水10ドラマ『パリピ孔明』(フジテレビ)の、衣装の秘密が明かされました。
本作は、「ヤングマガジン」(講談社)にて連載中の、人気コミックが原作(原作:四葉夕トさん、漫画:小川亮さん)。
中国三国時代の天才軍師・諸葛孔明(向井理)が現代の渋谷に転生して、歌手を目指すアマチュアシンガー・月見英子(上白石萌歌)を成功に導いていく“音楽青春コメディ”です。
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放送開始以降、SNSなどでは、孔明の衣装が「凝ってる」「すごい」「似合いすぎ」と話題になっているほか、英子のポップなコーディネート、小林(森山未來)や前園ケイジ(関口メンディー)の個性的な服装も反響を呼んでいます。
そんなスタイリングを手掛けたのは、スタイリストのBabymix(ベイビーミックス、以下Babyさん)さん。『First Love初恋』(Netflix)や『ブラッシュアップライフ』(日本テレビ)など、数々の作品に携わっています。
フジテレビュー!!は、Babyさんと本作のプロデューサー・八尾香澄さんにインタビュー。スタイリングのコンセプトや、孔明の衣装ができるまで、「連続ドラマでは特殊」と語るこだわりなどを聞きました。
参考衣装がない!海外の会社に聞くも「残ってない」
――スタイリング全体のコンセプトを教えてください。
八尾P:初めに、Babyさんから「1人1衣装にしよう」という案をいただきました。『パリピ孔明』はキャラクターが個性的なので、いろいろな服に着替えるのではなく“ベストな一着”を着せたほうが、見た目がわかりやすくなって、物語に入り込めるのではという考えからです。
「アベンジャーズ」は、キャラクター名を聞くだけでビジュアルをイメージできますよね。そういうわかりやすさを具現化する上で、「子どもにも伝わるように」ということを意識しました。
Baby:子どもが見ても「あ、ヒョウ柄の人だ」(=小林)とか「毛皮にショートパンツの人」(=ケイジ)と認識できるくらい、わかりやすいものにしたい、ということです。
Baby:そしてもうひとつ、僕は常々、“一番身近なアートはファッション”だと思っているのですが、それは突き詰めると“人そのものがアート”だということ。『パリピ孔明』は、いろいろなキャラクターがアーティスティックに登場するので、「みんながアートを着ている」というイメージで、スタイリングを考えました。
――孔明の衣装は手作りですか?
八尾P:孔明や劉備(ディーン・フジオカ)など“三国志チーム”の衣装は全部イチから作りましたが、それ以外は基本的に、すでにあるものを組み合わせています。
Baby:『パリピ孔明』の原作・アニメファンの方も、三国志ファンの方も、たくさんいらっしゃると思うので、とにかく孔明の衣装はしっかり作りたくて。いろいろな方のお知恵を拝借しながら、何度も試作しました。製作期間は約1ヵ月です。
八尾P:撮影の半年くらい前から話し合ったり、中国時代劇の衣装リサーチを始めたりしました。
Baby:海外の会社に聞いたら、みんな「残さないから、持ってない」と。作品ごとに作るそうなんです。参考にできるものがあまりない上に、漢服に合う生地やパーツも、日本ではなかなか売っていないので、製作する上での課題は結構ありましたね。
八尾P:最初の衣装合わせの日は、孔明のコスプレ衣装をネットで買って、服の構造を理解したり、どうアレンジしていけるかを考えたりしました。
孔明の衣装はなぜグリーン?アニメ版とドラマで違うワケ
――原作やアニメの孔明の漢服はブルーに近い色ですが、ドラマではグリーンです。色を変えた理由はありますか?また、特にこだわった部分があれば教えてください。
Baby:良い衣装を作るには、まず良い生地が必要です。最初に色を決めてしまうと、良い生地が見つからなかったときにクオリティが下がってしまうので、色を決めずにリサーチを始めました。すると、グリーン系でいいものが見つかったので、グリーンにしました。
孔明はじめ“三国志チーム”の衣装に関しては、とにかくディテールにこだわりました。たとえば、布のグラデーション。画に奥行きを出すため、着物の色はグラデーションにしました。布を何回も染めたり、襟や裾の色合いを微調整したり。裾の孔雀の羽も、スタッフが1枚1枚つけてくれたりと、非常に手間暇をかけています。
Baby:あとは、撮影が夏だったので、できるだけ涼しくなるよう、袖や背中の内側は生地を変えたり、メッシュにしたりして、通気性を良くしました。
出来上がった当初はキラキラした感じでしたが、演出の渋江(修平)さんから「もっと汚しを入れて仕上げてほしい」とリクエストがあったので、汚しをかけてボロボロにしました。そのうち、「帽子から煙を出したい」というアイデアが出てきたので、帽子に煙を出す穴を開けて、さらにボロボロにしました。
――ちなみに第3話で、孔明が着物をコインランドリーで洗っているシーンは、視聴者から「着物は洗って大丈夫?」と心配の声があがっていましたが…。
八尾P:本当はマズいですね(笑)。SNSにいろいろなコメントが書かれていて、面白かったです。
Baby:たぶん、着物だけなら洗っても平気だと思う。
八尾P:羽織はやめたほうがいいですよね?
