「フジテレビの若手ディレクターが演出する枠なのに、私のようなおじさんが登場しちゃったんですよ(笑)」
とフジテレビュー!!のインタビューに応じてくれたのは、フジテレビ「水曜NEXT!」(深夜のチャレンジ枠)『名もなき天才あざます』の演出・塩谷亮さん。入社24年目のベテランディレクターが、その制作の舞台裏を語ってくれた。
<劇団ひとり&野田クリスタル、初タッグでナレーションに挑戦も 演出からの“指示”にぼやく>
――この番組の企画が誕生した経緯は?
塩谷(以下同じ):作家の高須光聖さんから、“ティッシュって一枚一枚次から次へと出てくるのってすごくない?”という話があり、「確かに、これは番組にできるな」と。何かが生まれているということは、誰かが考えて完成させているわけですからね。電気を発明した人はエジソン、みたいに、有名でほめられている人はいるけれど、世の中を便利にしてくれたのにほめられていない人がいっぱいいて、それってずるくない?と(笑)。
『名もなき天才あざます』というタイトル通り、私たちの生活を便利にしてくれた人(=天才たち)は誰なのかを追跡取材し「あざます!」と感謝するという番組だ。
・ふたにヨーグルトがくっつかないようにした人ってスゴくない?
・スマートフォンを「スマホ」って略した人ってスゴくない?
・“朝専用”の缶コーヒーを考えた人ってスゴくない? などなど。
身の回りにあふれるそれらの発明を見つけては「すごい!」と感動する“ちょっとおバカな先輩・後輩”を、劇団ひとりと野田クリスタルが声で演じている。
――ネタはどうやって集めたのですか?
自分たちの中で“とにかくすごい!”と思うものを出し続けて、ネタをそろえました。これらは“街中にあふれているんですよ”“あなたの生活の当たり前の風景の中にいっぱいあるんですよ”ということがメッセージなので、VTRは、スーパーや街中を歩いていく中で見つけるというスタイルにしました。
普通のテレビではボツかもしれないが<同等に扱う>理由
――実際に“名もなき天才”を見つける取材過程はいかがでしたか?
取材は大変でした!誰が、いつ作ったのか、という記録が、思った以上に残っていませんでした。普通のテレビ番組だったら、それはボツになってしまうのですが、この企画は、「そんなことを考えたのに、名前すら残っていないなんてせつなすぎませんか?」「誰だかわからないけどありがとう!」って言ってもいいのではないか、と。誰かわかった場合もわからなかった場合も、同じ扱いにしています。
名もなき天才たちは、考えているときに必ず問題にぶつかって、困っていたんですよね。神頼みしている人もいたし、会社から猛反対を受けて悩んでいた人もいました。必ず負荷とかストレスを必死に乗り越えて新しいものやコトを生み出していました。自分に置き換えてみると、「俺は、ちゃんとそういうことやっているかな、もう一段必死に考えていかないといいものは生まれない」と思ってしまいました。
――取材VTRを劇団ひとりさんと野田クリスタルさんの声で見せていく演出にした理由は?
スタジオを開いてわーっと盛り上がることもできますが、普通になってしまうな、と。コアな部分は取材VTRなのですが、それを真面目に紹介していったらエンターテインメントにならないので、このスタイルにしました。地味だし、誰もこのことに気付いていないのですが、すごいんですよ!と言いたいから、大げさに喜んでほしいわけではない。だから、あのふたりは「すごくないですか?」と言っているだけにしました。見ている方がすごいと思ってくれればいいのです。
――ふたりをキャスティングにした理由は?
声だけでキャラクターを変えられて、紹介しなくてもこの人がしゃべっているとわかる人で、笑いたい。そう考えたときに、まず先輩役に劇団ひとりさんが浮かびました。相手の後輩役は、奇才・天才で、ひとりさんよりも若い人で、ちょっとおばかで先輩に憧れている人。同じく声で戦えてキャラクターが作れる人、そしてひとりさんとやりとりが面白そうな人、ということで野田さんが浮かびました。
それぞれと打ち合わせしたときに、まずひとりさんが「先輩・後輩逆の方が面白くないですか?」と。はっと思って、「そうですね。それでやらせてください!」と答えました。ひとりさんは、野田さんは好き勝手にできる先輩の方が自由に暴れられると思ったのではないですかね。
劇団ひとりと野田クリスタルの収録
面白くなって「OKですが、もう1テイク!」
――収録してみていかがでしたか?
