
西田:(拍手して)おほほほ、えらい!素晴らしい!
岸部:なるほどね。
堺:僕らを擁護してくれたんです。そういう太っ腹なところ、寛容なところがあることを覚えているから。
岸部:そうですね。
堺:だから、数字もそうだけど、内容的なもの、調理の仕方ね。これを、ちゃんと心得ていた。
西田さんは、「心得てましたね。本当に、大人だったんだなぁ、みんな」と、骨のある作り手とその矜持に感嘆の声をあげました。
西田敏行「アドリブを禁止したら…」
西田さんは「(昔は)各局に一本筋の通ったディレクター、名物ディレクターってのがいたね」と懐かしみ、出世作である『池中玄太80キロ』(1980年/日本テレビ)の石橋冠さん(※)に言及しました。
(※)石橋冠さん…山田太一さん、倉本聰さんらの脚本家と組み、多くの作品を手がけた演出家。
西田:私が飛ばすアドリブを、全部「面白いね」って拾ってくれたんです。それで、私、のびのびとセリフにないことばっかり言うようになっちゃって…。
堺:あー。もう自由奔放。
西田:奔放です。
堺:だって、『西遊記』(1978年~1979年/日本テレビ)のときだってそうだよ!
西田:いやいや、それは堺さんが引き出すんですもの。
堺さんは「今でも忘れない」と、『西遊記』撮影時に、「八戒(西田さんの役柄)、天竺はまだか?」というセリフを投げかけると、西田さんが「もうちょっとかかるよね。だってここ、静岡県だし。富士山あるもん」と返してきたと振り返りました。
岸部:アドリブはもう、そのころからずっとやってるのね(笑)。今も、そうなのね。
西田:そうね。
堺:西田さんって、珍しい役者だよね。「決めごとをうまく言う」っていうのが、役者の本分ってところがあるのに…。
西田:はい。
堺:はみ出すもんね。
岸部:決めごと、嫌なところありますよね?
西田:そうなんですよ。決められるとね…。
岸部:壊したくなるんだろ?
西田:うん。三谷(幸喜)さんの作品で「ザ・マジックアワー」(2008年)という映画があったんですけど。そのときに三谷さんが「台本通りにセリフをおっしゃっていただいて、アドリブは一切やめてください」って。
岸部:ああ。
西田:やめたんだよ。…(そしたら)いい芝居なんですよ。
堺:アドリブをやめたら?
西田:やめたら。
岸部:(笑)。
西田さんは「それまでは、自分のアドリブに酔っていたところもあったけど。アドリブを禁止したら、なんとまぁ、いい芝居をするじゃないかっていうふうに思っちゃって」と自身への発見を語り、堺さんも「はみ出すわ、入ったまんまやれるわ、大したもんだ」と笑い合いました。
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