『やまとなでしこ』(フジテレビ)、『ハケンの品格』(日本テレビ)、『花子とアン』、『西郷どん』(ともにNHK)など、数々の人気ドラマの脚本を手掛けてきた脚本家の中園ミホが、相性や人間関係にフォーカスした占い本「相性で運命が変わる 福寿縁うらない」(マガジンハウス)を出版。

「福寿縁うらない」は、14歳から占いを学び、脚本家になる前は占い師だった中園が、占いの師匠から受け継いだ知識に自ら占った人々の膨大なデータを加えてまとめたもの。自分だけでなく相手のキャラクターや運気を知ることで、人付き合いのコツがつかめ、仕事も恋もうまくいくようになるという。

28歳で脚本家デビューした中園の活躍の舞台裏に、常にあった「占い」。インタビュー前編では、運気の上げ方(低迷期の過ごし方)とともに、ヒットメーカーの中園が自分の生活にどのように占いを活かし、人生を切り拓いてきたのかを聞いた。

<中園ミホ インタビュー>

――脚本家になる前は占い師をされていたそうですが、占いを始めたきっかけから伺えますか。

14歳のとき、母の友人で今村宇太子(いまむら・うめこ)さんという東洋占術の大家がうちによく遊びにいらしていて。ある日その方が、私の欠点や、親も知らないような密かな思いをズバズバ言い当てたんです。もうびっくりして、私もぜひ学びたいとお願いしたら、「あまり若い人が勉強するものじゃないから」と最初はやんわり断られました。

でも私は、先生がいつも手帳を見ながら占っているのがすごく気になって、先生が母と食事をしている間に手帳をこっそり見て、意味不明の図表のようなものを書き写していたら、「そんなに知りたいなら、ちゃんと勉強しなさい」と言ってくださったのです。四柱推命と、先生が生み出された数気学を組み合わせた占いを本格的に教わりました。

ひと通り基本的なことを習い終えると、「お金をとらないで、まず千人見なさい」と言われました。高校のクラスメイトを全員占ったりして1年で達成しました。占いって勉強しただけじゃダメで、人のことを占ったり、自分で占いを活用したりして初めていろんなことがわかって来るんです。

占いの師匠のアシスタントから脚本家になった理由は、ある脚本家への一目ぼれ?

――実践を重ねて、占いがどんどん面白くなっていったわけですね

そうはいっても、占い師になる覚悟はありませんでした。大学卒業前は普通に就職活動をしました。試験に落ちまくり、親戚のコネで小さい広告代理店に入ったのですが、全然仕事ができなくて、1年3ヵ月で自主的に辞めました。そのとき、私は唯一占いだけは勉強してきて、手に職があるということで、占いの師匠のアシスタントになったんです。

ただ、ダメな会社員時代にも、今につながる出来事がありました。同僚が脚本学校に申し込んだのに忙しくて行けず、「代わりにノートをとってきてくれ」と言われて、代理で通ったんです。脚本家の先生たちとの飲み会にもちゃっかり参加していたら、ある脚本家に一目ぼれをしてしまって(笑)。一方的に片思いして、こっぴどくフラれたんです。

そのときふと、「脚本家になれば、またあの人に会える」と思って。翌日から国会図書館に通い、その方の脚本を全部大学ノートに書き写しました。脚本家になれるかどうかわからないけれど、とりあえずその人のセリフを書きたくて毎日書きました。そうしていくうちに、だんだん脚本の構造がわかってきて、面白さに気づいたんです。

――苦しい片思いが、思わぬ発見につながったのですね。

実は脚本を書きたいという気持ちは、もっと前からありました。私は10歳で父を亡くし、19歳で母も亡くしました。19歳のときはかなりつらかったんです。あまりにもつらくて、当時大学で遊んいでた友達の顔も覚えてないぐらい現実の記憶がないんですね。

そんな中で、映画やドラマや本の世界に浸ると、つらさをほんの少し紛らわすことができた。現実の友達の顔も覚えてないのに、当時見たドラマの景色は今もはっきり覚えています。たぶん、私が本当につらいときに支えてくれたのはそういう虚構の物語で。

「脚本家」という職業があるというのももちろん知っていましたし、やってみたいという気持ちもありました。けれど、コツコツ頑張ることが嫌いなぐーたらな自分が、脚本を書いてみたいなんておこがましくて言えなかった。

でもそれを察した占いの先生から、「私はあなたにあとを継いでほしいと思っているけれど、あなたはやりたいことがあるでしょう。自分が今どういう時期で、この先どうすべきなのかを自分で占いなさい」と言われて。その日きちんと占ってみたんです。

運気は人の影響を強く受けるため「ドラマをつくるときはスタッフ全員の運気や相性を鑑定」

――占いではどう出ましたか?

運気は、季節が移り変わるように12年の周期で巡っています。それぞれの年に、種まきや努力が実る収穫、新しい季節に備える冬の試練などの意味があります。その中で当時の私は、「空亡」という厳しい冬の時期、低迷期に入っていくギリギリ手前にいたんです。それは運気がガラッと変わるときでもあった。私は占いの仕事を続けるよりも、密かに思い続けてきた脚本を書く仕事をやったほうがいいし、その夢にチャレンジするなら今しかないと思ったのです。

ちょうど、バーで知り合った脚本家の桃井章さんから、刑事ドラマの下書きを頼まれ、憧れの世界に飛び込むチャンスは来ていました。今これをやらないと、脚本家になりたいという夢はきっとうやむやになってしまう。「今やらなきゃだめだ」と占いに背中を押され、人生で初めて努力をして書き上げました。

