『イチケイのカラス』第8話完全版

みちお(竹野内豊)のもとへ、警察から連絡が入る。書記官の川添(中村梅雀)が痴漢容疑で逮捕された、と。

川添は、痴漢被害に遭い、駅のホームで泣いている女性を見つけ、逃げていく男を追いかけた。だが、追いかけてきた別の男性たちに犯人と間違われて取り押さえられてしまったのだ。川添は、証拠不十分で取り敢えず解放されたが…。

そんな折、「イチケイ」に、事務官から書記官になるための研修生として、前橋幸則(渡辺佑太朗)と磯崎由衣(夏目愛海)がやってくる。部長の駒沢(小日向文世)は、合議制で扱う案件があるから立ち会うよう、2人にも指示した。

案件は傷害事件だったが、その起訴状を見た坂間(黒木華)と浜谷(桜井ユキ)は驚く。被告人の潮川恵子(真凛)は、坂間が裁判長、浜谷が書記官を務めている窃盗事件の被告人だった。

万引きの前科があった恵子は、再びスーパーマーケットで万引きをして保安員に捕まっていた。恵子の万引きを目撃し、店側に伝えたのは、山寺史絵(朝加真由美)という女性。恵子には6歳になる娘がおり、商社マンの夫は海外単身赴任中。恵子は、育児と義母の介護の疲れから軽いうつ状態で服薬していた。

恵子と話した浜谷は、子どもを預ける当てがない彼女は、罪を認めて逃亡の恐れもないことから、在宅からの審理がいいのではないかと坂間に進言したという。ところが恵子は、その間に史絵に暴行を加え、加療約1年のケガをさせたのだ。

窃盗事件と傷害事件の併合審理1日目。恵子は、被害者の史絵が小学校時代の恩師だったことに触れ、4ヵ月前に万引きで逮捕されたときのことは恨んでいないと証言する。史絵にケガをさせてしまったのは、実は彼女が万引きをしたところを目撃し、それを止めようとした際に襲われて抵抗したからだと言うのだ。

恵子は取り調べの段階からそう主張していたが、虚偽の発言として取り上げてもらえずにいた。

一方、検察の井出(山崎育三郎)は、史絵が万引きをしたという証拠がないこと、そして恵子から暴行を受けた後、市会議員をしている夫の信吾(大谷亮介)に電話し、逆恨みで元教え子に襲われたと助けを求めていることを指摘する。

それから10分後、現場に駆けつけた信吾は、意識がない史絵を病院に緊急搬送した。史絵は、一命をとりとめたものの、軽度のマヒが残り、事件のことも覚えていなかった。

駒沢から、相手のケガのことが気にならなかったのか、と問われた恵子は、大したケガではないように見えたし、何より自分にこの場にいてほしくないように思えた、と答えた。

続けてみちおは、万引きをしようとしている相手を止めようと思ったときどのような気持ちだったか、と恵子に尋ねた。しかし恵子は、そのときの心情をうまく言葉にできないのか、何も答えられなかった。

審理後、意見を求められた前橋と磯崎は、被告人が嘘をついていると思う、と答えた。一方、川添は、自らの痴漢冤罪の経験に重ね合わせたのか、被告人を信じるという。

するとみちおは、“甥っ子トーク”を始める。子どもの絵は、太陽が赤、信号は青なのはなぜか、と甥っ子から尋ねられていた。それは、知らず知らずのうちに大人が子どもにアドバイスし、子どもは先入観から疑いもなくそう描いてしまうのではないか、というみちお。つまり、起訴内容を鵜呑みにせず、先入観を捨てることが大事ではないかというのだ。

みちおは、万引き犯を捕まえようとしたときの自分の気持ちがわからない恵子に注目し、彼女がクレプトマニア――窃盗症とも呼ばれる精神障害に苦しんでいるのではないかと考えていた。

ほどなく、専門医よって、恵子はクレプトマニアであると診断される。それを知った恵子の夫・拓馬(森岡龍)は、離婚を切り出す。拓馬は、小学校に上がったばかりの娘・ほたる(寺田藍月)の学校で変な噂が広まっている、と恵子にいうと、育児も介護もちゃんとできる、二度と事件を起こしたりしないという言葉を信じていたのに、と続けた。何も言えなくなってしまう恵子。

併合審理2日目。浜谷は、恵子が少し落ち込んだ様子であることに気づく。それを聞いて、恵子を観察する川添。

検察の井出は、被害者の史絵が二度殴られていることがわかったと報告する。一度目は軽傷だったが、二度目はかなり強く殴りつけたことによる損傷だという。恵子は、前回の審理で殴ったのは一度だけだと証言していた。

そこで川添は、少し休廷してはどうかとみちおに提案。会議室で飲み物をとり、落ち着きを取り戻した恵子は、離婚を切り出されたことを浜谷や川添たちに打ち明けた。

審理再開後、証言台に立った恵子は、万引きをするときは緊張するが、盗めた時は小さな喜びを感じてしまう、と話す。史絵が万引きしているところを目撃した時は、成功したら自分のようになってしまうから止めなければ、と思ったのだという。そして、改めて殴ったのは一度であるとはっきりと証言した。

