松下洸平さんが、「仕事が楽しくてしょうがない」と、今の思いを語りました。

6月5日(日)の『ボクらの時代』は、松下洸平さん、橋口洋平(wacci)さん、映画監督の内田英治さんが登場しました。

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性格も変わってしまいそうなくらいの現場

松下さんは「結構ハードな台本だった」と、内田監督と出会った作品『向こうの果て』(2021年/WOWOW)を振り返りました。

内田:昭和の、痛い話ですよね。ミステリーというか。

松下:すごかった。

橋口:こないだ、全部見させていただいて。

内田:ありがとうございます。

橋口:ずっと息を止めて見るドラマだった(笑)。

内田:(笑)。

松下:本当に救いようのない話だからこそ、やればやるほど「役」と「自分」がわからなくなってきて。

内田:うん。

松下:あんまりないんですけど、自分と役が憑依(ひょうい)していく感じ。あの現場は、かなり引きずりましたね。

橋口:へぇー。

松下:普段の自分の性格も少し変わってしまいそうなくらい。そこまでリアルを追い求めて撮ってくれたのが衝撃的で。

内田:役者さんがね、何か予測不可能なことをするときがあるんですよ。彼(松下さん)もそうでしたけど、こっちが思っていなかったような動きをするときがあって。「入ってるんだな」って。

橋口:へぇー。

内田:たぶん、本人わかっていないでしょうね。自然に体が動いたり、自然な感情が出てるから。

橋口:なるほど。

松下:自分でも何しているのか覚えていないくらいなことになっちゃってるから。あれが快感だなと思うし、それを「もう一回」「もう一回」って思うからこそ、なかなかこの仕事が辞められない。

橋口:そういう「ゾーンに入る」みたいな瞬間って…。

松下:そうそうそう!

内田:あれが面白いんですよ、その「ゾーンに入る」のを、見るのがね。

松下:そういう瞬間って、本当にたくさんはないから。

橋口:ライブでも、たまーにあるよね。

内田:「たまーに」ですよね。でも、本当にあんまりないよね。

橋口さんが「そういうライブの次のライブ、ボロボロっていうの、すごいある(笑)」と明かすと、松下さんも「それは、あるなぁ」と共感していました。

内田監督「wacciの歌詞は、映画」

3人は、wacciの歌詞の世界観について語りました。

松下:「別の人の彼女になったよ」を聴いて、今までのwacciの曲のテイストとはちょっと違う…いわゆる誰かの背中を押すような曲ではなくて、すごく残酷な物語。

橋口:うん。

松下:でもそこに、愛を感じるというか。

内田:歌詞が、すごい好きで。もう、映画なんですよね。映画だなと思って。歌が。

橋口:うれしいなぁ。

松下:あはははは!

内田:これ、ホントにね、そう思っていて。ただ単にハッピーっていうんじゃなくて、何か、すごい残酷。

橋口:そうですね。

内田:どんな残酷な人なんだ、この作詞をした人は!って(笑)。

松下:(橋口さんを指して)こんな温厚な方だとは(笑)。

内田:こんな温厚な(笑)。

橋口:(笑)。そのときってディレクターとかに、歌詞を書く以上、「闇の部分だったりとか、残酷な部分っていうのは絶対になきゃいけない。そういうところに、人って惹きつけられるものもあるから、頑張ろう」みたいなことを言われ続けていたので。逆に言うと、それができない自分が歯がゆかった時期に、洸平くんに「それが良さなんだよ」って言ってもらえて、すごい励みになったっていう思い出もある中で、やっとできた曲だからかもしれないです。

内田:なるほどね。

と、内田監督のお気に入りの楽曲「別の人の彼女になったよ」について、橋口さんから制作秘話が語られました。

内田監督「良い部分だけを描かないようにしている」

それを受け、橋口さんが「内田監督が作られている映画も、残酷性だったり、闇の部分とか。結構、メインとしてありますよね?」と質問。

すると、内田監督は「いわゆる良い部分だけを描かないようにしている」と語りました。

内田:僕、ブラジルで生まれ育ったんですけど、町とか国が、光と闇がかなり激しい場所なんですよ。小さいときから両方見ちゃうじゃないですか。そういうのを見て育ってきたので、ストレートなものは恋愛映画とかでもドラマとかでもいっぱいあるけど…。

