2021年1月3日(日)、4日(月)21時より、フジテレビでは、木村拓哉主演のスペシャルドラマ『教場Ⅱ』が、二夜連続で放送される。
無愛想な自己紹介に反して、その観察力は極めて鋭い。生徒の弱味をいち早く把握して付け入り、教場内をスパイさせる“最恐”の教官──風間公親が帰ってくる。木村拓哉が髪を白く染め、ミステリアスな警察学校の教官に扮したスペシャルドラマ『教場Ⅱ』の放送が、いよいよ迫った。
フジテレビュー!!では、今作のプロデュースと演出を手がけた中江功監督にインタビュー。木村とは『若者のすべて』以降25年超の付き合いになる監督に、俳優としての魅力や現場でのエピソードなどを存分に語ってもらった。
<中江功監督 インタビュー>
──中江監督は木村さんとは四半世紀以上のお付き合いになりますね。
そう言われてみると、確かにそうですね。
──視聴者としては、木村さんは絶妙なタイミングで『教場』シリーズ、そして風間公親という役とめぐりあったのかなと思えます。
少し前までは、実年齢よりも少し若い役だったり、同年代にはいないようなキャラクターを演じることが多かったと思うんですよ。ところが、『教場』では実年齢よりも上に見える役を演じたわけです。そこがカッコよくもあるというのが、新機軸だったのかなと。
──木村さんに備わっていた魅力がうまくハマッたのか、新たな魅力が開花したのか、どちらだと思われますか?
その両方だと思います。木村拓哉も年齢を重ねてくる中で、若々しく見える役もいいですが、年相応か上の年齢の役どころも見たいと思っていました。それが「検察側の罪人」(2018年)や「マスカレード・ホテル」(2019年)あたりから、また役とマッチするようになって、前作の『教場』から本人のパワーもアップしたように感じられたところがあるんです。明らかに表情も何年か前とは違っていたし、本人的にも吹っ切れたような感じがあったので、そう考えると時期的にはすごく良かったのかもしれませんね。
『教場』を撮った後に『グランメゾン東京』(TBS/2019年)の現場に入って、その後は音楽活動やライブをして、『BG〜身辺警護人〜第2章』(テレビ朝日/2020年)へ行くという…いいペースで稼働するサイクルを取り戻したじゃないですか。そういう時の方が、自身をアップデートできる人だと僕は勝手に思っています。
相変わらず木村拓哉の影響力はすごいと実感
──俳優・木村拓哉としての“新章”にも位置づけられそうですね。
長い目で見ると、そうなっていくのかもしれません。でも、前作で生徒役のキャスティングを進めている時、多くの若い俳優/女優たちが「木村さんと一度、共演したい」と希望していると耳にした時、相変わらず木村拓哉の影響力ってすごいんだなと実感しました。
そういう意味では、次世代の人たちからリスペクトを集めるレジェンドとして立ち続けているんだなと。また、現場へ来るとしっかりと見せるんですよ、一線で引っ張ってきた人間のたたずまいを。すごくサラッと話していますけど、それって並みのことじゃないと思うんです。
──では、1年ぶりに再会した風間公親は、いかがでしたか?
いい意味で変わっていなかったです。相変わらず厳しいですし、怖いし、何を考えているか読めないという。でも、それが立派な警察官を世に出すためにしていることだというのが、ちゃんと最後にはわかるという感じにはなっていると思います。
実は当初のイメージとしては、それこそ『検察側の罪人』で演じた役(検事・最上毅)に近い雰囲気だったんですよ。でも、髪を白くして、右目を(コンタクトレンズで)義眼にして、メガネをかけたことで、今まで見たことがないような人物に変貌した。方法論としては、その職業の記号的なコスチュームを身にまとう“木村拓哉的”なアプローチなんですけど、これがすごくいい感じにハマったという印象が僕の中にはあります。
──風間の衣装が、制服が数種類と剣道着ぐらいというのも、印象的ですね。
前作では、いっさい私服姿がなかったですから。1回、スーツを着たぐらいだったかな?どこでスタイリッシュ感やトレンドを出すんだろうなんて思ったりもしていたんですけど(笑)、そういう意味では自身のたたずまいで勝負したところがあったのかなと。
ちょっと話がズレるんですけど、宮城県の警察学校を訪問して、教室に入った時に上がる声が「キャーッ!」じゃないんですよ。男性陣の「オォォ〜!」「え、ヤベッ!」なんです(笑)。その反応を受けて本人が「いやぁ、時代は変わったなぁ」と話していましたけど、そういう意味ではもはやアイドル的な人気ではなくて、もっと上のステージにいったのかなという気もしています。
ただ、そういったポジションにおさまろうとしないのが、彼の粋なところでもあって。前作を撮る前に、「制服姿だけで勝負できるような役を見てみたい」と話したんですけど、それに応えてくれたどころか、『グランメゾン東京』でまた若返って、さらに代々木(国立代々木競技場 第一体育館でのライブ)でハジけちゃったので(笑)、もう少し“スター”な感じでいるんじゃないかなぁ。個人的には、50代を境にして、また違った感じの木村拓哉も見てみたいですけどね。
「若い頃から芝居のスキルを磨いてきたのが、誰あろう木村拓哉」
──そんな付き合いの長い中江監督だからこそ語れる、俳優・木村拓哉の魅力とは?