続いて証言台に立った信吾は、史絵から、襲われて頭を殴られたと電話があったことは間違いない、と証言する。続けて、史絵は万引きをするような人間ではない、自分たち夫婦には子どもがいないが、妻は教師として生徒が我が子だと思っていると言っていた、と話す。

みちおは、双方の証言が食い違っていること、また二度目の殴打は別の人間の可能性もあることから、裁判所主導で捜査を行うと宣言する。

別の日、みちおたちは事件現場となった河川敷で現場検証を行った。そこで前橋は、被害者に二度目の攻撃を加えたのが恵子ではないとしたら、疑わしい人物がいると言いだす。それは、史絵の電話から10分後に駆けつけた信吾だ。

前橋は、大学病院の医師だった父親が、教授の医療ミスの責任を取らされそうになり、裁判で争って真実を明らかにした経験から、築き上げたものを失いそうになると常軌を逸した行動をとる人もいることを知っており、そのことから導き出した推察だった。

みちおたちは、信吾が電話をしているところを目撃した人物を探すことにすると同時に、もし万引きが事実だとしたら恵子が立ち去った後、史絵本人か信吾が盗んだ品物を処分した可能性があると考え、川の中を捜索することにする。前橋と磯崎は、嫌がる川添を尻目に、率先してその捜索をやると手を挙げた。

ほどなく、市の職員から、信吾が電話口で怒っていたという証言が得られる。するとそこに、拓馬から連絡が入った。ほたるが行方不明になったという知らせだった。

浜谷からほたるのことを聞かされた恵子は、普段から自分を助けようと家事を手伝ってくれていたほたるは、今の自分ができないことを代わりにやろうとしているのでは、と考える。

実はほたるは、史絵のもとへ向かっていた。ママを許してください、と謝るほたる。史絵は涙を流し、みちおたちとともに駆けつけた拓馬は、そんなほたるを抱きしめ…。

併合審理3日目。弁護人の堤(阿部翔平)は、史絵が万引きした文鎮を証拠品として提出する。川添たちが川の中から見つけたものだった。みちおは、ほたるが史絵を訪ねたことに言及し、史絵の記憶が戻ったことを信吾に伝える。まだ上手くしゃべることができない史絵は、手紙という形で証言したいと申し出た。

その手紙の中で史絵は、自身もクレプトマニアであることを告白。信吾に電話ですべてを話した際に、「こんなことになるならいっそ…」と言われ、信吾が築き上げたものが壊れるなら死んだほうが良かったと思い、自ら石を振り上げて頭部にぶつけたことを明かした。

法壇を降りたみちおは、子育てと介護に疲れ、その苦しみを内に抱えてしまった恵子と、教職から離れて喪失感を抱えてしまった史絵に、勇気を持って「助けて」と言ってみてはどうか、と言葉をかけた。

閉廷後、川添は、規則違反を承知で、恵子と傍聴席にいる拓馬に話をさせてあげてほしい、と刑務官に頼む。「助けてください。1人では頑張れない」。拓馬は、恵子の言葉を受け止め…。

イチケイに戻ったみちおたちは、恵子の刑について話し合う。恵子に必要なのは刑罰ではなく適切な治療だという前橋の言葉に、川添たちも賛同した。浜谷は、研修の終了が名残惜しそうな前橋と磯崎に、裁判官と書記官は夫婦みたいなものだから、良い関係が築ければ良い裁判ができる、と助言した。

みちおは、恵子に懲役1年、執行猶予3年の判決を言い渡す。再度の執行猶予判決に、「みちおを見守る会」メンバーも沸いていた。

その夜、イチケイの面々は「そば処いしくら」を訪れる。そこで石倉は、「僕はあなたのことが好きです」と坂間にその思いを伝えた。すると坂間は、「私も好きですよ」と返す。石倉は細やかな来庁者対応ができ、検察官や弁護人の信頼も厚いから心地良く仕事ができる、というのだ。

そこに、川添が疑われた痴漢事件の犯人が捕まったとの知らせが入る。それは、川添が犯人を追っている最中に、逃げてきた若い男を見なかったか、と尋ねた女性だった。その女性は、恋人を奪われた恨みから、男性に変装して痴漢の嫌がらせをしていたのだという。

そのとき、店内にいた男・柳沢道彦(武井壮)が声をかけてくる。「先入観を持って物事を見てはいけない」という糸子の言葉に食いついたのだ。道彦は、初めて見る獰猛(どうもう)そうな動物に出くわしたら、という仮定の話を始め、先入観を捨てて戦うことを止めた途端に食われてしまうかもしれない、動物に限らず、見るからに怪しそうな人物を警戒しないと痛い目に遭うから、時には先入観も大事だと主張する。

そこにやってきたみちおは、その男がいつも話している甥っ子だと明かし…。

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