外交努力をお願いするしか…
「ウクライナのような爆撃までいくと対応範囲を超えてしまうので…」
福島第一原発の構内で話を聞いた東京電力の担当者は、少し困った顔をしていました。
「攻撃を受けるような事態にならないように、国の外交努力をお願いするしかないですね」
【写真】いまも深い傷跡…事故から11年の福島第一原発
東日本大震災と、それに伴う福島第一原発の事故から11年となる2022年3月。ロシアによる軍事行動が続くウクライナからは、原発や核をめぐるニュースが連日続いています。
ロシアは4日、同国最大のザポリージャ原子力発電所を攻撃しました。
9日にはウクライナ当局が、ロシアによる軍事行動でチェルノブイリ原発の電源が喪失し、放射性物質が漏れ出すおそれがあると発表しました。
チェルノブイリ原発の管理会社は、軍事行動が続いていることで修理も不可能だとしています。
IAEA(国際原子力機関)は、使用済み燃料プールに水が十分あるなどの理由から、停電後も安全性に重大な影響はないとの認識を示していますが、緊迫した状態が続いています。
日本政府は「このようなロシアの蛮行は認められない」と強く非難。 「ウクライナ国内の原子力発電施設に対する攻撃を含め、全ての戦闘行為を即座に停止するよう強く要求する」としています。
運転を続けている原発と廃炉に向けて取り壊しを進めている福島第一原発では、状況や安全性を単純に比較することはできません。
しかし、福島第一原発の傷ついた原子炉建屋には、いまも核燃料や、溶け落ちた核燃料が固まった「核燃料デブリ」が残ったままというのは事実です。
いまの福島第一原発はどのような状態なのでしょうか。日本記者クラブ取材団の一員として、福島第一原発の敷地内に入りました。
「隣の人、テロリストかも」
筆者が福島第一原発を取材するのは6回目。今回も身分証明書の確認や指の静脈で個人を識別する生体認証など、まず厳重なチェックを受けます。
ウクライナの情勢を受けて厳しくなったわけではありませんが、福島第一原発では、チェックポイントが増えたり、爆弾探知を行ったりするなど、年を追うごとに厳しさが増しています。
数年前に増設されたチェックポイントには、こんなポスターが張られていました。
「隣の人、テロリストかも」
そんな物々しい廃炉の現場では、平日1日あたり4,010人の作業員が働いています。
福島第一原発構内で最初に訪れたのは、事故を起こした原発の建屋を見下ろす高台。そこからは、小さな変化が見てとれました。
見た目で変化を感じられたのは、まずは1号機。大きな水素爆発を起こした原子炉建屋です。
去年訪れたときは、水素爆発によってむき出しになっていた屋上のがれきをクレーンで撤去する作業が続けられていました。このがれきが残ったままだと、中の核燃料や溶け出したデブリを撤去することができないため、とても重要な作業です。
1年経って大きめのがれきが撤去されて、作業はいったん終了。目に見えてがれきの量は減っていました。今後は建物を覆う大型カバーをかけて放射性物質の飛散に注意しながら小さめのがれきの撤去作業を進める方針だといいます。
2号機では、内部に入るための前室が取り付けられていました。新型コロナの影響でロボットの開発に遅れが生じていますが、核燃料や溶け出したデブリの取り出しがいよいよ始まることが感じられます。
3号機、4号機については原子炉そのものの変化はすぐに感じられませんが、作業員のいる位置を見ると周辺の作業員の数は明らかに減っています。
というのも、2014年に核燃料の取り出しが完了した4号機に続いて、3号機でも2021年2月に取り出しが完了し、燃料プールに移されました。
それでも3号機にはデブリが残っているため放射線量自体はゼロにはなっていません。
原子炉建屋を外側から見るだけでは伺い知ることができませんが、1、2、3号機に残っているデブリと、1号機392体、2号機615体の核燃料をどう安全に移すかは、福島にとって、日本にとって、大きな課題です。
デブリは2022年中に、まずは2号機で数グラムほど取り出しを開始する予定。核燃料に関しては、2号機が2024-2026年度中、1号機は2027-2028年度中に取り出しが開始される予定となっています。
計画では、1-6号機の燃料取り出しが完了するのは2031年。廃炉が完了するまでには、そこからさらに10-20年がかかるロードマップとなっています。
計画通りに進んだとしも、2041年から2051年という先の話です。
東京電力の担当者は、少し考えながらゆっくりこう語りました。
「廃炉で壊す方向なので少し違いますが、テロの備えは他の発電所と基本的に変わりはありません。廃炉の姿については、まだかっちりと『こういう姿』というイメージはありません。更地にすべき、研究施設を作るべきなど、様々な意見があります。
まだまだデブリもあって具体的に見通せないため、地元の皆さんに安心して住んでいただけるように廃炉をしているというのが、いまの状態です」
原発事故との戦いはまだ続いています。廃炉の姿も含めて、社会は何を望むべきか。知り続けること、まずはそれが大事です。