好青年から半グレまでさまざまな役柄を演じ分け、その振り幅が魅力の磯村勇斗。

1月28日(金)公開の有村架純主演映画「前科者」では、複雑な心情を抱える刑事・滝本真司を演じ、さらなる新境地を開いた。

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本作は、前科者の更生・社会復帰を助ける保護司・阿川佳代(有村)が、保護観察対象者に寄り添い奮闘する物語。磯村は、佳代の中学時代の同級生で、連続殺人犯の容疑者として浮かび上がった工藤誠(森田剛)を追う中で、工藤の保護司である佳代と再会する、という役どころだ。

岸善幸監督から、“目”の芝居を絶賛された磯村に、役柄へのアプローチや作品の魅力、現場の雰囲気、共演者や本作に込められたテーマなどを聞いた。

<磯村勇斗 インタビュー>

監督からのリクエストは「押し殺した感情が目からにじみ出ているような人物でいてほしい」

――原作の同名漫画(原作・香川まさひと、作画・月島冬二)が連続ドラマ化され、その3年後が映画として描かれます。原作やドラマはご覧になりましたか?

原作は読んでいないです。僕が演じた滝本は、原作にないキャラクター。映画は、岸監督が“映画版 前科者”として脚本・監督を手がけたオリジナルストーリーなので、あえて原作を読まずに撮影に臨みました。

――本作のオファーを受けた時の感想を聞かせてください。

岸監督と初めてご一緒できるということもあって、すごくうれしかったです。

脚本を読んでみると、普段なかなか触れることがない保護司に焦点が当てられていて、その着眼点がおもしろいと思いました。そこから、撮影がすごく楽しみになりました。

――岸監督の撮影現場に初参加していかがでしたか?

岸さんは、すごくやさしくて、1つ1つのシーンを俳優陣と共に作り上げていくという、役者に寄り添ってくださる監督でした。

俳優が現場で出すものを楽しむ方で、僕らが考えてきた芝居を見せて、違ったらそこを修正する、という感じでした。それも、「そこの気持ちはもうちょっと強く出す」とか「押し殺して」というくらいのアドバイスでした。

半面、ドキュメンタリーを撮られてきた方ならではの長回しや一発本番の演出は、緊張感もあって、たまらなく楽しかったです。

――岸監督から役柄などについてリクエストされたことはありましたか?

撮影初日に、「真司はずっと鋭い目でいてほしい」と言われました。目が怒っているというか、表に出していないけれど、押し殺した感情が目からにじみ出ているような人物でいてほしい、と。

――“目で芝居をする”上で、意識したことはありますか?

“目”って、人を見ている時間もあれば、モノを見ている時間もあるし、視線を動かした瞬間にもすべて意味があると思うんです。

ちょっとした目の動きで違う感情表現ができると思うので、どこを見るか、何を見る必要があるのかというところを意識しました。

滝本を演じる上で、「悔しさやいら立ちみたいなものは、ずっと持っていました」

――物語が進んでいくと、真司はいろいろなものを抱えていたり、実はやさしい人間だということがわかってきます。どういうことを大事にして、真司を演じたのですか?

とにかく、悔しさやいら立ちみたいなものは、ずっと持っていました。連続殺人事件が起きて人が次々と亡くなっていく中で、これ以上被害者を出したくないという気持ちがあるからです。

それは、滝本が刑事の道を選んだことにもつながります。なんとしてでも犯人を捕まえてやるという気持ちと、これ以上被害者を出してはいけないという焦りやいら立ちは、ずっと持つようにしていました。

そういう気持ちをずっと抱え込んで、押し殺しているという状態だったので、結構、苦しかったですね。

――有村架純さん、森田剛さんとの共演はいかがでしたか?