松下:はい。

内田:10代、20歳のころはいいけど、30歳過ぎてくると、やっぱりちょっとひねくれてくるから「チッ」(と、舌打ち)って思う。「んなわけねーだろ」みたいな(笑)。

松下:(笑)。「んなわけねーだろ」は、極力減らしていきたいよね。

橋口:「この人、別れてから立ち直り早くない?」みたいな。

松下:わはははは。

橋口:(作品の)時間は決まってるから、たぶん「ここに時間を割かなかったんだろうな」とかいうお話とか、いっぱいありますもんね。

内田:「んなわけねーだろ」って、すごく多いじゃん。「もう、こういう脚本になってるから」とか脚本もそうだし、演技とかでも。

松下:うんうん。

内田:(自分は)結構、セリフとか現場で変えるんですけど。別に、ガラッと別の作品になってもいいわけじゃん。できあがったときに。

松下:はい。

内田:もうちょっと、柔軟になってもいいのかなとか、思いますけどね。

橋口:すごく、いろんな意見がある場所で…。

内田:あ、そうそう。

橋口:いろんな人の意見を取り入れながら柔軟に変えていけば「んなわけねーだろ」も減っていきますよね。

内田:本当にそうです。

松下:とにかく、内田監督は、変な言い方だけど「お芝居しないでほしい人」ですよね。そぎ落として、そぎ落として、生身の人間、裸の人間を我々に求めてくれる。

内田:だから、いっぱい話したよね。その役について。

松下:いっぱい話しました。

内田:いっぱい話すと、めちゃ考えるじゃないですか、お互いに。それがやっぱり、撮影のときに集約していく。

松下:台本を見て、監督と話し合って作り上げた役を表現するときに、本当に裸になったような気持ちでお芝居ができる。

橋口:へぇー!

松下さんが「僕らが芝居してるのを、カメラの横でうれしそうにニコニコしながら見てる。そんな監督、なかなかいないですよ」と言うと、内田監督は「めっちゃ楽しいです」と、ニヤリとしました。

大きな目標を「口に出す」と「今が“やみくも”じゃなくなる」

橋口さんは、中高一貫の学校に、高校から入ったという経歴の持ち主。

「友だちを作っていくのが大変で。そのときに唯一友だちになってくれた人が、アコギ弾いて歌を歌っていた」ことが音楽を始めたきっかけだったと語り、路上ライブで「大きな声で叫ぶように歌を歌うことで、それに立ち止まって感想を言ってくれる人がいるっていうのがすごい刺激的」だったと明かしました。

内田:「勇気もらいました」とかもあるわけですか?

橋口:そうですね。僕は、それこそ「学校以外にも居場所はあるんだ」って思えて。

内田:わかるなぁ。

松下:わかっちゃいましたか(笑)。

内田:わかりますねぇ。

11歳でブラジルから日本に来た内田監督も、学校に「なじめなかった」と言い、そんなとき映画館に居場所を見つけたと回想しました。

橋口:いつごろから(映画監督を)志すんですか?

内田:もうずっとやりたかったですね。僕、北野武さんの映画がすごい好きで。「武さんの映画の現場に入れる」と思って入ったのが『元気が出るテレビ』(※)っていう、どっちかって言うとビートたけしさんの番組で(笑)。

(※)『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』(1985~1996年/日本テレビ)

内田さんは、ADとして働いていたものの「本当は、北野組に入りたかった」と明かします。

内田:だからもう、会う人、会う人に「映画やりたいんですよ」って言って。

松下:(笑)。でも、それってめちゃくちゃ大事だと、僕も思っていて。

橋口:口にするっていうことが。

松下:口にする。

内田:確かにね。

松下:叶う、叶わないじゃないんですよね。思ったこととか、やりたいことを常に口にして誰かに話すということが、自分にとってはガソリン。舞台やりながらも、漠然とですけど「テレビに出たい。テレビに出て、みんなに知られたい」という、ものすごい漠然とした夢があって。それをずっと捨てきれなくて。舞台の俳優仲間たちにも会う人、会う人にずっと言い続けてたんだよね。「朝ドラ出たい」「朝ドラ出たい」って。

橋口:うんうん。

松下:オーディション受け続けて。演劇界で仲が良かった俳優たちが朝ドラに出てブレイクしていく姿を見ていて「もう朝ドラしかない」って思っていたから、会う人、会う人にずっと言っていた記憶がある。

橋口:すごいね。誰かが覚えていたりとかするし、自分も口に出すことで、そこに結びつく行動を無意識に積み重ねていたのかもね。

松下:そう。何か大きな目標があると、今やっていることが、“やみくも”でなくなるというか。手探り状態で何かをやっているよりも「こうなりたいための今だ」とか。

松下さんは、その後、念願だった朝ドラに出演。「心折れそうなときも、その気持ちがいつも自分を救ってくれていたような気がする」と、当時を振り返りました。

人と一緒にモノを作れることの楽しさ

また、松下さんは「今こうやって仕事が再開して、現場に行くようになって。仕事が楽しくてしょうがない」と語りました。

内田:わかる、わかる。

松下:本当に楽しい。「この仕事って、大変なんだ」と気づいた瞬間から、結構つらい時期もあったのよ。「自分は、向いてないな」と思って辞めようかなって思った瞬間も何度かあったんだけど。

橋口:ふーん。

松下:コロナ禍を経て、人と話すことや、人と一緒にモノを作れることの楽しさに、自分がどれだけ飢えていたかってことを。ドラマの現場って、朝7時、8時からスタートして、夜10時、11時まで撮影して。へっとへとになるんだけど、あとワンカットで終わりってなると「えー。もう終わっちゃうんだ」って思う。

橋口:「終わっちゃうんだ」って?

松下:「早く明日になんないかな」って思う。

橋口:へぇー。

内田:(笑)。いいね。

内田監督が「この人とはね、いつかガツッと何かやりたいんだけど、簡単にできるものはやりたくないんですよね」と言うと、松下さんは「救いようのない役がやりたいです」とリクエスト。

これまでの「正義感の強い役」などのイメージを「ぶち壊したい」と希望を語り、内田監督も「楽しみだな」と約束して、鼎談を締めくくりました。

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