高木渉「白米みたいな役者になりたい」ベテラン声優が目指す“究極”とは？【声優FILE.】

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近年、注目度が増している声優。フジテレビュー!!では、出演作のことはもちろん、“声優”について語ってもらう企画「声優FILE.」を連載中。

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第5回は、10月8日（金）公開のアニメーション映画「神在月のこども」で、諏訪の神様・龍神の声を担当している高木渉が登場。

「神在月のこども」は、日本各地で「神無月」と呼ばれる10月に、出雲では「神在月」として全国の神々が集い、翌年の縁を結ぶ会議を行うという云われを題材に、人々と神々、各地と出雲、そして“ご縁”という価値観を描いた作品。母を亡くし、大好きだった“走ること”に向き合えなくなった少女カンナを、兎（シロ）と少年（夜叉）が出雲への旅にいざなう。

数々のアニメや洋画の吹き替えを担当し、第一線で活躍してきた高木は“神”の役をどのように演じているのか。そして、仕事を続ける上で一番大切にしていること、憧れている先輩声優についても語ってもらった。

――「神在月の子ども」には、どういった経緯で関わることになったのですか？

実は、出演依頼が来る前に原作者の四戸俊成さんと三島鉄平プロデューサーが、「初めてアニメーションを作るのですが、声優として長く携わっている高木さんからアドバイスがあったらもらえませんか？」と、企画書を送ってくれていたんです。

読んでみたらコンセプトが面白くて。幼い子の一生懸命な姿と、日本の原風景や各地の神々が登場して、「あらゆる物に神様が宿っている」という“日本の心”みたいなものが描かれていて、海外にも発信できたら面白いなと思いました。

また、島根県出身の三島プロデューサーの「出雲を舞台にしたアニメを作って故郷に恩返しをしたい」という純粋な気持ちにも共感して、「素敵な作品になりそうですね！」と、そのままの気持ちを伝えました。

――その後、龍神役のオファーを聞いたときは、どんな気持ちでしたか？

まさか自分が龍神を演じるとは思っていなかったので、「僕でいいの？」と思いました。諏訪の神として主人公・カンナの前に立ちはだかる“関所”のような役どころなのですが、普段の僕はおふざけタイプなので、これは心して臨まないと、と思いました（笑）。

――収録の手応えはいかがでしたか？

アニメの製作と同時進行だったので、まだ未完成な部分も多かったのですが、「お芝居によって絵も変えますから」と言われていたので、合わせるというより結構自由に演らせていただきました。

大きな芝居で龍神の怖さを出しつつ、カンナに寄り添うときはしっかり寄り添うといった「距離感」を大事にしながら演じてみました。残念ながら新型コロナの影響でカンナ役の蒔田（彩珠）さんと一緒に掛け合いはできなかったのですが、収録の合間にご挨拶ができて良かったです。

――完成した作品を見て、いかがでしたか？

蒔田さんの飾らない芝居というか、気持ちが純粋に現れた自然な演じ方が、すごくいいなと思いましたね。

――本作は、人々を俳優陣が、神々を声優陣が演じています。神であるシロ役の坂本真綾さん、夜叉役の入野自由さんについては、いかがですか？

実は、三島プロデューサーから「どうしてもシロは坂本真綾さんで、夜叉は入野自由さんでやりたいんだけど、面識がないから力を貸してもらえませんか」と相談されて。それで2人に「三島さんという人から連絡が来ると思うけど、怪しい人じゃないからね。良かったらぜひ！」と、LINEしたんです（笑）。

そうやって僕も一緒に声をかけたこともあって、試写で真綾ちゃんと自由くんの素晴らしい芝居を聞いたときは、ベストキャスティングが実現できたうれしさを感じました。

――高木さんは長年、声優として第一線で活躍されていますが、一番大事にしていることを教えてください。

声優の仕事に限らず舞台も映像もそうですが、お芝居に「説得力」を持たせたいなと思っています。風変わりな芝居をしようとしても、説得力がなければ響かないし、逆に何か説得力があれば、演技のスタイルは自由でいいと思うんです。年代や個性によっていろいろな表現の仕方があっていい。ただ、観る人をポカンと置いてきぼりにさせるのではなく、説得力があって“心にくる”芝居ができるようになりたいなと思っています。

――説得力を増すために心がけていることはありますか？

うーん、なんでしょうね…人間ウォッチング？存在感のある人、好きですね。例えば電車に乗っていて、「酔っぱらいってこういう動きするんだ」って観察したり(笑)。「そんな動きするのか！」って、リアルを見てリアリティを学ぶ、みたいな(笑)。

