視聴者が“今最も見たい女性”に密着し、自身が課す“7つのルール=こだわり”を手がかりに、その女性の強さ、弱さ、美しさ、人生観を映し出すドキュメントバラエティ『7RULES(セブンルール)』。
3月16日(火)放送回では、コロナ禍の昨年11月、台湾のソウルフード・ルーローハンの専門店・帆帆魯肉飯(ファンファン・ルーローハン)を東京の三軒茶屋に開店した唐澤千帆に密着した。
ルーローハンとは、醤油をベースに台湾料理の代表的なスパイス・八角で豚肉を甘辛く煮込み、白いご飯にかけて食べるホカホカのどんぶり飯。
友人に誘われ旅行した台湾で出会い、その味に心奪われた彼女は、ルーローハン専門店をオープンした。中国語を勉強してレシピを学んだ本場の味に、「クセになるおいしさ」「他で食べるよりおいしい」と、お客さんの評判も上々だ。
台湾でも雑誌に取り上げられ、台南市で行われたイベントに参加するなどその味は本場でも認められている。
台湾、そしてルーローハンとの出会いで、人生が大きく変わったという。コロナ禍の影響で収入がゼロになる逆境でも「頑張れると思ったし、諦めたくなかった」と涙ながらに語る唐澤。今も奮闘を続けている彼女のセブンルールとは。
ルール①:豚肉は干しエビと一緒に炒める
正午から営業を開始する帆帆魯肉飯。メニューはルーローハンと、 そこにデザートや副菜で1日に100食以上売れる日もあるという。
この日は、開店から1時間後には満席になった。
緊急事態宣言の影響で、平日は営業時間を夜20時までに短縮している(3月17日現在)。閉店後、取り掛かったのは、翌日分の仕込み。本場の味に近づけるための細かな工夫が隠されている。
「お肉のルーローがちょっと甘めの味付けになるので、煮卵は、お醤油とチキンスープでまろやかな塩味を足してます」と、コトコトと卵を煮込んだ後は、豚肉を切り分ける。
まずは赤身と白身に分けて、脂身の方は少し大き目に切る。「脂身の方は煮ている間に脂が溶けていっちゃう」ので、食べた時に赤身の食感と脂身のとろける食感が一緒になるように、サイズを変えているのだ。
切り終えると、肉の味付け作業へ。この時、本場の味を出すために欠かせない食材がある。それが台湾産の干しエビ。
「台湾産の干しエビをまず炒めて、香りが立ってから切った豚肉を炒める」のが唐澤流。
台湾の台南でちまきを食べた時に、「干しエビの甘みが美味しくてルーローハンに応用できないかな」と思い入れてみたら「すごく台湾らしい美味しい味になったので、それからずっと加えている」のだという。
最後に、醤油ベースのスープと現地から仕入れたスパイスで2時間煮込むと、甘味とスパイスと脂、すべてがバランス良く整ったルーローが完成した。
現地で食べて美味しかったルーローハンの味を目指している。
ルール②:「いらっしゃいませ」ではなく「こんにちは」と言う
昨年、11月末に店をオープン。しかし、わずか1ヵ月半で2度目の緊急事態宣言が発出され、平日はお客さんがいない時間もあり、売り上げは2割落ちた。
それでもご飯を食べに来て、美味しい、と言ってもらえるのは何よりの喜びだ。営業時間を短縮しながらでも「頑張って店を開けたい」のだという。
そんな彼女が、心がけていることが1つある。それはお店に入ってくるお客さんへの“挨拶”。
いらっしゃいませ、ではなくて、こんにちは。
「いらっしゃいませって言うとみんな何と応えたらいいか、わからないじゃないですか。こんにちはって言うと、こんにちはって応えてもらえる時がある」というちょっとしたコミュニケーション術。
挨拶をすることで心の距離が縮まる気がしていて、お客さんへの第一声は、こんにちは、と決めている。
ルール③:自転車に乗るときはヘルメットをかぶる
千葉県で生まれ育った彼女。両親は共働きで、家を空けることも多かった。
「あまり活発な方ではなくて、1人でいることが好きだった」という。社会人になってからも、なるべく1人で解決するようにして、人に手伝ってもらうことが苦手だった。
そんな彼女が、台湾旅行で衝撃を受けた。
道に迷った時に地図を見ていたら「近くを通ったおばさんが、どうしたの?って声をかけてくれた」というこの体験は、彼女にとって忘れがたいものになった。
自分のことは自分で解決しなきゃいけない、と思っていたけれど「困った時には助けを求めたり手伝ってもらったりすることは、そんなに悪いことじゃないんだなっていうことを台湾で教わった」のだ。
そして、その台湾旅行で出会ったルーローハンの味に心を奪われた。
2017年、友人の勧めで、人材派遣会社の会社員を続けながら休日にカフェの間借り営業をスタート。そのルーローハンの味が評判となり、3年で間借り先は4店舗に。
「両親はサラリーマン至上主義なので、両親に言えないまま会社を辞めて専業になってしまった」という。
しかし、そのわずか半年後、1回目の緊急事態宣言が。
「間借り先が全部無くなって、収入がゼロになったけど、専業になったのは自分で決めたことで、全部自分で責任を取らなきゃいけない」と塞ぎ込んでしまったこともあった。
ただ、それでは台湾に行く前の自分と一緒だと、申し訳なくても身近にいる人に助けを求めた。自分だけの店をオープンするためにお金を借りようと、両親にすべてを打ち明けた彼女。思いがけず返ってきたのは娘を思う両親の温かい言葉だった。
