「秋ドラマ辛口放談」の前編は、『SUPER RICH』が圧倒的な高評価を獲得した。

11月6日(土)の『週刊フジテレビ批評』は、「本質を突く力作ぞろい!秋ドラマ辛口放談」の前編を放送した。

そんな各局ドラマを、ドラマ解説者・木村隆志氏、日刊スポーツ芸能担当記者・梅田恵子氏、コラムニスト・吉田潮氏、お笑い芸人の橋爪ヨウコ(こじらせハスキー)というドラマ通たちが、忖度ナシに斬った。

『SUPER RICH』は、今秋一番の野心作!

まずは、各人がイチオシドラマを2作ずつセレクト。梅田氏、吉田氏、橋爪の3人が挙げたのが、江口のりこ演じる破天荒なベンチャー企業の社長が、困難を乗り越えていく姿を描いたオリジナルドラマ『SUPER RICH』(フジテレビ)。

吉田:江口のりこ主演というだけで、私の心はわしづかみなわけですが。とにかく、セリフのテンポがいい。そして、ただの恋愛モノではないというか。とても、日常が淡々としているんですよ。いろんな紆余曲折起こるんですけれども、セリフが案外、淡々としていて。シュッシュッシュッと終わるような感じ、そのそっけなさがとても心地よくて。説明とかしなくても、江口のりこが関西弁でピャッて言ったら終わるっていうよな、その画ヅラがとても新しかった。すごくいいドラマだなと思いました。

梅田:江口のりこさん一択で見ています。本当に素晴らしいですね。主演が魅力的に見えるかというのが、私のドラマのひとつの基準であるので。36歳ではじめてお金に苦労するという、面白い設定なんですけど(笑)、そこに貧乏な就活生が戦力として加わることで、本当にゼロからの再出発がグイグイ動き出すんですよね。チームワークもありますし、いろんな江口のりこさんを見られて楽しいですし。「この人の下で働きたい」とか「この人の役に立ちたい」とか、そういうリーダー像がちゃんとあるんですよね。これはもう、最後まで一生懸命見ます。

橋爪:私も、江口のりこさんについては(お2人と)意見まるっきり一緒なんですけど、やっぱりあの、赤楚衛二さんと町田啓太さん。ベタかもしれないですけど、“チェリまほ”(『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』/テレビ東京)が大好きなので(笑)。この2人をキャスティングしてくれたスタッフさん、ありがとうございます♡っていうのと、中村ゆりさんが入ってきて、もしかしたら四角関係になるんじゃないかなっていうのと。あと、演出の仕方だと、大事なシーンを「SUPER RICH」という文字と一緒に最初に出してくれるんですよ。いきなり、ズボンをおろすシーンから始まって…みたいな。なぜそうなるんだろうという過程を追ってくれるのが『木更津キャッツアイ』(TBS)方式というか、どうなっていくのかというのを最後まで楽しめる。

木村:僕も、自分が挙げた2作品と同率1位なんです。今秋で一番の野心作。舞台がビジネスでテーマがお金。これだけで「視聴率とれるの?」と思っちゃう。主演の江口のりこさんも“トライ”ですし、いろんな部分で金城(綾香)プロデュースの妙というか、やる気が感じられる。

吉田:古田新太が心のオアシスとして会社にいてくれるというのも大切ですし、矢本悠馬が「自分が信頼されてないことがわかったよ」みたいなところもね、脇の役者もすっごいセンスがいい。「フジテレビ、こんなセンス良かったっけ?」って、本当に思うくらい(笑)。

『恋です!』は、90年代のフジテレビのドラマを見ているよう!?

梅田氏、木村氏が挙げたのが、勝気だが恋に臆病な弱視の女の子(杉咲花)と、根は純粋なヤンキー(杉野遥亮)の恋を描いたラブコメディ『恋です!』(日本テレビ)。

梅田:もう、こんな素敵なラブコメ見たのは何年ぶりだろうっていうくらい、素晴らしいですね。本来出会うはずのない2人が恋をして、成長していく物語が本当にキラキラと描かれているんですよね。勝気なユキコさんと、舎弟のようになついていく黒川のコンビネーションを、杉咲さんと杉野さんがうまくて、グイグイそっちの世界に引っ張っていってくれるんですよね。視覚障害を描いているんですけれども、何かお勉強チックな…そういうところがまるでなくて、かといって視覚障害をちゃんと描きつつ、それをラブコメに落とし込んでいるので。恋するって、若いって、こういうことだなっていうのがズーンと来るんです。元気になりますし、本当に応援したい。

木村:いいところだらけ。まずラブストーリーの盛り上がりを左右するのって「枷(かせ)をどう作るか」と言われているんですよね。それを、弱視と不良ということでわかりやすく提示したうえで、若者特有の生きづらさというところにも絡めている。そこがまず素晴らしい。そこに、1話から順番に、出会って、連絡先を交換して、家族の反対にあって、ふさわしい存在になろうと努力して、告白して…というところを1話ずつ丁寧に描いているところが、すごく共感をうながす。感情移入してしまうんです。ラブストーリーのいいところ、90年代のフジテレビのドラマを見ているような(笑)。十代のカップルのお話なのに、大人が見ても楽しめる。コロナ禍のすさんだ心を癒してくれるような感じがします。