ご本人たちも言っていましたが「OKなんですけど、もう1テイクお願いします」と何回も言ってしまいました。声だけで笑わせたい、ラジオ的な遊び方をしたいと思っていたので「これ、もう1テイクやってみたらどうなるんだろう…?」と。おふたりともプロフェッショナルなので、絶対に同じことをやってこないのです。それで私も面白くなってしまって、「もうちょっと聞いてみたい」と思って、一番近い視聴者という目線で収録を楽しんでしまいました。
――この番組は、塩谷さんのディレクターとしての経験がどう生かされていますか?
徹底して調べているところですかね。世の中にある事実を面白がるのが好きなので、わからないことを納得してもらわなきゃいけないと思って作りました。
例えば、ティッシュペーパーの1枚ずつ出てくる仕組みを取材したときも、日本中の製紙会社や協会に聞いてもわからなかったので、海外に電話をかけました。でもわからない、と言われて。その後、何度もやり取りを続け「頼むから、わからないのであれば、わからない、という答えをください」と粘り、最終的に、ひとつの答えにたどり着きました。
ディレクターの腕は20代と変わらないのですが、自分の面白がっていることにどれだけ執着するか、どれだけがんばれるかが大事だと思っています。過去に担当した『トリビアの泉~素晴らしきムダ知識~』や『さまぁ~ずの神ギ問』と同じく調べもの番組は楽しいです。
普段は「うぇーい」と言っているバカです(笑)
だからこそ「知った時に面白い!」
――塩谷さんは普段からいろいろなもの(多ジャンル)に興味が?
いえいえ!普段の性格はうぇーいって言っているバカなのですが(笑)、知識のない人間だから、知った時に面白いと強く思うのかもしれません。この番組ではぼくらが調べられることは調べたけれど、もし放送を見て「いや違うよ」とか「それは私のことです」とか言ってくれる人が出てきたら、また面白くないですか?番組と関係なく知りたいし、「実は…」という続編を作りたくなりますね。
――これまでのディレクター人生で印象に残っているものは?
全部ですね。うまくいったもの、いっていないものはもちろんありますが、すべて「これでいい」と思って放送していますから。でも印象に残っているものをあえてあげるとすれば、『トリビア~』で検証した“おならの臭いをいかに分散させるか”VTRとか(笑)、事実をくだらなく紹介するのは最高に楽しかったですね。
『エチカの鏡 ココロにキクTV』では、家族のきずなや強い思い、世の中のいろいろな方の心に触れたのも面白かったし、『アイドリング!!!』では、芸能界でがんばろうとしている若い女性たちがどうやったら他と違って面白く見えるのか、を考えるのも楽しかったです。『オモクリ監督~O-Creator’s TV show~』では、いろいろな優秀な芸人さんの頭の中をのぞけたり、一緒に作ったりするのも、最高に楽しかったです。
「予算削減」の言葉を言いたくなさすぎて…トイレで吐いた経験
20年以上もディレクターをやり続けさせてもらえているのが一番幸せですよ。入社当時はバラエティー番組制作の部署を希望していませんでしたが、会社は見抜いていたのかもしれませんね(笑)。たまに演出兼プロデューサーを務めたこともありますが、お金の話をするのが苦手で…。会議でスタッフに「予算が限られているから、セーブしましょう」という話をしなくてはいけない時に、その言葉を言いたくなさすぎて、途中で退席して、トイレで“おえーっ”と吐いてしまったこともあるくらいなんです。ですから、やはりディレクターとして、ものを作っているのが一番面白いです。
――今後について
今年の異動で環境が変わりました。(共同テレビジョンに出向)会社から「現場やっていていいよ」と言われたのと同じだと思っているので、そんな幸せなことはないですよね。時代が変わり多メディア化している中で、フジテレビだけではなく他局の作品、配信、YouTubeなど作っていいわけじゃないですか。テレビで20年以上やって、これからもやり続けるけれど、その経験をベースにしながら新しいことにチャレンジできるというのはわくわくしています。
水曜NEXT!『名もなき天才あざます』は、8月18日(水)24時25分~&25日(水)24時40分~放送。詳しくは番組HPまで