視聴者が“今最も見たい女性”に密着し、自身が課す“7つのルール=こだわり”を手がかりに、その女性の強さ、弱さ、美しさ、人生観を映し出す新感覚ドキュメント『7RULES(セブンルール)』。

8月25日(火)放送回では、江戸切子作家・三澤世奈に密着。ガラスの表面をカットすることで、 独特の美しい模様を浮かび上がらせる江戸切子の歴史は、180年にも及ぶ。

昨年、29歳で自身のブランド「SENA MISAWA」を立ち上げた彼女。女性職人ならではの発想で、ミシュランの名店ほか、 多くの場所で重宝される作品を生み出し続ける、三澤世奈のセブンルールとは。

ルール①:彫りながらデザインを決める

切子の世界では誰もが知る職人・堀口徹が立ち上げた工房で、一番弟子として働く三澤。弟弟子の坂本優輝さんを含めた3人の職人で、工房「堀口切子」は成り立っている。

江戸切子の元となるグラスは、吹きガラスの工場から取り寄せている。まずは、グラスを削る際に基準となる線を入れていく「割り出し」と呼ばれる作業から始まり、続いて削りの工程へ。

基準線に合わせてカットする「粗ずり」の作業は、グラスを内側から覗くため、カットしている部分が見えにくく、難易度が高いそう。粗ずりを終えると、本格的な削り作業「三番掛け」へと移る。

より細かな線を彫り、文様をつけていくのだが、彼女は、事前に細かなデザインは決めず、彫り進めながら作品を完成させるようにしている。今までのパターンにとらわれないデザインは、そのように生まれてきたのだという。

最後に、磨きの作業を終えれば、光の角度によって表情を変える、きめ細やかな模様が浮かび上がり、江戸切子は完成する。

ルール②:親方の言葉はノートにまとめる

群馬県に生まれ、幼い頃から手先が器用だった彼女は、友人の携帯をキラキラの“デコ電”にデコレーションしたり、ネイルチップを作るなど、特技を生かして友人たちを喜ばせてきた。

そうした経験から、自分が好きなもので喜んでもらえる仕事がしたいと思い始め、将来はネイルサロンを経営したいと、大学は商学部に進学。しかし、ある出会いが彼女の人生を変えた 

それは、親方・堀口が監修した、江戸切子で作られた美容クリームの器。作品に感動し、衝撃を受け、江戸切子に心を奪われた彼女はすぐに堀口への弟子入りを志願したものの、「今は人を雇う状況ではないから」と、断られてしまう。

その後、ネイルサロンに就職したものの、江戸切子への思いは諦めきれず、堀口切子の“更新されない”ホームページをひたすらチェックしていたある日、小さく書かれた「スタッフ募集します」の文字を見つけた。

再び、弟子入りを志願。3年の月日を経て、職人としての第一歩を踏み出した彼女。昨年、6年目にして自らのブランドを立ち上げたが、それでも「毎日が挫折と成功の連続。自分の力量がありありと“もの”に表れてくる」と話す。

毎日同じ工房で作業を共にする親方の背中は、遠い。「経験値の差の分、応用力が違うので、一生学び続けるしかない」という彼女が、親方に少しでも近づくため、弟子入り以来、続けていることがある。それが「親方の言葉はすべてノートにまとめる」こと。

「聞いたそのときは感銘を受けた言葉でも、記録していなかったらやっぱり忘れてしまうので、逐一メモしています」と、書き続けているノートは、現在4冊目。入社したときのメモには「自分の好きなことで人を幸せにする」 と、熱い思いが記されていた。

ルール③:試作の写真は1000枚撮る

グラス製作の依頼を受け、打ち合わせのために依頼者の元を訪れた彼女。依頼者のイメージをより具現化するため、直接足を運び、ヒアリングを行うという。

後日、ヒアリングした内容をもとに、いくつもの試作品を作り上げていき、出来上がると、さまざまな角度からひたすら写真を撮影する。その数、およそ1000枚。

作品との距離がどうしても近くなってしまう作り手の目線から、使う側の目線へ切り替えたり、あるいは、作品を持っている人を他の場所から見たときの目線を考えたりするのに有効なのだという。

