坂元裕二、野島伸司、尾崎将也、野木亜紀子、水橋文美江、橋部敦子、浅野妙子、いずみ吉紘、黒岩勉など、多数の人気脚本家を輩出してきた「フジテレビヤングシナリオ大賞」。
このたび、第32回の大賞受賞作品と佳作受賞作品が決定。11月26日(木)にお台場のフジテレビ本社にて授賞式が行われた。今回、1567編の応募があった中から、大賞を受賞したのは、コピーライターの的場友見さん(38歳)が書いた『サロガシー』。
同性愛者の友人との会話から着想を得て、2日で書き上げた力作
的場さんは「2020年は、ドラマの力やすばらしさを実感した人が多い年ではないかと思います。そのような年に、このようなすばらしい賞をいただけたことを本当にうれしく思います」と喜びのコメント。
『サロガシー』で描いたのは、28歳の女性が、ゲイの兄のために、代理母(=サロガシー)として、妊娠・出産を決意するところから始まるヒューマンドラマだ。
同性愛者の友人との会話から着想を得、そこからプロットを作ることもなく、自身の強みでもあるスピードを生かし、なんと2日で書き上げたという。シナリオを書き始めて2年、今まで受賞歴もない中、いきなりの大賞受賞となった。
選考委員からは、「代理出産、LGBTといったセンシティブな題材ながら、この作品の真骨頂は登場人物たちの人間的魅力ではないか。特別な人たちではなく、どこにでもいる生活者たちの物語だと思わせる人物像を丁寧に書き出し、飽きさせずに展開していく構成も巧みである」と評価されたが、中でも女性審査員の高評価が目立って高かったそうだ。
現在、コピーライターとして書く仕事に携わっているが、「一生書く仕事をしていきたい」と語る的場さんは、好きな脚本家に、坂元裕二、岡田惠和を挙げつつも、「生きざまとしては、橋田壽賀子先生のような、人生100年だとしたら100まで書けるような人になりたい」と力強く話した。
小学5年生の男子2人の青春と成長を全編関西弁で熱く描いた『東京バナナ』
的場さんが書いた『サロガシー』と「最後までどちらを大賞に推すか意見が分かれた」(選考委員)というのが、編集・ライターの湯田美帆さん(36歳)が書いた『東京バナナ』(佳作受賞)だ。
お笑いコンビを目指すも、引っ越しで離れ離れになってしまう小学5年生の男子2人の青春と成長を全編関西弁で熱く描いたこの作品。
選考委員からは、「勢い。ぶれない強さ。2人の少年を主人公に、そのみなぎるパワーがそのまま作品の力となり一気に読ませる。この少年たちを見てみたいと思わせるところが作者の才能」と称賛を集めた。
シナリオを書き始めたのは2019年という湯田さんだが、「もともと人を喜ばせたり、笑わせるのがすごく好き。宮藤官九郎さん、三谷幸喜さんのような、“人を笑わせるプロ”みたいな脚本家さんにすごく憧れています。見ている人のテンションを挙げられるような作品を作ることを目標として、脚本をやっていきたいと思います」と抱負を明かした。
夫への不満を深夜にチョコレートを貪り食うことで慰める妻の狂気を描く『ふぁってん!』
大学生の横尾千智さん(22)が書いた『ふぁってん!』(佳作受賞)は、夫の世話を甲斐甲斐しく焼きながらも、たまった不満を深夜にチョコレートを貪り食うことで慰める妻・真希の狂気めいた物語。
選考委員からは「日常に潜むざらっとした狂気。それを力感なく描くところに才能を感じさせる」との評価を得た。
横尾さんは美術大学入学後、アルバイトでお金をためシナリオ教室に通い、勉強。そこから半年で基礎課程を卒業し、コンクールに向け執筆活動へ。物を書くのが好きなので物語を小説として執筆し、そこからシナリオに書き換えるという手法を取っていたこともあるそうだ。3年半ほどで書いた作品は短編・長編含めて110本。今回受賞した作品が、「111本目」になるそうだ。
「私は、雑食でミーハーなので、ドラマや映画だけではなく、アニメも書いてみたい。これから先、そういったものも書く機会があればいいなと思っています」と、今後を語った。
痴漢を疑われ落ち込む男性に開花した“変態的”な才能とは?
「5年ほど前、たまたま脚本を見る機会があり、『これ自分でも書けるんじゃないか?』と思ったことが、書き始めるきっかけでした。実際、全然そんなことはなかったですけど(笑)」と笑わせた、会社員の山崎力さん(31)は、『男は背中を語る』で佳作受賞となった。
痴漢を疑われ落ち込む青年のそばを偶然通りかかった2人の初老の男性。青年は男性たちに誘われ、「女子大生の背中を見てひたすら妄想を言い合う」という変態的な遊びに参加し、隠れた才能を開花させ…という物語だ。
選考委員からは「短いセリフと掛け合いのリズム。これを徹底し繰り返していく構成のうまさ。テーマが先行ではなく、スタイルで勝負している割り切りに、作者の自信とストーリーを破綻させない力量を感じさせる」と評価された。
その評価に山崎さんも「リズム感やテンポを評価していただいていると聞いたので、そこを強みにしていこうと思っています。面白いというのは、人や立場・状況によって違うと思いますが、とにかく面白いと思ってもらえる本を書いていきたいし、そういう脚本家になりたいと思っています」と意気込みを語った。
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