視聴者が“今最も見たい女性”に密着し、自身が課す“7つのルール=こだわり”を手がかりに、その女性の強さ、弱さ、美しさ、人生観を映し出すドキュメントバラエティ『7RULES(セブンルール)』。

1月5日(火)放送回では、屋久島高校演劇部顧問・上田美和に密着。鹿児島本土からフェリーでおよそ4時間、世界自然遺産の島・屋久島唯一の県立高校に国語教師として務める彼女。

5年前の赴任当時、演劇部は廃部寸前だったという。唯一の部員の「練習したいです」という言葉で、部員集めからスタートし、自ら脚本・演出を担当。3年目にはそんな部活を全国2位にまで導いた、彼女のセブンルールとは。

ルール①:脚本の舞台は必ず屋久島

全国大会出場を目指し、2週間後に控えた県大会を突破するため、放課後の練習を重ねる演劇部。

県大会で披露する作品のタイトルは「樹(いつき)立つ」。身の回りのことが何もできない弟・いつきと、対照的な万能の兄・かずき。親は出稼ぎのため島にはおらず、2人は祖父と暮らしている。あるとき、祖父が倒れ本土の病院へ。さらに兄も間もなく進学のため島を出ることに。1人になってしまう弟と、その周囲の人々を描いた家族の物語だ。

高校演劇の制限時間は1時間。1秒でも超えると失格となるため、通し稽古次第で、脚本を削ることも必要になってくる。

台本を見直しながら、「本当は、どこも削れない」と、本音をこぼす彼女。「物語の本筋から外れたところを削るのはどうですか」とスタッフが問いかけると、「そこを削ったら出られなくなる子たちがいるので。悲しむから、削れないです。私は座長ではなく、高校の演劇部の顧問なので、一番大事にするのは生徒の心」と答えた。

そんな彼女が生み出す物語には、ある共通点がある。それは、屋久島の人々や風土が描かれているということ。「本土の日常がこっちでは非日常なので、こちらでの日常を描いたほうがいいと思いました」と、彼女。

今作「樹立つ」で描かれる、親と離れて島で暮らす子どもたちや、進学・就職で若者が島を出て行く現象は、すべて屋久島の現実だという。「世界自然遺産で全世界から人が訪れて、みんな憧れます。確かに豊かであることに間違いはないけど、そこに人がいる以上、悲劇もあると思うんですね。島民がどれだけ島を愛しているかっていうのは、どうしても外せない」と語った。

ルール②:他の部からも役者を探す

高校演劇では、照明や音響も生徒が担当する。しかし屋久島高校には機材がないため、音響はラジカセやスマホを使い、照明は口頭での指示で練習を行う。島の全土から通ってきているため、部活を終えるとすぐ、スクールバスで帰っていく生徒も少なくない。

短い練習時間に加え、大変なのは部員集め。現在の部員は12名で、その中には彼女自ら勧誘した部員も。さらに今回の作品には、テニス部所属の男子生徒もスカウト。シルエットで登場し、若い日の祖父を演じてもらうという。鍛え抜かれた体が必要なため、彼を起用するに至ったのだとか。

そんな彼が練習に合流すると早速、丁寧に演技指導を行う彼女。他の部の生徒でも、演出は手加減しない。

ルール③:授業に演劇を取り入れる

大学卒業後、出版社での勤務を経て、国語教師となった彼女。鹿児島本土の高校に赴任し、演劇部顧問に抜擢されたことで、高校演劇の世界に魅了されていった。

大会に出場するたび、「島の子たちの演劇は、まったく大人の視点や大人の手が入っていないものが多い」と感じたという。「私がもし離島に行ったら、本土に負けない舞台を作ってあげたいと思っていました」と、当時の思いを振り返る。

授業では、扱う題材の世界観を再現するため、生徒のリュックを借りたり、生徒に演技をさせたりと、「口で説明するより演じたほうが早い」と、演劇を取り入れている彼女。生徒からも「面白い」「わかりやすい」と、好評だ。

