12月7日(土)、椎名林檎の2011年以降のミュージックビデオを集約したBlu-ray/DVD『性的ヒーリング 〜其ノ伍〜七〜』と、デビュー作からの全ミュージックビデオを収めたコンプリート盤『The Sexual Healing Total Orgasm Experience』のリリースを記念したイベント「轟音上映会 And The beat Goes ON 〜 The Sexual Healing 〜」が行われた。
イベントには椎名林檎と、椎名のミュージックビデオを数多く手掛ける映像ディレクター児玉裕一が登壇した。「ミュージックビデオはモニターを使用した音楽の体験装置である」と提唱してきた児玉の、“轟音”で“劇場スクリーン”を用いて、これまでの作品を“体感”してもらえたら、という提案により企画されたという轟音上映。さらに上映後には二人のトークセッションが実施された。
定刻を迎え、シックな黒のタキシード姿で登場した児玉。観客に向けた挨拶の後、「僕も皆さんと共に楽しみます」と客席中断の座席に座ると上映会がスタートした。
これまでにリリースされた映像集のトレーラーを新たにコラージュしたオープニング映像に始まり、本編では映像集に収められたうちの全15作が、6つのチャプターに区切られ、まさしくイベントのタイトル通り大迫力の“轟音”と共に上映された。児玉により新たに制作されたエンディング映像によって約70分の上映会が終了すると、観客から拍手が巻き起こった。
自ら観客にマイクを向けて感想を聞きながらステージへと登壇した児玉に呼び込まれ、映像集の商品パッケージを想起させるチョコレートカラーのドレスに身を包んだ椎名が登場すると、観客から一層大きな拍手が巻き起こった。
椎名は「お目にかかれて光栄です」と観客に挨拶。テーブルを挟んでスツールに座って向かい合うと、二人のトークがスタート。これまでのミュージックビデオの企画から撮影までのプロセスを辿った。
「長く短い祭」のエピソードでは、椎名が楽曲に込めた“女性だからこその機微”を十分に汲み取れなかった児玉が「全女性から怒られる代表の男性みたいな時間があった」と告白。
それに椎名が「主人公の人生、つまりは実生活が間違って伝わることが許せなくて。撮影時には自宅から小道具まで持ち込んでしまった」と応戦すると、児玉は思わず「毎回、すごいプレッシャーの中で作っているんですよ」と吐露し、会場が大きな笑いに包まれた。
壮大なスケールで描かれた「鶏と蛇と豚」の制作時には、あまりのコンテの難易度から、参加したクリエイターたちが「空を見上げる時間があった」(椎名)という。
この他にも、制作における“伏線”の仕掛け方や、サウンドと身体表現(演技、ダンス)の関係性など、音楽家と映像作家という違いのスタンスから、次々と興味深い話題が軽妙なやりとりで語られていった。
「辻褄(つじつま)が自然とあっていくプロジェクトはうまくいく」(児玉)「そのためには、われわれ作り手が如何にリアルな暮らしを送れているかが重要。お客様と共にこの令和を暮らしていくことで、もっと辻褄があっていくのでは?と夢を見ます」(椎名)
そして「ミュージックビデオは自由な表現媒体。もっと盛り上げていきたい。スマホだけでなく、ヘッドホンを装着してご自宅の大きなテレビで轟音上映会をしてみていただきたい。また次回も開催できれば」と児玉が呼びかけると。会場からはまたも大きな拍手が。
「2020年こそ、皆様にとって何かいいことがありますように」と椎名が締めて退場する間際、児玉が「最後はコール&レスポンスで」と仕掛けると椎名が「うちのお客さん、そういうの好きじゃないから!」と慌てて静止する一幕も。
最後までユーモアにあふれた二人の掛け合いによって、会場がさらなる笑いと拍手に包まれると、約二時間の上映会は幕を閉じた。