劇場アニメーション『HUMAN LOST 人間失格』が11月29日、公開初日を迎え、東京都内で舞台挨拶が行われた。主人公、大庭葉藏を演じた宮野真守、木崎文智監督、冲方丁が登壇した。

太宰治の名作『人間失格』をベースに、狂気のSF・ダークヒーローアクションへ再構築した本作。スーパーバイザーは、『PSYCHO-PASS サイコパス』の本広克行。ストーリー原案・脚本は『天地明察』などで知られる小説家の冲方丁が担当。監督は『アフロサムライ』などを手がけたの木崎文智が務めた。

舞台は、昭和111年の日本。医療革命により人々は死を克服し、環境に配慮しない経済活動と19時間労働政策の末、世界1位のGDPと、年金支給額1億円を実現し、無病長寿大国となっていた。

死を克服した社会で、生きる意味を見出せない大庭葉藏は、薬物と酒と女に溺れ、自堕落な生活を送っていた。友人の竹一に流されるまま、暴走集団の“インサイド”突貫に参加し、未来を巡る闘争に巻き込まれる。

太宰治の「人間失格」でも登場する主人公、大庭葉蔵のキャラクター像を、SF作品としてどう落とし込んだのだろうか。

トークセッションで、冲方は「もちろん、原作を読んでいて、そちらのイメージがある方は途方もなく違うと思いますが…」と前置きしつつ「文学というのは人間関係で人間を描いていくので、その構図を崩さないことを念頭に置きました」と話し、葉藏と周辺の人間関係を崩さずにキャラクターに取り入れたという。

“シナリオ開発”には、かなりの時間を要したようで、冲方は「何パターンも葉藏の書き方を出して、最終的に『これしかないだろう』というものに辿りつくのに2年くらいかかった」と、葉藏というキャラクターを作り上げる際の苦労を語った。

「1日19時間労働」「GDP世界1位」という世界観の本作。「令和元年の現在にあったらいいなと思うキーワードは?」という質問に、「例えば何がありました?」と宮野が尋ねると、冲方が「年金1億」とぼそり。「年金1億欲しいー!」と、トークセッション中一番のハイテンションになった宮野に、会場は笑いに包まれた。

しかし、年金1億円をもらうには、1日19時間労働を続け、120歳の合格式を待たなければならない。「そのシステムがあったら…どうしましょうね?」と宮野がなかなかその世界を想像できないでいると、「1日19時間アフレコ」と冲方が呟く。

「19時間アフレコは嫌だなぁ!喉がバーン!ってなって、シュー!(回復する音)ってなる」「(そうなれば)本当に僕、(19時間のアフレコを)やりそうで怖いですね(笑)」と、宮野は「無病長寿大国」の世界観を自分に当てはめていた。

原作のイメージからは想像がつかないが、アクションシーンがふんだんに盛り込まれており、葉藏の変身シーンも。宮野が「変身の仕方がまたね…」と話しながら、切腹の仕草をすると会場からは笑いが起こった。

冲方は「太宰先生の作品は、死がまとわりつく。それをアニメーションの中に思い切って、どんどん落とし込むと、同時に誕生も描かないといけない」と解説。葉藏がヒーローとして誕生するところを描くために、「葉藏が毎回全裸になる」という。

今回は、映像を作る前に、声優の演技を先に収録する「プレスコ」という方法で制作された。収録現場にはアニメーションディレクターらが参加し、収録した実際の声優たちの演技を、アニメーションに反映させるという手法をとった。

演じた宮野も「絵コンテ撮もあったので、想像もしやすかった。(キャラクターが)どの距離感で生きているのか、っていうのが非常に想像しやすかったので、プレスコのあり方として面白い」として、「ちょっとした機微がちゃんと表現できるように、自分では気持ちを埋めているつもりなので、そういうところを汲み取ってくれるのは非常に嬉しいですね」と、収録を振り返った。

宮野は「海外の方にも見てもらった時に、日本の文化としてアニメーションがこれだけ尊重されていて、求められていて、認められているんだと感じました。日本の文学や侘び寂びを注ぎ込むことで、文化として伝えていくことができるのではないかと思いました」と、海外からの評価に、アニメーションのさらなる可能性を感じていた。