――唐作品は、初めて観ると「難しい」と感じる方が多いかもしれません。唐十郎ファンの安田さんから、観劇のポイントを教えてください。
僕が思うに、ですが、分からなくても良いと思うんですよね。理解しようとするから分からなくなる。今まで体験したことがない、理解できない、という感覚は「なんか違和感があった」と受け止めて、いったん持ち帰ると良いと思います。
その後、時間が経って、もし自分の考え方や価値観が何か変わったなと感じることがあれば、「あの時、唐さんの作品を観て、ああいう感情になったからかな?」と思い出してくれれば良いと思っていて。観てすぐに理解しよう、自分に必要なものを探し出そうとしなくても良いと思います。

――安田さんも、唐さんの作品を初めて観たときに違和感を覚えたのでしょうか?
そうですね。今までの自分ではない、もう1人の自分が生まれたような違和感がありました。生まれたのは、自由になりたいと願う本来の自分。じゃあ今まで自分が生きてきた世界は偽物だったのか?どちらが正解なのか?と思って。でも、本当の自分が生まれたことで、感覚を研ぎ澄ましながら生きていこう、という思いに至ることができました。
安田章大 病を経て「今が心身ともに一番元気」
――今回は1公演2作品、そして1日に2公演の日もあり、タフさが求められると思います。
そこについては何も心配していません。僕は病気をして、てんかんの発作で命の危機に遭って、現在は“3回目の人生”を過ごしていますが、今が心身ともに一番元気だと感じています。何もかもが滞っておらず、天地がつながるような気持ち良さを感じています。それくらい安定しているので、2公演の日もしっかりパフォーマンスできると思っています。
――安田さんは本作の公式コメントで「正解を知っているのは唐さんだけ」と語っていましたが、正解が分からないものに挑む怖さはありますか?
ないですね。たぶん唐さんは、自分の作品を“誤読されても良い”と考えていたと思うんですよね。僕が誤読をすることで、また新しい解釈も生まれるでしょう。唐さんは「本当は答えがあるんだけどね」って、小さい声で怒るかもしれませんが(笑)。それも踏まえて、「唐さん、すみません」と謝りながら作品に挑もうかなと思っています。
――本作に限らず“答えがない仕事”は多いと思いますが、どんな気持ちでチャレンジしていますか?
答えが分かっているところに飛び込むことほど、しらけることはないと思っていて。
答えをすがって、安心できる材料をちょっとずつ摘(つま)みながら歩くより、分からない世界を手放して精一杯生きたほうが面白いですし、最期に「あいつ、面白かったな(笑)」って清々(すがすが)しく笑ってもらえるんじゃないかな、と思うんですよね。だから恐れることなく、新しい世界に飛び込んでいます。
撮影:河井彩美
ヘアメイク:山崎陽子
スタイリスト:袴田能生(juice)