「まず、怒られると思っていたんですけど、怒られませんでした。助けてくれました。もっと早く言いなさいって言われて、申し訳ないなと思ったんですが、頑張れると思った。諦めたくなかったです」と涙ながらに振り返った。
両親に借りたお金と持続化給付金を元手に自分の店を持ち、新たなスタートを切った。
ルーローハンとの出会いで人生が大きく変わった彼女。台湾への愛は意外なところにもある。それは自転車に乗る時にヘルメットをかぶること。
「台湾の人たちはヘルメットをかぶったバイク通勤が多いので、私もヘルメットをかぶって、台湾で通勤をしているつもりでお店に来ている」そうで、以前は恥ずかしさもあったが、最近はもう慣れた。
通勤時のヘルメットで気分はちょっと台湾に近づいている。
ルール④:夕食は夫婦別々のゲームをしながら食べる
彼女は、プログラマーの夫と二人暮らし。仕事が早く終わった時は夫の大好物のケンタッキーを買って帰る。
営業時間が短くなったことで、テレワーク中の夫・邦彦さんと一緒に夕飯を食べられる日が増えた。
一緒に住み始めて15年の2人。食卓には意外なルールがあった。それは、夕食は、夫婦それぞれ別の好きなゲームをしながら食べること。
彼女によると「結婚当初は、何でも一緒にやりたかったが、時間が経つとお互いの好きなものを尊重できるようになって無理に合わせなくても良くなった」とのこと。
ただ、仕事で疲れた妻がリビングで寝てしまいそうになると、夫は「お風呂を準備してお風呂に無理やり入れて、妻を寝かせる」と笑顔で語った。
唐澤さん夫婦なりの“愛”があった。
ルール⑤:レジ袋は2枚目から無料
雨模様だったこの日。休日にも関わらず、店内は空席が目立っていた。その代わりに、多かったのがテイクアウトのお客さん。
テイクアウトが急増したことで、経営にも影響があった。お弁当はドリンクのオーダーが少なくて客単価が下がってしまったのだ。
そんな厳しい経営状況の中でも、テイクアウトのお客さんのために行っている彼女なりの心遣いがある。
「温かいものと冷たいものを購入された時に袋を分けている。その2枚目以降の袋代については無料」にしているのだ。
テイクアウトだけ価格を安くすることは経営的に難しいが、「せめて快適に持って帰れるように、ささやかですけどやるようにしています」と客を思いやる配慮があった。
ルール⑥:床掃除する時は台湾のロックを歌う
週2回ある定休日。しかし「定休日という名の“仕込み日”」で丸々1日、休めた日は、まだない、という。
朝9時、仕込み日の作業を開始。黙々と100個の卵の殻を剥き続ける。
ルーローハンの仕込みなど、この日は9時間かけて翌日の準備をした。仕込みを終えると店内にカッコいい曲が響き始めた。
仕込みの日の最後に床掃除をしながら「台湾のロック曲に合わせて歌います。歌うとテンションが上がるので、もうちょっとだけ頑張れる」のだ。
面倒くさい床掃除をしていると家に帰りたい気持ちも出るが、そこは台湾の好きなバンド・拍謝少年の力を借りてもうひと踏ん張りして、お客さんを迎える準備をしている。
ルール⑦:ルーローハンだけ作り続ける
2月中旬、唐澤は下北沢で「ルーローハンまつり」というイベントの準備を行っていた。彼女の店を含む3店舗のルーローハンの食べ比べができるというイベントだ。
11時のスタートと同時にお客さんが次々と訪れ、10分後には外まで続く行列。「100食超えました。最高です。」と笑顔があふれた。
いろいろなルーローハンを知って欲しいという彼女のアイデアで、イベントでは1度に3つの味が楽しめるあいがけに。行列はその後も途絶えることなく、開店からわずか90分で、予定していた150食が完売した。
店にとどまらず、外部のイベントにも積極的に参加している彼女。
そこには、ある願いがあった。
「ルーローハンが美味しいことを日本でもどんどん知ってもらって、学校の給食で出たり、家でおいしいねって食べたりする、当たり前のものになって欲しい」と語る。
だから、ルーローハンの魅力をもっと伝えるためにルーローハンだけを作っていくつもりだ。
そして、コロナ禍の逆境においても、試行錯誤をしながら、店を開き続ける。
「自分のルーローハンを食べて台湾に興味を持って台湾に行ってみて、もしも、その人が台湾で良い出会いがあって、人生に良い影響受けたりすると良いな」と自分のルーローハンがその架け橋になることを願っている。
自分の人生を変えるきっかけになったルーローハン。その味が、当たり前のように日本の食卓に並ぶ日を夢見て、彼女は今日も厨房に立つ。
「こんにちは、ルーローハン好きですか?ルーローハン、いっぱい食べてね」
※記事内、敬称略。
次回、3月23日(火)の『7RULES(セブンルール)』は、ホームレスの人々の自立を支援する「認定NPO法人Homedoor」理事長の川口加奈。
14歳から参加した炊き出しのボランティアでの“忘れられない出来事”を胸に、支援を始めて16年。高校生のときに描いた「夢の施設」を原点に、コロナ禍で急増するホームレス問題と向き合い続ける彼女の7つのルールとは。