と言っても、僕だけと作品を作ってきたわけではないですし、いろいろなキャストやスタッフ、監督と仕事をしてきて今があるわけですけど…そのたびに何かを必ず得ているんですよね、彼は。だから、会うたびに変わっている。
彼が出る作品って、さっきの若い人たちの話でもわかるように──共演したい役者もたくさん集まるじゃないですか。で、木村くん本人はすごく観察力の高い人なので、一緒になった人たちのことを細やかに見ているんです。そうやって芝居の仕方だったり、話し方や動き、仕草といったエッセンスを自分のモノにしていくからこそ、常に“最強”にアップデートされていくのかな、と。
──木村さんがモノマネ上手なのは、その観察眼の鋭さと関係しているんでしょうか?
それはあると思います。今回の撮影でも、訓練シーンの初日でほかの出演者の動作の特徴を完全にとらえていましたから(笑)。本当、「よく見てるな〜」と感心しますよ。そういうのが昔から得意でしたね。僕は若い役者さんたちに言うんですよ。「木村さんが君たちのことを見ている以上に、彼のことを観察した方がいいよ」と。
実際、相手の芝居のスタイルをいったん自分の中に取りいれてみると、パッと視界が開けたりすることがあります。それが単なる形態模写で終わるか、自分なりの表現へと昇華するかは、それぞれの取り組み方によって変わってくると思いますけど、そうやって若い頃から芝居のスキルを磨いてきたのが、誰あろう木村拓哉なんですよね。天才的な部分もありながら、しっかり努力もしてる。
──木村さんとの共演から何を得るか、だと。
はい。それにしても、今回も若い役者たちが木村さんとの共演を熱望していて、あらためて驚かされました。打ち合わせでは「中江さんの現場でやってみたかったんです」と言っていたんだけどな、おかしいなぁって(笑)。
──『教場』の放送が毎年お正月の恒例となれば、作品ありきで出演したい役者さんが増えるかもしれません。
いやいや、いいんですよ。「木村拓哉と共演したい」がまず優先順位としてあれば、僕らはそこに乗っかっていけるので。というのは、木村さんが主演の現場って、みんなが彼に注目するから、僕ら(スタッフ)はすごくやりやすい。通常、若いキャストが多いと演出部の負担が大きいものですが、木村さんが中心にいるとベクトルがそこに向かうので、こっちは余裕をもって現場を俯瞰できるんです。そういう利点があるので、もし『教場Ⅱ』も好評でシリーズが続くようなことがあれば、木村さんと共演したい若い人たちは奮ってオーディションを受けてください、と(笑)。
──今作でいうと、濱田岳さんや矢本悠馬さんが木村さんと現場でどう絡んだのか興味があります。
岳くんは『HERO』(第2シリーズ)でも共演していますし、彼は頭が良くて老獪(ろうかい)なところがあるので、木村さんとの距離感をわきまえているんですよ。矢本くんは面白くて、最初に木村さんと2人きりのシーンを撮る時に、「僕が生徒のキャストを仕切ってます!」みたいなことを言って、若干スベっていて(笑)。
でも、その矢本くんの立ち振る舞いとかモノの言い方とか態度が…それこそ木村さんと初めて組んだ『若者のすべて』(1994年)の時の萩原聖人くんにそっくりで(笑)。木村さんにも「矢本ってさ、あの頃の聖人に似てるよな?」と言ったら、「ああ、そういえば…」と、うなづいていました。
その話を矢本くん本人にもしたんですよ。そしたら、ちょっと前に萩原くんと共演していて、その時に「お前、いいな!」って言われたらしいんです(笑)。同じ匂いを感じたのかもしれないですね。まあ、聖人くんにしても矢本くんにしても、「俺が引っ張っていくから、ついてこいよ」って、平気で言えるところが逆にかわいかったりもするんですよ。
岳くんもそれがわかっているから、矢本くんに「頼むよ」と言って背負わせる。かといって、キャリア的に自分のことだけに集中していても、木村さんから「ちゃんと周りの面倒も見ろ」って言われるのもわかっているから、バランスをとりながら立ち振る舞うという感じでしたね。そういう現場の人間模様も、僕からしたら面白かったです。ふたりは本当に頼りになりました。
──興味深いエピソードです。一方、現場での木村さんとのエピソードを、最後にお聞かせください。
よく「木村さんは本番でアドリブを入れてくるんですか?」と聞かれるんですけど、現場で突然、芝居が大きく変わると映像そのものがハマらなくなってしまうので、僕の場合は事前に本人と「このシーン、何か考えてることある?」と話します。
本人も「明日のシーンなんだけど、こうするのはどうかな?」と言ってくれますしね。それこそ、付き合いが長いからというわけでもないですけど、何となく「このシーンでは何かプラスアルファやるかな?」というのが、わかるんですよ。「ここ、何かやろうとしてる?」「うん、こうしようと思うんだけど」「あ〜、そっちか!」みたいなやりとりは、現場でもしますけどね(笑)。
でも、木村さんの芝居は、段取りから本番へ行くまでにちょっとずつ変わっていくから、大きく変わったという印象がないんですよね。常に最善を求めているというか、「今のところこうしたら、もっとわかりやすくなる気がする」といった感じで、何かしら提示してくれることが多いですし、より質の高い作品にしたいと思ってサジェスチョンしてくれるので、そこには応えたいなと思っていて。こちらが事前に準備してきているから、「それは無理なんだよ」と言うのは簡単なんですけど、フラットにどちらが最善なのかを考えて、そこは極力良い落としどころをお互いに探って、アウトプットしようと心がけています。
──そうしたクリエーションから生まれた風間公親との再会を楽しみにしています。
前作を見た人の「これぞ『教場』だよ」という期待にも応えつつ、でも少し裏切りつつ、風間の内面が少し見えるような部分もあるので、ちょっとだけ新しい面を感じていただけるのかなと思います。垣間見える程度かもしれないですけど(笑)、楽しみにしていただけるとうれしいです。
<前作『教場』はFODで配信中>
取材・文:平田真人