＜チバユウスケさん追悼寄稿＞この世界にはチバもアベもいない。だが、彼らの音楽に耳を澄ませば、その存在に触れられる

『TMGE LAST HEAVENツアー密着ドキュメント』（2003年）もTMGE最後のツアーの模様が収録された貴重な映像だ。ステージに出る直前、毎回、チバがメンバーに声をかけているのが印象的だ。ソデで待機していた3人に、「よし！行こう」「よろしく！」と声をかけて、片手をあげて3人と握手している。これがツアーのルーティーン。ラストツアーだからといって、感傷的なところはまったくない。彼らは11ヵ所13公演、いつもどおりに全身全霊の演奏を行っていた。

9月12日の札幌公演では、アンコール予定曲を変更し、「Girl Friend」が演奏された。この曲がライブで演奏されたのは、この時だけという超レア曲。「Girl Friend」はラブソングでありつつも、反戦のメッセージを込めた歌とも解釈できる歌だ。2003年3月に勃発したイラク戦争との関連性は定かではないが、チバにとって特別な意味を持つ曲であることは間違いないだろう。

TMGEというバンドが伝説的な存在になった要因の1つは、幕の引き方の見事さにあると考えている。失速したり、空中分解したりといった終わり方ではない。流れ星がまばゆい光を発しながら燃えつきていくような、美しくはかなくて、なおかつ壮絶な解散だった。しかも、散ったその先にはまだまだ続きがあった。

2002年～2005年にかけて放送された『FACTORY』からは、ROSSOというバンドの魅力の一端が見えてくる。チバ、照井利幸、マサトによって結成されその後、チバ、照井、イマイアキノブ 、サトウミノルという4人編成となったのだが、彼らは音楽表現の可能性を追求するバンドだった。実験的な要素が色濃い曲もあれば、歌が際立つ曲もある。「シャロン」「1000のタンバリン」などの名曲の演奏は必見だ。

2006年以降の『69★TRIBE』『FACTORY』などでは、The Birthdayの演奏を存分に堪能できる。2005年から2010年までは、チバの他のメンバーは、クハラ、ヒライハルキ、イマイで、2011年以降はイマイに変わり、フジイケンジが参加。“誕生日”を意味する言葉がバンド名となっていることもあり、“生”を祝福する歌や、希望を歌った歌が目立っており、バンドの表現力がより豊かになっていた。

グルーヴもアンサンブルも音色も解像度が上がり、歌の世界もより深くなっている。このバンドは一体どこまでいくのか。ゴールが見えないまま、彼らは永遠の存在になろうとしている。

しかしまだ新曲が残っている。チバが治療に専念する直前までレコーディングしていた録音済みの新曲3曲が、メンバーの手によって完成され、春にはリリースされることが決まっているからだ。アーカイブスは新曲が届けられるまでの復習にも最適だろう。

フェスやイベント出演のダイジェストの名場面もたくさんある。アベが逝去した直後に開催された『FUJI ROCK FESTIVAL 2009』では、「今日のライブはオレたちの大親友アベフトシに捧げます」とチバが語り、「あの娘のスーツケース」「愛でぬりつぶせ」を演奏するシーンも収録されている。

東日本大震災のあった年の『BLACK LIST 015』では、「いろいろあるけど、やるしかないよ」との言葉もあった。『ARABAKI ROCK FEST.16 』で、「MOTHER」で観客が手をあげてシンガロング（一緒に歌う）する様子を見て、笑顔を浮かべているチバの姿に、胸が熱くなってしまった。

この世界にはチバもアベもいない。だが、彼らの音楽に耳を澄ませば、その存在に触れられる。繰り返し聴いた曲でも、“今の耳”と“今の感性”で聴くことによって、新たな発見や感動がもたらされるだろう。

筆者自身、献花の会「Thanks !」に出席した際に流れていた曲の数々を、あの瞬間・あの空間で聴くことで、曲から新たな景色が見えてくる瞬間があった。チバの歌声は、時空を越えて届いてくるパワーを備えていると思うのだ。

『THANK YOU YUSUKE CHIBA,I LOVE YOU BABY』は、チバユウスケの音楽を聴き続けてきた人にとっても、最近知った人にとっても、魅力を再発見・再認識するいい機会になるだろう。