架純ちゃんとは、連続テレビ小説『ひよっこ2』(2019年/NHK)以来の共演でしたが、信頼しているので安心して身を委ねながらお芝居ができました。役柄は変わりましたが、お互いの空気感やお芝居の感じは変わらずに楽しめました。

森田さんは、同じシーンがほとんどなかったのと、距離感がある役どころだったということもあって、会話をすることはほとんどありませんでした。もうちょっと絡みたかったなと思います(笑)。

――先輩刑事・鈴木充役のマキタスポーツさんは、バディ役でした。多才なマキタスポーツさんとの共演で、刺激を受けたことはありますか?

マキタさんは、本当に自由でファンキー。そして、ずっとしゃべっている方で、すごく楽しかったです。

それが役柄にもハマっていました。鈴木は、頭に血が上りやすいので、結構、怒鳴るシーンもあるのですが、そこがナチュラルすぎておもしろかったです。本当に怒っているのかなと思った時もあるくらいでした(笑)。

音楽もやられている方ならではの話もしてくださいました。「ピアノは大事だ。弾けるようになった方がいいよ」と。ピアノを弾くと、脳が活性化されるそうなんです。

「わかりました」って返事をしましたけど、未だにやっていません。もう1年経ってしまいました(笑)。

自分に保護司はできない「だからこそ、佳代の姿は力強いし、くじけても立ち上がる姿に勇気をもらえた」

――保護司のことは、あまり知られていませんが、本作に関わってどんなことを感じましたか?

恥ずかしながら、僕もこの作品に出合うまでは保護司という職業を知りませんでした。罪を犯した人の更生を手助けする人が世の中にいて、懸命に支えていらっしゃる。対象者は、いろいろな問題を抱えている赤の他人です。そういう人たちを、なぜそこまでしてもう一度やり直させることができるのか。本来は、国が支えるべきものかなとも思いますが、ボランティアでやってらっしゃる。

前科者の方はどうしても特別な目で見られてしまいます。だから、保護司は、すごく複雑なポジションなのだと思いました。普通の人ではなかなかできない、すごい役割だと思います。

――ご自身は、保護司をやれると思いますか?

僕はできないです。ここまで人のために何かしてあげようという気持ちにはなれないかもしれないし、罪を犯したまったくの他人に、そこまで手助けできないかもしれないですね。

だからこそ、保護観察対象者に寄り添う佳代の姿は力強いし、くじけても立ち上がっていく姿に、すごく勇気をもらえました。

――「ヤクザと家族 The Family」と劇場版「きのう何食べた?」の2作品で、今年度の日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞しました。改めて、お気持ちを聞かせてください。

賞をいただくのは、うれしいことです。新人賞は、一生に一度しかいただけないですから、うれしさはひとしおです。たくさんの方からお祝いのコメントもいただいて感謝しています。

半面、自分が表現者として、もっといろいろとやっていかないといけないと、焦りも感じました。これに満足せず、さらにステップアップするために努力していこうと思います。

――最後に、メッセージをお願いします。

人間なので過ちや失敗は付きものですし、あってはいけないけれど、それで他人の命が奪われてしまうこともある。でも、当事者がもう一度やり直して第2の人生を歩みたいと本気で思うのであれば、1人の人間として更生を応援することは大事なことだと思います。

そして、そういう人たちは、普通に生きてきた人間より、きっとより強く生きる意志があると思うので、見捨てずに一歩踏み出すための背中を押してあげられる世の中になった方がいいのだろうと思います。

罪を犯した人たちでなくても、何か後ろめたさを感じていたり、立ち止まってしまっている人が、この映画を観て少しでも重い足を前に踏み出そうという気持ちになってもらえたらうれしいです。

撮影:今井裕治
取材・文:出口恭子
ヘアメイク:髙田将樹
スタイリスト:笠井時夢

映画「前科者」は1月28日(金)より全国ロードショー
配給:日活・WOWOW
©2021 香川まさひと・月島冬二・小学館/映画「前科者」製作委員会

最新情報は、映画「前科者」公式サイトまで。