さまざまな世界で活躍しているダンディなおじさまに、自身の半生を語ってもらう「オヤジンセイ~ちょっと真面目に語らせてもらうぜ~」。

年を重ね、酸いも甘いもかみ分けたオトナだからこそ出せる味がある…そんな人生の機微に触れるひと時をお届けする。

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今回、登場するのは85歳の今も映画やドラマで活躍している俳優・品川徹。

現在、池脇千鶴主演オトナの土ドラ『その女、ジルバ』(毎週土曜23時40分)に、“40歳未満お断り”の超熟女バー「OLD JACK&ROSE」のマスター・蛇ノ目幸吉役で出演。

バーテンダーとして客に酒を振る舞いながら、ホステスたちを見守り、ときにはフロアでジルバのステップを踏み、女性をリードすることも。

その矍鑠(かくしゃく)としたたたずまいは、まさに古き良き時代のダンディズムを体現しているといった様相だ。

俳優人生60年を超えるベテランだが、世間に広く名が知られたのは、ドラマ『白い巨塔』(フジテレビ/2003年)で大河内清作教授を演じた67歳の時。その人生とはどんなものだったのか、『ジルバ』の撮影現場で、品川に聞いた。

最近は、ベッドに寝ている役とか老人そのものの役が多くてね(笑)。今、ドラマ『その女、ジルバ』で演じているマスターみたいな役は久しぶりですよ。しかも、こんなマイペースで朗らかな役柄は珍しくて、僕の人生の中で初めてといってもいいくらい。だいたいドラマ『白い巨塔』(フジテレビ/2003年)の大河内教授のような、硬い役が多かったからね。

『ジルバ』では、女性のみなさんがよく踊っていますが、僕にもダンスシーンがあって、今回先生について教えてもらいました。僕が20代のころは社交ダンスがはやっていて、ワルツなんかは習いに行ったこともあったけど、ジルバは踊ったことがなかったから練習しました。本当は、もっと難しいステップがあるんだけれど、先生が無理だと思ったのかな、この辺でいいだろうって(笑)。

でも、踊っている映像を、僕よりも10歳から15歳くらい若い女性の友だちに見せたら、「若いじゃない!!」なんて言われて、いい気になっているんですよ(笑)。

そんな楽しいシーンの一方で、幸吉が戦後を生き抜くために背負ってきた悲しみや切なさのようなものを、どこかで出せればいいなと思っているんだけどね。幸吉はあまり暗いところがないから、なかなかそういうシーンがないんだよね。

女優さんとうまくやっていくコツは、その人のいいところを見つけること

ドラマの現場は、女性が多いのもあって、すごく明るいですよ。池脇千鶴さんはじめ、ママ役の草笛光子さん、ホステス役の中田喜子さん、久本雅美さん、草村礼子さん、お客さん役の江口のりこさん、真飛聖さんと女性ばっかりでしょう(笑)。

女優さんたちとうまくやっていくコツ?いろんな人がいらっしゃるから、その人のいいところを見つけるんです。池脇さんは、冷静沈着で、人に対する思いやりがある人とかね。一人一人、必ずステキなところがあるので、それを見つけてインプットする。相手に伝えるわけではないけどね。真飛さんは、すごくエネルギッシュな踊りを見せてくれたから、「あなたの踊りはすごい、感動したよ」と伝えたことはあったけど(笑)。

何年も役者をやっていたからね。いいところを見つければ、言葉で言わなくても伝わるもの。僕は、ダメ(ネガティブ)なことは、絶対に言わない。それが、相手役とお芝居をやる上で、一番大事なことですね。

役者を続ける中で、もっとも大事にしていることは“存在感”

(1960年代から)役者をやってきた僕の主戦場は舞台で、ドラマ『白い巨塔』に出演したことはターニングポイントでした。その前も小さな役で何回かドラマには出ているんですけれども、やはり、『白い巨塔』で世間に名を知られるようになったことは大きいですね。

まあ、曲がりなりにも役者で食えるようになったというか。でも、たいしたことないですよ。やっぱり、大きな賞を取った方はギャラが高いし、僕は安いですからね(笑)。一応、食えるっていうだけでね。

ずいぶん役者を続けているけど、その中で、もっとも大事にしていることは“存在感”。役者って、いろんなことをやりたがるんですよね(笑)。でも、僕はそういうふうにはなりたくない、と。どうやったら、その役としてそこに存在できるか。それをいつも考えていますね。

役者を続けるためにはやっぱり健康でいないといけないから、普段からジムへ行って体作りをしています。でも、最近はコロナが怖くてね。万が一、感染しちゃったら、現場のみなさんにすごく迷惑かけるじゃないですか。だから、今はジムを休んでいるんです。

今は、せめて人通りの少ないところを歩くとか、自宅に簡単な器具を置いて、それで腕立て伏せをするとか、ダンベル持ってスクワットするとか、その程度しかできないんだよね。

それでも、筋肉は減ってしまうのね。私の亡くなった最初の妻のお父さんが洋服のパタンナーで、僕が34、35歳の時にスーツを作ってもらったのだけど、そのズボンが今ではキツくて入らない、腹が。でもね、体重は今、55キロやっとなの。当時は62キロあったのに、お腹に脂肪が付いちゃった。それがすごく残念で…。最近は、年齢を感じることも多くなってしまったね。

品川徹のジンセイ。後編では、子供時代から俳優になるまで、演劇にのめり込んだ劇団時代、影響を受けた人物などについて語ってもらう。

撮影:河井彩美