ルール④:大会前に屋久島の人に舞台を見せる

大会を8日後に控え、島の公共ホールで、本番さながらのリハーサルを行うことに。本格的なステージと機材に触れられる、数少ない機会を設けたのには、理由がある。

「失敗しないといけないと思っています。失敗すると、本番前に『もっと頑張らなきゃ』と思えるから」と明かす。その言葉通り、リハーサル前の確認で手作りのセットの不安定さに気づいた部員たちは、足場の補強に取り掛かった。

さらに「やっぱり、屋久島で生まれた物語なので、一番に地元の方にお見せしたい」と続ける彼女。

観劇中、涙を流す観客の姿も。舞台を終え、「島から応援しているので、頑張ってください」という言葉に、部員たちは大きな声で「ありがとうございます!」と返した。

ルール⑤:朝晩 本土の家族と電話する

現在、単身赴任中の彼女。鹿児島本土では、救急専門医として働く夫が、3人の子どもたちを育てている。練習が忙しく、本土の自宅へは1ヵ月ほど帰れていないという彼女の楽しみが、毎朝毎晩欠かさない、家族との電話だ。

彼女が、次男の倫啓(みちひろ)くんに「一生懸命部活の練習してる」と報告すると、「えらい。2000回以上えらい。褒めてつかわすよ」という温かい言葉が返ってきた。

ルール⑥:うまく演技出来ないときは現場へ連れていく

大会本番が迫る中、彼女はあるシーンが気になっていた。それは、主人公・いつきが、屋久島の鉱山跡地で、趣味の石拾いをするシーン。

翌朝、いつき役を演じる生徒・優哉くんを連れ、クリスタル岬と呼ばれる鉱山跡を訪れた彼女。リアリティを追求するため、現場で生徒に実体験をさせるのが、彼女の演技指導の一つ。

そしてそこには、演技の練習だけでなく、部の思い出作りとしての側面も。「やっぱり、部活動の顧問なので、青春を演出しないといけませんから。舞台の演出と同じくらい大事なことだと思っています」と話す。

当の優哉くんもまた、「鉱山跡ってあまり行ったことがなかったので、実際にやってみてイメージが出来た。それを元にやってみたいと思います」と意気込んだ。

ルール⑦:本番直前に生徒全員の眉毛を描く

大会当日を迎え、本土に向かうフェリーの中、彼女はギリギリまで演技指導を行う。会場に到着し、本番直前の控室で、部員を1人ずつ呼び寄せると、言葉をかけながら、彼らの眉毛を描いていく。

「本番直前は、私の出る幕はなくなるので。どんな言葉をかけても、役については向こうのほうが誰よりも知っている状況。そうなると、あとは眉毛だけでも描かせておくれという感じ」と、その理由を明かす。一番孤独感を感じるこの瞬間が好きなのだと語った。

舞台の幕が開くと、部員たちの演技をひたすらに見守る。舞台は制限時間内に終えることに成功し、3位という結果に終わった。結果発表後、涙を流す部員たちへ、彼女は「私たちも誇りを持って一生懸命やったよね。精一杯、ギリギリまで頑張ったよね」と言葉をかけた。

「発声から教えた子たちが、あんな大きな舞台で堂々と渡り合って、優勝まで夢見て、あんな涙を流すまで、みんなのモチベーションを高められたということを誇りに思っています」と語る彼女。

島へ戻るフェリーの中、舞台を観た人たちからの感想を読んでいると、生徒から「『樹立つ』、これから屋久島高校の伝統にしたいです。1年に1回、自主公演したい」と声が上がった。

そんな思いがけない言葉に、彼女は「うれしかったです、あんなこと言ってくれるなんて。信じてやって、『この劇が好きだ』って言ってくれることが救いだなって。優しいですね」と、目に涙を浮かべた。

※記事内、敬称略。

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次回、1月12日(火)の『7RULES(セブンルール)』は、「渡邉水産」の社長・渡邉美保子に密着。お取り寄せで人気の高級ブランド鯛「穂州鯛(ほしゅうだい)」の養殖・加工を娘4人と一緒に手掛ける渡邉は、13年前に亡くなった夫の跡を継ぎ、周囲の反対を押し切って、男社会の水産業に飛び込んだ。夫の愛した海で、娘たちに支えられながら、家族一丸「穂州鯛」を育てる彼女の7つのルールとは。