『最愛』は、罪悪感、後ろめたさ、郷愁…がグッと入ってくる

吉田氏と木村氏が挙げたのが、吉高由里子演じる殺人事件の重要参考人となった社長が、刑事と弁護士2人の男性と事件の真相に迫るサスペンス『最愛』(TBS)。

木村:これ、まずオリジナルの長編ミステリーをやるというだけで、ほぼ満点に近いくらいの点を差し上げたい作品。しかも、金曜ドラマという枠で、湊かなえさんの作品をずっとやり続けてきたスタッフが、次の段階のオリジナルを作った。ここの過程にもしびれますよね。だから、品質もすごく高い。物語のベタな設定こそありますけれども、2話で大きく物語動かして意表をついてきたり。というところもあって、まだまだ二転三転四転くらいしそうな香りもしていますし、最後まで人間ドラマも含めて楽しめると思います。

吉田:『Nのために』とか『リバース』(ともにTBS)と同じスタッフさんなんですよね。プロデューサーと演出の方が。私、あのコンビにやられっぱなしなんですよ(※)。内容的に言うと、若かりしころに犯した過ちだったり、起きた事件だったりっていうのを、大人になってから負うはめになるっていう。そこには、すごい罪悪感とか後ろめたさとか、郷愁みたいな部分も含めて、グッと入ってくるんですよね。(自身の胸を指し)ここを割って入ってくるような。うまく言葉に表せないんですけど、その三部作のひとつになったなという感覚があって。それで挙げたんですけど。

(※)プロデューサー:新井順子 演出:塚原あゆ子/山本剛義

『ドクターX~外科医・大門未知子~』は『水戸黄門』的な感じで、やっぱり失敗しない!

橋爪が挙げたのが、「私、失敗しないので」でおなじみ、米倉涼子演じるフリーランスの天才外科医を描いたシリーズ第7弾『ドクターX~外科医・大門未知子~』(テレビ朝日)。

橋爪:私、『恋です!』も『最愛』もめちゃくちゃ好きで、みなさん挙げられると思ったので、レギュラーのやつを挙げたいなと。やっぱり、失敗しないですね(笑)。全然失敗しない!第7弾で、特に大きく変わったところはないんですよ。だけど、それがいいというか。

新美有加(フジテレビアナウンサー):『水戸黄門』的な?

橋爪:『水戸黄門』的な感じで、「ああ、私たちはこれを待っていたんだ」と。いたしません、失敗しません、メロン…「ああ、これだこれだ」と。演出も少し過激になっているんですけど、それも私たちが待っていたものというか。あと、主題歌がAdoちゃんの「阿修羅ちゃん」なんですけど、その曲を使ったことによって、私の後輩で「Adoちゃんの曲が使われるんだ。見てみよう」という子がいて。ああ、こうやって広がっていくんだなと。

『日本沈没-希望の人-』(TBS)は、サイエンス感がなく…

渡辺和洋(フジテレビアナウンサー):『日本沈没-希望の人-』(TBS)を誰も挙げなかったのが、ちょっと意外な気もするんですけど…?

梅田:これは、何を見たいかによって評価が変わるんでしょうね。これ、SF小説の金字塔なんですけれども、サイエンス感がまったくないんですよね。まだ3話なんですけど、日曜劇場特有の会議の描写が長くてですね、もうちょっとサイエンス見たいなと。昔の映画なんか、ほぼほぼサイエンスですからね。私は、そこを今の映像技術でどう見せてくれるのかというのを期待していたので、ハマらなかったですけど。ただ、日曜劇場テイストが好きな方には、これは当たりだと思います。

吉田:もう、ドラマじゃなくて喫緊の課題なんですよ。要するに、海底火山噴火とか、地震とか、今私たちが一番危惧していることがテーマじゃないですか。ドラマとして楽しめなくなっちゃっている。これ、明日起きますよね。香川照之が震えながら、何か訴えます…って思っちゃうと、ドラマじゃない。地つづきで、自分の生活とつながってるんですよ。そうすると、キャッキャ楽しめないところがあって、挙げられないです。

木村:テレビ局が放送収入だけでは、これから頭打ちになるというところで、コンテンツメーカーとして、これからの生きる道を見せてくれているのかな、というところでは注目しています。(Netflixで、放送同日の24時=地上波放送開始の3時間後から毎週、世界配信)

橋爪:私は、すごく遠くに「シン・ゴジラ」がちらつくところがあって(笑)。もっとテンポよく…私にはちょっと難し過ぎちゃって、ナレーションで助かっているんですけど、多すぎるとさめちゃったり。でも、今後も楽しみたいと思っています。

今回も愛ある辛口が数多く飛び出した「ドラマ放談」となった。

まだまだ注目作が並ぶ今クール。後編は、11月13日(土)に放送。

「本質を突く力作ぞろい!秋ドラマ辛口放談」前後編は、FODにて無料配信中!