「戦国と江戸では用意する数が違う」『桶狭間』の床山が語る、髪型、かつら、まげの時代差

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3月26日（金）21時より、フジテレビでは、十三代目市川團十郎白猿襲名記念ドラマ特別企画『桶狭間〜織田信長　覇王の誕生〜』が放送される。

日本史上最大の逆転劇とうたわれ、織田信長を一躍戦国時代の主役に押し上げた伝説の一戦、“桶狭間の戦い”を描いた本格時代劇だ。

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人物のイメージを作る大きな要因となる髪型。今川義元（三上博史）や斎藤道三（佐藤浩市）など、多くの登場人物の鬘（かつら）を、それぞれの性格や役割を考慮しながら作りあげた床山・山下みどりさんに、そのこだわりを聞いた。

――床山の仕事とは、主にどんなことをするのですか？

仕事内容はほぼ同じですが、床山（とこやま）と結髪（けっぱつ）があって、床山は立役（男性）、結髪は女方（女性）に対して使う言葉になります。ひとくくりに結髪と称されることもありますが、明確な違いがあるんです。

髪型は時代に合わせて作りますが、戦国時代の髷（まげ）は多種多様。そのぶん選択肢は広がって考えることは多くなりますけれど、資料を参考に作品や俳優さんをイメージして髪型を作っていく楽しさがあります。

これはどんな作品でもそうですが、作業としてはまず時代や人物を徹底的に調べるところから始めます。どれだけ長く、どんなに本数をやっていても、最初のこの工程は怠りません。

年代や位によって髪型が変わるのはもちろん、残っている資料からその人物の髪型もある程度は決められてしまうこともありますが、その中でアレンジを考えます。中剃り（※1）なのか総髪（※2）なのか、ヒゲの有無、髪色、紐の結び方、さまざまな部分で役柄に合わせてイメージを作っていきます。

（※1）髷を結いやすいように、頭頂部あたりを円形に剃ること。
（※2）男の髪の結い方のひとつで、髪全体を伸ばし、後頭部で束ねて後ろに垂らすスタイル。

――どのような作業工程となるのでしょうか？

かつら屋さんが、俳優それぞれの頭の形に台金をたたいて合わせた土台や網に人毛をさし、生え際を作ったものを取り付けてくれます。そのざんばら状態の髪を床山、結髮が時代や役柄にあわせて結い上げていきます。

まず、結い坊主台に鬘（かつら）をのせて、髷の高さを決めたら熱したコテで毛のクセを直します。その後、結い上げていく段階でハサミや電気コテなど使って髪型を作っていきます。

結い上がれば紐を決めます。紐の色や素材によっても見え方は変わってきます。髷の根本を黒い皮でまとめるだけのシンプルなパターンもあれば、鮮やか色で髷に巻き付けるように結ぶ派手なパターンなど、キャラクターと俳優のイメージを合わせて作っていくので、作業場にはかなりの種類の紐が用意されています。

戦の際に着用する鉢巻きも同じようにキャラクターの個性を踏まえて小道具さんが作っているので、その違いもおもしろいと思います。

――今回の登場人物の中で、特に個性的なのはどなたでしょうか？

斎藤道三といえば、資料やこれまでの映像作品で坊主頭のイメージが強いけれど、ただの坊主頭にはしたくなかったんです。佐藤浩市さんが演じるということで、強くて荒々しさがある“かっこいい坊主頭”にできないか、と考えて話し合いながら今回の髪型にしました。

ですが、浩市さんに坊主頭は不安でしかなかったので、支度は短時間で、使う材料も負担がないように工夫したので、無事に撮影が終わって良かったなと思いました。

――織田信長が率いる津島衆には、さまざまな髪型の人物がいます。

津島衆は、織田信長の正統派の家臣ではなく、荒くれ者たちの集団。だからこそ、いろいろな“頭”を作ることもできました。

彼らをイメージでいうと先住民。事前に、衣装さんや小道具さんと意見交換をして同じイメージを共有したうえで、それぞれ自由に個性を出しているのが津島衆ですので、注目してください。

――戦国時代ならではの大変さ、苦労は？

数の多さです。同じ時代劇でも、江戸時代と戦国時代では用意する鬘の数は違って、戦国時代の場合は、倍。作品によっては何倍にもなることがあります。合戦シーンがあるので物理的に人数も多くなりますし、烏帽子（えぼし）や被り物も多く、普段の時と、合戦後に冑（かぶと）をはずした時の鬘と、ひとりに対して何パターンも用意することがあるので膨大な数になります。それでも迫力のある合戦シーンができると、やっぱりうれしくなりますね。

＜プロフィール＞
山下みどり：東和美粧 メイク・床山
映画「バルトの楽園」、「憑神」、「のぼうの城」、「幕末高校生」、「本能寺ホテル」、ドラマ『柳生一族の陰謀』、『令和元年版 怪談牡丹燈龍』、『水戸黄門』『大岡越前』『遠山の金さん』など多数の作品を担当。