「第94回アカデミー賞」で作品賞、監督賞、脚色賞、国際長編映画賞の計4部門にノミネートした映画「ドライブ・マイ・カー」。
見事、国際長編映画賞を受賞。4月5日に日本記者クラブ主催で受賞会見が行われ、主演の西島秀俊さん、濱口竜介監督、プロデューサーの山本晃久さんが登壇しました。
この作品は、村上春樹さんの同名短編小説が原作。愛する妻を失い、喪失感を抱えながら生きる主人公が、寡黙な専属ドライバーと出会い、ともに過ごすうちに、新たな一歩を踏み出す姿を描くロードムービー。
濱口監督は、オスカー像を持って会見に臨みました。
“アカデミー賞を受賞した理由”を西島秀俊が推測「希望の道筋が、この映画には描かれている」
西島さんは「たくさんの人たちが、この映画を応援していただけたおかげで素晴らしい経験をしました。向こうでも『美しい映画だった』とたくさんの方に言っていただけました。この物語が国や言語の壁を越えて、たくさんの人たちの心に大きく響いたということを実感しました」とあいさつ。
「世界で評価された理由」を聞かれた濱口監督は、「これだけ多くの国に受け入れられたということを私自身驚いています。『なぜ、受け入れられたのか』は、その国の人ではないので、『わかるわけがない』というのが正直なところです」と。
続けて、「村上春樹さんの短編小説は、妻を失った男性の魂の遍歴の物語です。私が心がけていたことは、村上さんが長編でやられているように、『登場人物はもう大丈夫なんだというところまで付き合う』ということを物語を構築していく際に、心がけていました。喪失からそれをどう受け入れていくのかという普遍性は、国境を越えて受け入れられるものだったし、具現化するのは大変なお仕事だったと思いますが、説得力のある演技を役者さんたちがしてくれたことでもあると思います」と語りました。
西島さんは、「僕も正直、なぜたくさんの国の方に通じたのかは、俳優なのでわかりません。愛するものを突然失って、喪失を抱えながらも生きていく物語ですが、僕たちが思っているよりも、『今生きている誰もが喪失感を抱えている』のかなと思います。『そこからどうやって生きていくのか』という希望の道筋が、この映画には描かれていて、共感を呼んだと思います」と推測しました。
「アカデミー賞のステージにあがった心境」を濱口監督は、「こういうのは、どう言ったらいいのかわからないですけど、本当に直前までオスカーが自分の人生と関係してくると思っていなかったです。どう振る舞ったらいいのかわからない」と率直な感想を。
また、「通訳の方と相談していたのは、『一人ひとり名前を挙げて感謝を伝いたい』と。通訳を介して2回やってしまうと、長ったらしくなってしまうので、その部分は翻訳していただいたものを覚えたんです。そのあともう少し日本語で話すはずだったんですが、自分が『サンキュー!』と高らかに言ってしまったので退場の音楽が流れてしまって、その先を言えなかったんです(笑)」と明かしました。
そして、「1つ残念だったのが、通訳の方のスキルをお見せできなかったので、次にチャンスがあればその教訓を活かしたいです」と微笑みました。
西島秀俊、後輩俳優にエール「信じられない場所に行くことが起きる」
アカデミー賞の受賞後の会見で「通過点である」と語っていた濱口監督。
その真意を聞かれると、「『映画作りは、よくわからないままやっている』というのが正直なところなんです。『どうやって、演出をすればいいのか』、『どうやって俳優さんと関係を結べばいいのか』というのは毎回手探りなんです。そして、次はもっと上手くできるかもしれないとも思っていて、一個一個歩んでいくと、思いもよらない結果になるかもしれない。前よりもいい映画を作れるようになりたいと思っています」と語りました。