ただ、できた脚本はまぁひどいものでしたね。なんと、1時間たっても犯人がつかまらない刑事ドラマを書いてしまった(笑)。でも、桃井さんもプロデューサーも「セリフだけは面白い」って言ってくださったんです。プロデューサーから「構成は教えるから、その通りに書いて」と言われて、10回ぐらい書き直ししてできたのが、デビュー作の『ニュータウン仮分署』(テレビ朝日/1988年)です。

――誰も教えることのできないセリフのセンスが、当時からあったのですね。

それは占い師をしていたからだと思う。当時、私の占いの先生のところには、政治家や企業のトップがよく来ていました。どんなに偉い方でも占い師の前では、みんな本音で話します。新聞やテレビのニュースでしか見たことがないような社会的に立派な方たちが、奥さんの金遣いの荒さや、お嬢さんがお嫁に行かないと悩んでいたりする。脚本家としての引き出しになる人間ウォッチングや取材ができていたんでしょうね。

――中園さんのドラマに出てくるチャーミングなキャラクターは、そうした占い師の経験が役立っているのですね。脚本家になった今も占いを活かされているとか。

ドラマをつくるときはスタッフ全員の運気や相性を見ますね。というのも、運気は人の影響を強く受けるので、自分の運気だけでなく、まわりの人たちの運気や相性も仕事の結果に関わってくるんです。しかも、脚本家をやっていると、たとえば視聴率という形で仕事の結果がはっきり出ますから。

――「福寿縁うらない」では、気になる相手との相性も、運気と同じ12の言葉で表されています。その相性がどのように作用するのでしょうか。

たとえば、私にとって「極楽」とか「天恵」という相性の人は、こちらが嬉しくなることを言って幸せを与えてくれるし、打ち合わせも楽しくて仕事がしやすいんです。でもそういう人ばかりのチームでつくっても、ドラマって当たらないんですよ。

逆に、自分との相性が「空亡」の人が多かったり、荒れた運気のチームで仕事をしたときのほうが、良い結果につながる。困難だらけなんだけれど、それをみんなで必死に乗り越えようとするから、ものすごいパワーが出るんだと思います。『やまとなでしこ』(2000年)をつくったときがまさにそうでした。

――愛よりお金を信条に掲げるヒロインを松嶋菜々子さんが演じ、最高視聴率34.2%を記録。空前の大ヒットとなった作品ですね。

スタッフや俳優さんを占いながら、青ざめましたね(笑)。運気を調べたら、ことごとく空亡だったり、私にとっての相性も空亡の人が多くて。「うわぁ、大変だ!」と思ったら、天気は荒れるし、スタッフ間ももっと良いものをつくろうとしてぶつかるし、撮影の条件に合わせて脚本も書き換えなきゃいけないしでとにかくキツくて。何より、プロデューサーがとても高い水準の脚本を求める方で、もう~逃げ出したかったです。

でも、私自身も空亡期だし、これも今回の宿題なんだなと思って踏ん張りました。蓋を開けたら大ヒットしましたしね。あれを乗り越えたことで、厳しい環境で仕事をしたほうがビリッとした緊張感があっていいじゃないか、と気持ちを切り替えられるようになったし、困難な状況にもすべて意味があることを身をもって知りました。

たとえば、自分では「最高に面白い」と思って脚本を書いたとしても、まだまだなんです。空亡期は目の前に高いレンガの壁のような障害が次々に立ちはだかる。そこになんとか食らいついて、壁をよじ登ったり、レンガを叩き壊したりしながら壁の向こう側へ行くと、見たこともない景色がひろがっている。そういうときは俳優たちもすごい演技をしてくれて、とんでもなくいいシーンが撮れたりするのです。ドラマの現場だけでなく、どんな分野の仕事でもみんなで障害を乗り越えることで、より良い結果を出せることってあるのでは?

低迷期に入ったら、楽しそうにしている人、仕事やプライベートが順調そうな人のそばへ

――低迷期にいても、やはり地道に努力することが大切なのでしょうか。

そうだと思います。でも、自分で自分の背中を押して努力し続けるってとてもつらいことなので、そういうときは占いに背中を押してもらったらどうでしょうか?それが一番伝えたかったことです。自分が今低迷期の空亡にいると知っていれば、困難が降りかかったときも意味が分かるから踏ん張れるし、これを乗り越えると絶対倍になって「いいことがあるぞ!」と思えます。

以前だったら、つらい時期が続くと私のような根性ナシはへこたれていたけど、占いのおかげで勇気づけられ、頑張れるようになりました。だから、みんなも占いをそういうふうに使ってほしいなと思って出したのがこの本です。

――ほかにも、運気の低迷期に知っておきたい過ごし方はありますか?

ついてないときや、何もやる気が起きないときは、楽しそうにしている人や、仕事やプライベートが順調そうな人のそばに行くのいいと思いますね。私は心がけてやっています。そういう人が身近にいたら、そばにいって「おはようございます」と挨拶するだけでもいい。

そうして良い運気を浴びると、自分も良い影響を受けて前向きになったり、うまくいっている人の行動パターンや考え方に気づいたりできます。

今はコロナ禍で外出を控えなきゃいけない時期ですが、そんなときも、好きな作家の本や好みの芸能人が出ているドラマ、好きなアーティストのアート作品や音楽など、なんでも良いので自分が元気になるものにどんどん触れてほしい。そうやって明るい運気や元気をもらってほしいですね。

中園ミホ「相性で運命が変わる 福寿縁うらない」(マガジンハウス)
発売中
定価 1,450円(税込)

後編では、中園の運命を変えた出会いや相性の意味、中園が脚本に込める思いを聞く。

取材・文/浜野雪江