「写真を撮ると肉眼とはまた違って、客観的に見られるというか。あと、単に可愛くて撮っちゃうだけなんですけど。我が子を何枚も撮っちゃう人と同じですよね」と笑った。

ルール④:家ではずっとラジオを聴く

一人暮らしをする都内の自宅が白でまとめられていることにも、彼女なりのこだわりがある。「自分が切子のデザインを考えるときに、真っ白な部屋だと考えやすいなと思って。例えばピンクに囲まれている部屋だと、ピンクを使いたくなくなっちゃうような気がする」のだという。

そんな彼女の家での楽しみは、切子でお酒を飲むこと。特別感を楽しむほかに、さまざまな切子で飲み比べることで、形状の違いによってお酒の味にも違いを感じられる、勉強の時間でもある。

テレビがない部屋で日課にしているのが、ラジオだ。料理の時間も、入浴の時間も、作業をしながら、片手間で聴けることが魅力だと話す。

中でも好きな番組は、「安住紳一郎の日曜天国」。「安住さんのアナウンサーのキレイな感じとはまた別の、ちょっと毒っ気のあるコメントとかが大好き」なのだとか。

ルール⑤:週に1度ガラスを吹く

工房で共に働く弟弟子の指導は、彼女が担当している。堀口切子では、最低1人に、自分が教わったことを伝えるルールがあるそう。弟弟子の坂本さんも「世奈さんのおかげで今の自分がある。日々教えてもらうことばかり」と話す。

年々、縮小傾向にある江戸切子の世界。深刻な問題になっている後継者不足に関し、「絶やしちゃいけないというか、続いて欲しいですよね。やっぱり良いものは残していきたいし、伝えていきたいし」と語る。

そんな江戸切子愛溢れる彼女は、週に1度、吹きガラスの教室に通っている。「勉強したほうがいいかな」と思って始めたものの、続けていくうちに「こんなことも出来るんだ」という気づきが生まれ、毎週必ず来るようになったのだそう。

「自分たちが素材を作ってもらって、それを加工しているので、それがどういうふうに出来るかって勉強したいなという。気づけば切子のこと考えちゃう。愛ですね」と、思いをあらわにした。

ルール⑥:ネイルは切子に合わせる

休日、ネイルサロンを訪れた彼女。抱えてきた風呂敷から取り出したのは、自身の作品。「この(切子の)色に合わせて」とリクエストする。ネイルは、切子のイメージに合わせてお願いしているのだそう。

SNSなどに切子を持った写真をアップするため、左右異なるデザインに。彼女にとってネイルは、作品を際立たせるアイテムの一つなのだ。

ルール⑦:江戸切子に手書きの手紙を添える

ある日の堀口切子には、ロサンゼルスから訪れたという観光客の姿が。宿泊先のレストランで使われていた江戸切子に一目惚れし、急遽、工房を訪れたという。

外国人をも魅了する、日本の江戸切子。そんな中で、三澤は今、オンラインショップに力を入れ、江戸切子を気軽に購入できる機会を増やそうとしている。

「使ってくださる方がいて、私たちが作っている意味がある。使ってくださる方がいなかったら、私たちは何の喜びも得られない」。1人でも多くの人に、江戸切子の魅力を知ってもらいたいという思いを伝えるため、彼女は必ず、購入された商品に、感謝の気持ちや製作時の思い、デザインに込められた意味などを記した手書きの手紙を添えている。

偶然出会った江戸切子で、人生が一変。「もっと多くの方に知っていただきたいですし、1つの文化としてもっと定着してもらいたい」。その言葉通り、生活の全てを江戸切子に捧げている。

「自分自身が江戸切子というものに人生を豊かにしてもらったなと思っていて。恩返しをしていきたい」と強い思いをにじませる。伝統を絶やすことなく次の代へと繋げていくことが、彼女にとっての恩返しだ。

「びっくりするくらい好き」だという切子の世界に飛び込んだ彼女は、「生きている中で一番楽しいですね」と、笑顔を輝かせた。

※記事内、敬称略。

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次回、9月1日(火)の『7RULES(セブンルール)』は、書店店主・二村知子に密着。わずか13坪の書店で、大型書店超えの売り上げを記録することも。元シンクロ日本代表選手でもある、彼女の7つのルールとは。