2018年にブロードウェイで開幕し、2019年のトニー賞7部門にノミネート、今冬には、メリル・ストリープ、ニコール・キッドマンらが出演して映像化もされ、世界的に注目を集めるミュージカル「The PROM」。

その日本版が、昨年結成25周年を迎えた岸谷五朗と寺脇康文による演劇ユニット「地球ゴージャス」によって初上演される。

主人公のレズビアンの高校生・エマを演じるのは、近年、「ロミオ&ジュリエット」「アナスタシア」の出演で、その歌唱力を存分に発揮し注目を集めている葵わかな。

フジテレビュー!!では、LGBTQという難しく捉えてしまいがちなテーマを、明るく楽しい歌と前向きなメッセージで表現する本作の真ん中に立つ葵にインタビューを実施。

舞台への出演は3作目ということで、「まだまだできないことだらけ」と謙遜する葵だが、本作へかける思いの大きさは、その丁寧な言葉遣いの端々ににじむ。コロナ禍において「今だからこそ、やるべき」と感じているという本作について話してもらった。

誰かが陽のエネルギーを混ぜて、中和していかなきゃ

――本作への出演が決まったときの印象を教えてください。

「地球ゴージャス」という、これまでたくさんの素敵な演劇作品を作られてきたカンパニーから声をかけていただけたことが、すごくうれしくて。「こんな有名なところから!」という驚きがありました。

――「地球ゴージャス」といえば、どの作品も注目が集まりますが、その点でのプレッシャーはありませんでしたか?

実はお話をいただいたのはかなり前だったので、その時点では「アナスタシア」(2020年3月上演)が終わっても、またミュージカルができる機会がある、ということが素直にうれしかったです。

ただ今こうやって公演が近づいてくると、単独で主演をやらせていただくのも初めてですし、1日2回公演の日もあるので、役としてのプレッシャーというより、自分の代わりがいない、という、体力や健康面の心配が出て来て、その点での責任をすごく感じています。

役柄としては主演ではあるのですが、お話に出てくるキャラクターそれぞれにエピソードがあるので、一人で引っ張っていくような形でもなく。周りは私より経験のある方ばかりですし、いろんなことを教わりながらやっていけたらいいな、と思っています。

――前作の「アナスタシア」はコロナの影響で中止になった公演もありました。それを踏まえて、今、改めて思うことはありますか?

「アナスタシア」はちょうど日本で新型コロナウイルスが流行り出した時期で、公演をやってもいいものなのか、今以上に未知な部分も多くて選択が難しかったんです。知らないものに対する恐怖と、やりたい、という気持ちが入り混じって、かなり複雑な心境でした。

そこから1年くらいが過ぎて、今思うのは、1つの公演をやるのに、これまでにはなかったいろんなことが必要になって、やることのハードルは上がっていてるのですが、そんな今だからこそ、やるべきなんじゃないか、ということ。

公演を行う以上は常にリスクと隣り合わせであることは理解しているつもりです。けど、目まぐるしく変化してきた1年を経て、やっぱり大変なことも多かったと思うので、そこに誰かが陽のエネルギーを混ぜて、中和していかなきゃ、と思うんです。それができる一番近いところにいるのが、エンターテインメントじゃないかな、と。

これまでも「皆さんに勇気を与えたい、伝えたい」という言葉をよく使っていたのですが、それとはまた違う、もう一つ深い意味で、今、自分たちにできることがあるのかもしれない、と思うようになりました。

私も自粛中、音楽やお芝居の力に助けられて、その大きさを実感したので、自分がそれを発信できる側にいるのならば、やらなくちゃいけない、という何か使命感みたいなものを感じています。

性の多様性の課題は暗く取り扱わなくちゃいけない、って誰も決めていない

――そういう意味でも、逆境に対して皆で手を携えて乗り越えていくというストーリーの本作は、今、やるべき作品なのかもしれないですね。

私が気に入っているのは、LGBTQという難しいと捉えられがちな題材に取り組んではいるのですが、明るく話が展開していくところ。私が演じるエマだけでなく、みんながそれぞれの立場で悩みや思惑を抱えているんです。けどそれを暗いトーンではなく、明るくポップに表現している。

考えてみれば、性の多様性の課題は、暗く扱わなくちゃいけない、って誰も決めていないですよね。観てくださった方の元気や勇気につながる作品かな、と思います。

――LGBTQを扱うことは難しいと捉えがち、と言いましたが、そこに挑戦する上で思うところはありましたか?

こういった取材などで話すときは、自分の知識の足りなさを感じるのですが、エマは女性のアリッサ(三吉彩花)のことが好きですけど、相手が女性であろうと、男性であろうと、誰もが持っている人を好きという感情を持っているだけで。それはすごく単純なことだと思うんです。

できればこの作品を通して、当たり前のことなんだ、ということを、自分にもなじませたいし、観てくださる方にも伝わったらいいな、と思います。

――エマというキャラクターをどんなふうに演じたいと思っていますか?