「濱口監督との制作を通して感じたこと」を西島さんは、「(濱口監督の撮影は)丁寧に時間をかける現場です。役がそうだからと、むりやり演者同士が距離を詰めると歪んでしまう感じがあるのです。それでもお互いプロだからやるんですけど、それを丁寧に時間をかけて、ゆっくり理解していく。準備に時間をかけることによって、お互いを素直に理解できるということを実感しました。これからの現場でも丁寧にお互いの言葉やセリフに耳を傾けて距離を近づけていって、作品に向かいたいです」とコメント。
アカデミー賞の会場について西島さんは、「行くまでは『緊張するかな?』と思っていましたが、意外と緊張しなくて、今日の方が緊張します。映画愛の強い人たちの集まりで、非常に居心地がよかったです。アカデミー賞の前日に、(敬愛する)ジョン・カサヴェテス監督のお墓参りに行きました。その時に、自分でも驚くくらい心が動いて…シンプルなお墓で探すのに時間がかかったんですけど」と振り返りました。
そして、「(20年前にカサヴェテス監督の映画を見て)こんな人間そのままの演技をしたいと思い、(アカデミー賞のために)初めてロスに降り立って、お墓に行って、『明日アカデミー賞に出るんだな』と思うと感じるものがあって。素晴らしい作品と、偉大な魂が僕を運んでくれた。アカデミー賞でたくさんの方に会い、夢のような体験をしましたが、前日のその瞬間が一番印象が強いです」としみじみ。
「西島さんを本作の主役に選んだ理由」を聞かれた濱口監督は、「ずっとお仕事をしたいと思っていました。自分がずっと映画を見ていた20代のころ、西島さんが出演している映画を見て『日本にもこんな素晴らしい映画がある』というのを思っていました。西島さんに惹かれた側面は、“存在している”。ただ記号のように存在しているというよりは、そこに焼き付けようとしている。今回、現場で改めて感じたことは、西島さんは『よく見て聞いているんだ』と。西島さんと演技をするということは、他の俳優さんにとっても支えになる」とコメント。
「濱口監督の作品に出演した感想」を西島さんは、「この作品で俳優は、本読みを繰り返していました。俳優は、つい台本を読みながら感情の起伏などを考えて読んでしまうんです。感情を込めずに本読みをして、一切先入観なくテキストの内容を体に入れていく。体とテキストが合わないときは、濱口監督が繊細に直していく。時間をかけて、脚本と自分を合わせていくことをしていました」と。
続けて、「『(相手のセリフを聞くことは)相手の存在そのものを支える重要な要素なんだ』と濱口監督は仰っていましたし、それを体験しました。どう変わったのかは自分自身はわかりませんが、今後の仕事で何かが変われば、嬉しいことだと思います」と説明。
最後に、西島さんは「今回の僕の演技は観客の皆さんと作り上げる演技だと思っています。こうやってアメリカなどのたくさんの国で見ていただけたことは素晴らしいことです。僕はこの作品に入る前に、自分が本当に信じている演技をやろうと決意しました。なので、『自分が信じる演技をやるしかない』と結論に達しています」と力強くコメント。
続けて、「僕よりも才能のある若い俳優さんたちがたくさんいて、みなさんが自分の信じる演技を突き詰めると、『信じられない場所に行くことが起きるんじゃないかな』と思っています。僕自身が後輩に対してということはないですけど、体験したことは若い俳優さんに伝えて行けたらと思います。僕、程度の俳優が行けたので(笑)」と語りました。
写真:日本記者クラブ提供
作品概要
物語の主人公は、俳優であり演出家の家福(西島秀俊)。愛する妻(霧島れいか)と満ち足りた日々を送っていた。しかし、妻は秘密を残して突然この世からいなくなってしまう。2年後、演劇祭に愛車で向かった家福は、ある過去をもつ寡黙な専属ドライバーのみさき(三浦透子)と出会う。行き場のない喪失を抱えて生きる家福は、みさきと過ごすなかであることに気づかされていく――。
©2021「ドライブ・マイ・カー」製作委員会
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