Baby:羽織はそうですね。着物の裾の、孔雀の羽もボロボロになります…。
八尾P:「せめてネットに入れて」とSNSで書かれていましたね(笑)。
一番苦戦したのは、劉備(ディーン・フジオカ)の鎧!
――孔明役が向井さんだからこそ、工夫したことはありますか?
Baby:向井さんは、何でも着こなせる方だと思います。だからこそ「何でもできるな」とは思いましたね。それとは違いますが、衣装を全体的に大きくしたのは、正解だったと思います。
八尾P:ほかのキャラクターと並んだときに、圧倒的な存在感を出すためです。確か肩パッドを4枚くらい入れたり、袖もかなりボリューム感を出したりしました。そうしないとバランスが悪くなり、あの大きな帽子(諸葛巾)だけ浮いてしまうんです。
――スタイリング上で、孔明以外で、特に印象深いキャラクターを教えてください。
八尾P:KABE太人(宮世琉弥)は、決まるのに時間がかかりました。ほかのキャラクターのパンチが強すぎて、どうしても1人だけ普通の男の子に見えてしまって。試行錯誤して今の形が見えたときは、すごくしっくりきました。
Baby:僕は、英子役の上白石さんとお会いして、本当にピュアで気持ちのいい方という印象を受けて。彼女のさわやかな感じを活かしたくて、上白石さん自身の私服にも見えるような、等身大のスタイリングを意識しました。逆にいろいろ手を加えてしまうと、さわやかさが潰れてしまう気がして。
八尾P:マリア(アヴちゃん)は、BBラウンジのステージに登場したときの神々しさを出したくて、初めから白い衣装で決めていましたが、結果、白にして大正解でした。ちなみに、スティーブ・キド(長岡亮介)はプリンが好きだから、クリーミーな色のコーディネートです(笑)。
――一番難しかったのは、どの衣装ですか?
Baby:劉備の鎧かもしれません。
八尾P:孔明たちの着物をかなり作り込んだので、それに釣り合うクオリティの中国の鎧(よろい)や甲冑(かっちゅう)が、なかなか見つからなくて。台本上、鎧を着ているシーンはゼロにはできないので悩んでいたら、Babyさんが京劇の衣装を見つけてきて「これを改造したら鎧になるんじゃないかな?」って。
八尾P:実物は柔らかい素材ですし、最初は「何を言ってるんだろ?」と思いましたが(笑)、確かに見方によっては、鎧っぽく見えるんです。このアイデアがうまくいって、陸遜(市瀬秀和)にも同じような鎧を布で作りました。
Baby:古着の京劇衣装の鎧には、肩周りなどにフリンジが使われていたり、二重構造みたいになっていたりして、いわゆる鎧みたいな発想では作られていなかったんです。鎧にそんな装飾が許されるなら何でもアリだと思い、陸遜の鎧にはスタッズをつけました。「アートを着る」というコンセプトは、こういうところにも入れています。
すごく特殊な方法?エキストラ全員をスタイリング!
――エキストラの衣装にも力を入れたそうですが、なぜですか?
Baby:主役やメインキャラクターをいくら作り込んでも、周りの人たちにリアリティが残ったままだと“ウソ”に見えてしまうからです。
八尾P:エキストラもみんなパリピっぽい感じなら、全身ヒョウ柄の小林も違和感がないし、美術セットとも馴染みます。設定上、孔明だけが周りから浮いて見えるのが狙いでした。
Baby:たとえば、エキストラが100人いたとします。着替えてもらったら、100人全員のヘアメイクやスタイリングに、ほんのちょっとでもいいから手を入れます。そうすると、作品の世界に馴染む。さらに、100人中10人ぐらいをしっかり作り込むと、画にウソが少なくなるんです。かといって、全員作り込むと、逆に暑苦しくなってしまうのですが。
――現場で、特に大変だったのはどのようなことですか?
Baby:どの人を目立たせるか、どう映るといいか、瞬時に判断しなければいけなかったことですね。100人全員と会って、まず「こんにちは、よろしくお願いします」とあいさつしたときに、相手のリアクションを見て、どうスタイリングするかジャッジしました。1人1分だとしても、1時間半以上かかります。
でも、みなさん画面に映る映らない関係なく、本当に協力的な方ばかりで、エキストラの方々にはとても助けていただきました。
八尾P:そういったBabyさんのやり方は、すごく特殊だと思います。
ですが、映像というのは、やればやったぶんだけ映る、やらなければ、それがそのまま映ってしまうシビアな世界です。手を加えたぶん、贅沢な画にできるので、Babyさんにお願いして細部までこだわりました。
<タワーレコード渋谷店2Fにて、10月31日〜11月19日まで開催中「『パリピ孔明』POP UP SHOP」では、孔明ら三国志チームの衣装が展示されています>