エマの中にあるものは、他の人とそんなに違うものではない、と感じていて。だから特別な何かをしようとは思っていないです。

エマは自分を認められない限り、他人も認められないという考えを持っています。それは私自身もすごく大事と感じる考え方なので、そこをきちんと理解して表現していきたいな、と。

あとは高校生という年齢もあって、自分がこの先どのように生きていきたいか、と考えながら、変化をしていくんですけど、そこでも自分を悲観せずに、前向きに進んでいくので、その明るさを保てるようにしたいな、と思います。

――エマは恋愛対象が女性であることを隠していないですが、相手がそのことを隠していることに関しては、責めることもなく、理解していますよね。

周囲とは意識の差があることも理解して、受け入れている。それは本当にすごいことだな、と思いました。

三吉彩花ちゃんとは、狙っていたのかな?と思うくらいの身長差(笑)

――共演者の方々にはどんな印象を持っていますか?

(トレント・オリバー役の)寺脇康文さん以外は、皆さん共演するのが初めてで。ただどのキャラクターも濃いので、きっとすごく面白くなるだろうな、と、楽しみにしています。

三吉彩花ちゃんとは、ポスター撮影をしたときに少しだけお話をさせてもらったんですけど、私との身長差がすごいんです(笑)。狙っていたのかな?と思うくらい。

今回、ミュージカルに挑戦されることを、ドキドキしているとおっしゃっていたので、一緒に頑張っていけたらいいな、と思っています。私自身、女性同士の恋人役をやるのは初めてなので、どういう関係性になれるのか、楽しみにしています。

それと、キャラクターとしては、D.D.アレン(大黒摩季、草刈民代、保坂知寿)が気になります。嵐のような人なので、それを今回、トリプルキャストで、それぞれの方がどんな風に演じるのか。迫力があって、難しい歌ばかりなので、それを聴けるのも楽しみです。

――岸谷五朗(バリー・グリックマン役)さんは、共演者であり、演出家でもありますが、どのような印象を持っていますか?

俳優もやっている方が演出もされる作品に関わるのが、今回、初めての経験で。演出業だけをされている方とは違うのかな?すごく怖かったらどうしよう?とか(笑)、今は不安と期待が混ざった状態です。

――現段階(取材時1月)で葵さんとしてはどの程度、準備を進めていますか?

歌の練習を始めています。キャッチーな曲が多くて、一回聴いたら忘れないです。エマとアリッサが2人で歌う「Dance With You」という曲が、本当に耳に残るメロディで、練習していてとても楽しいです。

歌を口ずさみながら、ノリノリになってほしい

――葵さんはドラマや映画にも出演していますが、お仕事の中でも“ミュージカル”はどのような位置付けになりますか?

勉強の場であり、楽しみの場でもあります。舞台を始めて自分の中で変わった部分も多いです。まだまだできないことだらけで、「くぅーーー」って声が出ちゃうようなこともあるんですけど、それを乗り越えたときの楽しさがあります。それからお客さんのリアクションを目の前でもらえる、というのも大きいです。

舞台は稽古や公演期間を含めて、一つの作品に長い時間を費やすことになるので、そんなに頻繁にできるものでもないのですが、これから先、何年もかけて続けていく中で、一段ずつ階段を昇っていけたらいいな、と思っています。今はもがきながら楽しんでいます(笑)。

――本作でも新たな挑戦をされていると思いますが、プライベートであれは挑戦だったな、と思うようなことはありますか?

車の運転免許証を取ったことですかね。仕事もあって、通える期間が限られていたので、そこで絶対に取るって決めて、ほぼ毎日のように通っていました。昔から人見知りで、知らないたくさんの人と一緒に何かをやるのが苦手なので、教習所までのバスに乗ることですら緊張してしまって。一般的には大したことではないと思うんですけど、私的にはチャレンジでした。

――苦労して取った免許は使っていますか?

運転は好きなので、タイミングがあれば乗っています。リフレッシュになります。

――お勧めのドライブスポットはありますか?

千葉の九十九里に“波乗り道路”と呼ばれている海沿いを走れる有料道路があって。そこはもう一度行きたいな、と思っています。海沿いを走って、九十九里浜に行って、帰りに海鮮を食べて。それがすごくいいプランだったな、と。ただその日、曇っていたんですよね。だから、今の状況が落ち着いたら天気のいい日にもう一度行ってみたいです。

――最後に本作を楽しみにしている方にメッセージをお願いします。

思わず一緒に踊りたくなるような、明るくて素敵な曲がたくさんあるのですが、そういう楽しさの中で、人として考えなければいけないようなことをそっと投げかけてくれる作品だと思います。

状況的には難しいところもあると思いますが、観ていただける方には、あまり難しく考えず、気軽に来ていただいて、観終えたときに思わず歌を口ずさんでしまうくらい、ノリノリな気分になってくださったらうれしいな、と思います。

撮影:山口真由子 ヘアメイク:竹下あゆみ スタイリスト:岡本純子 衣裳協力:トップス、オールインワン(共にワイズ)ピアス(マリハ)

<「The PROM」ストーリー>

アメリカの高校で、卒業を控えた学生たちのために開かれるダンスパーティ“プロム”。

インディアナ州の高校に通うエマは、同性の恋人アリッサとプロムに参加しようとするが、多様性を受け入れられないPTAが、プロムを中止にしてしまう。それが原因でエマはいじめを受ける。

するとそこに、落ちぶれかけたブロードウェイスターたち(D.D.アレン、アンジー、バリー、トレント)が騒動を知り、自分たちの話題作りのために、エマを助けに街へやって来るのだが…。

最新情報は、ミュージカル「The PROM」公式サイトまで。