劇団俳優座による舞台「マクベスの悲劇」が3月20日から東京・劇団俳優座の5階稽古場にて開幕。公演に先だった13日に公開ゲネプロが行われた。

新型コロナウイルスの感染症対策が政府から要請されている中での開演決定について、劇団俳優座・宮崎健代表取締役は、「スタッフ、キャスト一同、いつもの俳優座の本公演と変わらない熱量で作りあげてきました。俳優座として政府の決定に臨機応変に対応できるよう話し合い、安全に公演できるよう臨んでいます」と、事態の収束を願うキャストとスタッフを代表して述べた。

また、俳優座が講じている感染予防対策についても説明。通常の対策に加えて、1階建物入口へのサーモグラフィー検温器の設置、劇場出入口の常時開放、客席は100席から70席に減らし間隔を広げたという。

「マクベス」はシェイクスピアによって書かれた四大悲劇の一つで、実在のスコットランド王をモデルに描かれた戯曲。荒野で出会った3人の魔女から、「いずれ王になる」と予言され、その予言を信じたマクベスが妻と謀り主君を殺めて王位に就く。しかし王位を失う恐怖と重圧から己を見失い、次々と恐ろしい計画を企て、やがて悲劇を迎える。

およそ400年前の作品だが、人間の根底にある弱さを露呈させ、尊厳を持って生きるための命題を問い続ける不朽の名作「マクベス」を、東京学芸大学教授・近藤弘幸が新たな視点で現代に向けて翻訳したのが今作「マクベスの悲劇」。

これまで数々の翻訳劇を斬新な手法で手掛けてきた森一が、今作の企画・演出を担当。「夫婦の愛のかたちをテーマにドラマを作っていきたい」と意欲を語った。

俳優座としては、故・加藤剛さん主演で上演して以来、41年の時を経ての「マクベス」上演となる。満を持して俳優座が放つ「マクベスの悲劇」は、稽古場を廃墟の教会にし、舞台の真ん中に水がはられたプールを設置。水を使用した 斬新な演出にも注目だ。

また、客席も舞台の一部となり、俳優たちは舞台と客席を縦横無尽に使用。舞台と客席の垣根がなくなり、まるで観客もマクベスの世界に迷い込んでしまったような臨場感を与える。

公開ゲネプロはダイジェスト版ながらも「余計なものをそぎ落とし、珠玉の場面が連なっている」と森が解説するように、息もつかせぬ迫力で見る者を圧倒する。

主演のマクベス夫婦を演じる斉藤淳と佐藤あかりは「クスコー愛の叛乱」で主演を務め、日本のみならず海外公演でも高い評価を得ている。

斉藤は次第に錯乱していくマクベスをエネルギッシュに熱演。夫を王位に就かせるべくマクベスを鼓舞し、ともに悲劇に向かっていくマクベス夫人を演じる佐藤は狂気を孕(はら)んだ迫力ある芝居で客席の目をくぎ付けにする。

「きれいは汚い、汚いはきれい」。物語を暗示させる有名なセリフを踊りながら発する3人の魔女を演じるのは、増田あかね、島美布由、山本順子。

甲高い嬌声を発しながら、時に人の心の中にある “欲” を掘り起こすような迫力のある声を使い分ける。3人が声を揃えて予言を伝える時、予言が “呪い”となる言い知れぬ力強さを感じさせた。

増長していく人間の欲と、それによって肥大化していく猜疑心と恐れ。神の領域に踏み込んだ夫婦が進む悲劇の道とは…?

シェイクスピア劇のパイオニアである劇団俳優座が作りあげる、おとぎ話ではない夫婦の物語。シェイクスピア劇の真骨頂を体験できる機会をお見逃しなく!

劇団俳優座公演No.341「マクベスの悲劇」
作:ウィリアム・シェイクスピア
訳:近藤弘幸
演出:森一