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葛飾北斎、歌川広重など、江戸時代を代表する五大絵師らの名画を、超高精細デジタルアート作品として蘇らせたデジタルアート展「巨大映像で迫る五大絵師―北斎・広重・宗達・光琳・若冲の世界―」が、大手町三井ホールで7月16日（金）から9月9日（木）まで開催中。

先日、縦7m、横45mの3面ワイド巨大スクリーンが設置された【メイン会場】でプレス発表会が行われ、展覧会のアンバサダーを務める歌舞伎俳優の尾上松也と、監修を担当する日本美術史家の小林忠氏、国宝・俵屋宗達「風神雷神図屛風」所蔵先の大本山建仁寺の浅野俊道氏が登壇した。

その模様を、尾上のインタビューと合わせてお届けする。

本展覧会の目玉は、荘厳な音楽とド迫力の音響とともに3面巨大スクリーンに映し出される20分間の超高画質映像だ。北斎の「富嶽三十六景」や広重の「東海道五拾三次」、俵屋宗達と尾形光琳が描いた二つの「風神雷神図屛風」などが、驚きの演出ともに絵巻のように展開する。巨大スクリーンに囲まれるように設置された客席に座って映像を体感すると、まるで名画の中に飛び込んだような感覚が味わえる。

尾上はこの映像を初めて見たときの衝撃を、「大画面で見る迫力、その美しさに息が止まるような感じがいたしました」と表現。

背後のスクリーンに、リアルな鶏が描かれた伊藤若冲の「仙人掌群鶏図」が映し出されると、「これだけ大きな画面になっても見劣りせず、まったく隙がない。当時の絵師たちが絵に魂を込めて描いているのがわかるし、それが今も僕たちの胸を震わせてくれる。（芸術家の）情熱や魂というのは、時代に関係なく紡がれ、伝わるものなんだなと感じました」と感慨深げに話した。

美術館の館長もつとめる小林氏は、「まずはこういう展覧会で、古いものにも画家が埋め込んだ“感動の種”が宿っていることを感じていただけたら」とコメント。

浅野氏は、巨大映像で大活躍する建仁寺所蔵の俵屋宗達「風神雷神図屛風」（※）について、「雷神さんの腕は、実は両方、右腕なんです。このアート展で見つけたそういう発見を、改めて建仁寺へ来て（屏風を見て）感じていただけたらうれしい」と語った。

※俵屋宗達「風神雷神図屛風」の原本は京都国立博物館に寄託。建仁寺では複製が鑑賞できる

会場は3つのエリアで構成され、最初に入るのが【解説シアター】。ここでは、超高精細デジタル画像で作品の緻密な部分を拡大表示し、作品をわかりやすく解説してくれる。

ナレーションを担当した光浦靖子も、海外からリモートで参加。「絵の中に飛び込み、絵の中に囲まれるという、今までしたことのない体験でホントにびっくりしました！（単に）絵を見るのではなく、されるがままにジェットコースターに乗っている感覚で“体感”する五大絵師展を楽しんでください」とコメントした。

【Digital北斎×広重コーナー】では、「富嶽三十六景」と「東海道五拾三次」からセレクトした58作品を大型モニター12台で紹介。浮世絵を3Dデータとして組み上げ、20億画素の超高精細なデジタルリマスター化を実現し、作品の微細な凹凸や、和紙の繊維の質感までも立体的に復元している。

お馴染みの作品も超高精細デジタルで見ることで、また違った味わいが楽しめる。

――改めて、五大絵師の名画を初めて巨大映像で見たときの感想を伺えますか。

音楽と映像技術が融合してどういうふうになるのか、すごく楽しみでしたが、大音響や大画面とのマッチ度や、演出の素晴らしさが予想以上で。20分があっという間で、1時間でも2時間でも見ていられるなと感じました。それと今日、（改めて見て）あ～この会場の真ん中に布団を敷いて、音響もいい具合に調整して、大画面の映像の中で眠りたい！と思って（笑）。癒されて、すごくいい眠りにつけるだろうなって思いました。

――巨大映像の中でお気に入りの作品は？

大画面で見るのだと、「東海道五拾三次」が一番よかったですね。（その中の）「日本橋 朝之景」は特に庶民の息遣いが感じられて、暮らしぶりが想像できるし、大画面で見ることによって、その町の中に入り、住民の一人になったような錯覚を覚えました。

――「東海道五拾三次」はさまざまな場面が切り取られていますが、もしタイムスリップできるとしたら、どの場面に行きたいですか？

日本橋を描いた場面ですね。僕はもともと銀座に住んでいたので、日本橋もなじみがあって、地元みたいな感覚なんです。歌舞伎をやっていても、あの当時、この町はどういう感じだったのかな？と想像することはありましたけど、大画面で見て、よりその世界観に入り込んだ気がして、「この時代に行ってみたいな」という思いが強くなりました。

――これまで目にした作品も、巨大映像で見ることで印象が変わったとのことですが、特に印象が一変した作品はありますか？

一番変わったのは、「風神雷神図屛風」かもしれませんね。光琳の絵と宗達の絵の違いは、普通に見比べるだけでもなんとなくわかるんですけれども、（今回の映像で）細かく見ていくと、目の表情や目の向き、筆のタッチの違いまでがすごくよくわかる。で、もうちょっとじっくり見たいのに（映像がテンポよく進んで）見せてくれない絶妙さがあるので（笑）、近くでもう一回見たい！という気分にさせられました。

――解説シアターで、光琳の絵は、宗達の「風神雷神図屛風」を写して描かれたものだと解説されています。

写した絵でも、やはり描き手が違うだけでこんなに違うんだというのは、ある種、歌舞伎の演目にも似ているような気がします。歌舞伎もいろんな型があって、それを伝承し、先輩方から教わりながらやっていきます。それぞれ同じようにやっているつもりでも、おのずと個々の色や形ができてしまうし、また、それを出していかなきゃいけないというところは、（絵師たちの在り方と）すごく共通する何かを感じました。

――当時の絵師たちの仕事と、歌舞伎との共通点はほかにもありますか？

僕が作品を拝見して感じたのは、やはりこの時代に生きた絵師のみなさんが、絵に魂を込めて描いているなということで。細かい描写を見ると、魂と情熱がこもっていなければ、とてもこんなことはできないということをやっているんですよね。その情熱には感動いたしましたし、作品からはどれもその時代の空気を感じるんです。

我々の歌舞伎も、当時生きていた方々の魂や生き様を継承して、今、現代に生きるみなさまに見ていただいています。そういう部分で、絵も歌舞伎も、先人たちの魂を受け継いでいくというところでは同じなのかなと思います。また、歌舞伎は古典芸能でもあるんですけど、現代においても演劇として公演が行われている以上は現代劇だと思うし、絵もそうだと思うんです。

文化芸術というのは、これまでもずっと我々の支えになってきましたし、これからもそう。芸術家の情熱や魂というものは、未来永劫続いていくものだと思っていますね。

取材・文／浜野雪江