あとはドラマや映画を見ながら、俳優さんから学ぶことも多いですね。真似しても真似できないからこそ、そこから自分のスタイルが作られることもあると思います。洋画の作品を観ていても、日本と外国の表現の違いがあって、とても勉強になります。

――今、一目置いている若手の声優さんはいますか？

たくさんいますよ。僕に無いもの持っている人を見ると、すぐ「すごいなぁ」と思っちゃいます。ただ、やっぱりそんな時にも思うのは、この人の芝居って説得力あるなぁとか、面白くて存在感があるなぁというところですかね。

アニメでも洋画でもアフレコ中にそんな子をみつけたら、そっと香盤表を見て名前を確認することもあります。そんな彼らから、日々刺激をもらっています。

――今後チャレンジしてみたいことはありますか？

必要としてもらえるなら、何でもやってみたいですね。もう55歳なので反射神経は若者には及びませんが（笑）、いくつになっても挑戦は続けたいです。

もちろん声優はこれからも本業としてやっていきますが、映像や舞台から吸収することもたくさんあるし、やってみたいこともあるので続けていきたいですね。

声優も映像も舞台も、俳優の仕事としての違いはないのですが、関わっている人の数だったり、かけている時間や労力、収録の仕方、準備にそれぞれ違いはありますよね。それがまた面白いんです。

自分の不甲斐ない芝居に落胆することもいっぱいありますが、いろいろな刺激を受け入れながら自分なりに楽しめれば、そこに発見や成長があるんじゃないかな、と思っているんです。

変な例えかもしれないけれど…究極、なれるなら“白米みたいな役者”になりたいなって思っているんです。

白米って脇役にも主役にもなれるでしょ。いろいろなおかずに合うし、存在しているだけで、それだけで美味しい。白米ってみんな好きじゃないですか（笑）。飽きないし、ないと困る存在。

和食・洋食・中華にもカレーにも合うし…例えば、とんかつ。あれは、とんかつが主役だけど白米が美味くなかったら、とんかつも美味くないでしょ。そんな、仕事のできる“白米みたいな役者”になりたいっていうのが、これからのチャレンジであり、夢ですね。

気になるというか、ときどきふっと思い出すのは、森川智之かな。養成所も同期で、芝居の勉強もずっと一緒にしていましたからね。森川が活躍しているのを見るとうれしいし、自分も励みになりますね。

お互いの性格からか、不思議と馴れ合いがないんです。ほど良い距離感で切磋琢磨しながら刺激し合える仲っていうのかな。若い頃から一緒に夢を語ったりしてきたから、言うなれば同士ですね。

頻繁に連絡を取り合う方ではないので、ずっと会わない時期が続くと「今頃どうしてんのかな？元気でやってんのかな？」って思うし、たまに電話に着信だけあったりすると「おい、何があった？」って気になりますね（笑）。

あと、僕がデビューした時からずっと可愛がってくださっている、堀内賢雄さん。飾らなくて、いつも笑いを振りまいてくれる。あんな先輩になれたらいいなっていつも思っています。真似できないんですけどね（笑）。

若手の顔と名前をすぐ覚えるし、スタジオでも冗談を言いながらその場の雰囲気をいつも楽しくしてくれます。これって新人にとっては、うれしいことですよね。僕は何度も緊張をほぐしてもらって、救われたのを覚えています。

それ以来、僕も仕事場の雰囲気は柔らかくしたいと思うようになりました。やっぱり収録現場の空気感って作品に表れると思うし、楽しく仕事したいじゃないですか。みんな無言で、何か圧を感じるような空気は、スタジオにはいらないなと思って。

ただ、優しいだけではないんです。若い頃は、飲みながら僕が生意気なことを言ったときに、賢雄さんに胸ぐらを掴まれたこともありますよ（笑）。そうやって真剣に叱ってくれるところも好きです。

ほかにも憧れる先輩は何人もいますが、目標にしたいと思える先輩に出会えるって幸せなことですよね。僕もこれから先、後輩たちに何か残してあげられるような先輩にならなきゃいけませんね。恩返しとして。

10月8日（金）より全国ロードショー

キャスト
葉山カンナ：蒔田彩珠
神使の兎・シロ：坂本真綾
鬼の少年・夜叉：入野自由
葉山弥生：柴咲コウ
葉山典正：井浦新
大国主：神谷明
葉山カンナ（幼少期）：新津ちせ
ミキ：永瀬莉子
龍神：高木渉
恵比寿：茶風林

最新情報は、映画「神在月のこども」公式サイトまで。

配給：イオンエンターテインメント
©︎2021 映画「神在月のこども」製作委員会