3人の俳優が、プレッシャーやプライベートと役との切り替えについて語りました。
10月30日(日)の『ボクらの時代』は、寺島しのぶさん、豊川悦司さん、広末涼子さんが登場しました。
3人は、11月11日(金)公開予定の映画「あちらにいる鬼」で共演しています。
豊川悦司「嫌われる向こう側にある魅力を見せなきゃいけない」
映画「あちらにいる鬼」は、直木賞作家の井上荒野さんが書いた同名小説が原作。故・瀬戸内寂聴さんを中心に実在の人物をモデルにした作品です。
豊川:役の関係性的に、2人の女性のこっち(寺島さん演じる不倫相手)側、こっち(広末さん演じる妻)側を常に見比べるじゃないけども、その真ん中にいるわけじゃん、俺の役っていうのは。
広末:でも、その二重生活の疑似体験は、体力がいりますよね。
豊川:そうだね。
寺島:女の人がみんな、トロンとした目をしていて。そういう男性、いるんだなと思って。
広末:なかなか、誰でも演じられる役じゃないですよね。そういう意味では。
寺島:ぴったりでしたね。
豊川:えー(笑)。ぴったりなのかな?「なんで俺なんだろう」って思うような役だったけどね、最初は。
寺島:そうですよね。
豊川:「え?俺の中に、こんな要素ある?」みたいな。だってもう、確実に、女性から見たら悪い男じゃん。
寺島:うん。
豊川:それをやって、俺のメリット、何?みたいな(笑)。
寺島:それは、すごくわかる。
豊川:ね。映画を観てもらって「トヨエツのメリット、何?」みたいなさ、があるわけじゃん。もう、嫌われて当然くらいの勢いだけど。でも、その嫌われる向こう側にある、このキャラクターの魅力みたいなものを見せなきゃいけない責任を、背負わされちゃったわけだから。
寺島:でも、しょうがないって。「トヨエツだったら、しょうがない」っていうTwitter見ましたよ、私。
豊川:(苦笑)。
豊川さんが「それは、うまくいってるってことなのかな」と言うと、寺島さんは「そうでしょう。褒め言葉だと思いますよ」と、うなずきました。
寺島しのぶ、廣木監督との出会いが「ターニングポイント」
寺島さんは、俳優として、映画「あちらにいる鬼」の監督である、廣木隆一さんとの出会いが大きかったと語りました。
寺島:やっぱり、映画「ヴァイブレータ」(2003年)は大きいのかな。(監督の)廣木(隆一)さんと出会わなかったら、映画の演じ方というか、存在の仕方みたいなものはできなかったかなとは思ってる。
豊川:うーん。
寺島:(廣木監督とは)本当に仲悪かったからね(笑)。
広末:(笑)。
寺島:本当に、一言も口きいてくれなかったし。「つまらなそうに人の芝居を見てる」みたいな。
豊川:(笑)。
広末:えー!私、この現場ですごく仲がいいんだなって、(2人の様子を)拝見してたんですけど。
豊川:うん(笑)。
寺島:いや、もう本当に1回大嫌いになって、クランクアップしたあと「もう二度と会わない」と思ってたから。それで初号(試写)にマネジャーさんがまず行って。「私は、行かない」って言っていて。
広末:あぁ。
寺島:そしたら「これは、絶対に観たほうがいい」って言われて。もう、首にひもつけられて行ったような感じで(笑)。でも、そこで見た私の顔は、私が想像してた顔じゃない顔が映っていたんですよ。
広末:へぇ。
寺島:テストのときから隠し撮りしていたりとか、そういうものを全部、編集して作られた映画になっていて。もう、「すみませんでした」っていう感じ。
寺島さんは、この作品、監督に出合ったことが、俳優としての「ターニングポイント」と打ち明けました。
広末涼子「演じるプレッシャーにやっと気づき始めた」
3人は、俳優としてのプレッシャーや「職業病」と感じることについても語り合いました。
寺島:撮影のときに、よく軽めのシーンから始めるスケジューラーさん、いるじゃないですか。歩きのみとか。
広末:ああー。
寺島:でも、実は役者に言わせると、そこ、ものすごい難しいシーンじゃない?
広末:逆にね。
寺島:そう。歩き方ってその人の人生が出るから、いきなり「歩いてください」って言われるのは…。役者にとって、その役の人生背負って歩くから、酷な話で。
豊川:意外とね、歩くって難しい。
広末:その人のリズム感みたいなのが、もう見えちゃうんですよね。
寺島:そうそう。役が埋まってくると、普通に歩けるじゃん。だけど、それがやっぱり埋まっていないと。
豊川:わかる。
寺島:なんか、つながったときに「ああ、ここつながってないじゃん」って思っちゃうときがすごくあって(笑)。結構、重いシーンをいっぱいやってからの方が…。
豊川:いいんだ。
寺島:うん。
広末:私も最近感じるのが、演じるって、役を抱えるって、こんなに自分の中にプレッシャーがあったんだっていうのを、やっと気づき始めて。若いときは、気づいていなかったんです。
年齢がいくごとに、キャリアも含めて、経験も含めて、それができるのが当たり前っていう存在になってくるじゃないですか。
だから、「今日、舞台初日なのに台本も読んでない、どうしよう」っていう夢とか、つい数日前も「あ、声が出ない、どうしよう、まだこのシーン残ってるのに…」っていう夢を。
緊張感とかプレッシャーが、こんなにあったんだっていうのを、やっと気づき始めて。
豊川:でも、俺も、今日、本番なのに、あるいは舞台で初日なのに、台本がどこをどう探しても見つからないとかって夢は、よく見る。
寺島:えー(笑)。
広末:もう、ゾッとしますよね。
豊川:絶対誰か持ってるはずだから、「貸して」とかって言うんだけど、なんか知らないけど手に入らない。見たくて見たくてしょうがないんだけど、見られないっていう夢はよく見るよ。
寺島:えー。今でも?
豊川:見る見る。今でも見る。
寺島:えー。そうか。
豊川:相当病んでるな、なんてね。朝、起きて思うけど。
寺島:(笑)。いや、でもやっぱりプレッシャーですよね、それは。
3人は、俳優という職業に、プレッシャーはつきものであるという話で盛り上がりました。
プライベートの出来事も「芝居で使えるかもしれない」
さらに、広末さんは「私生活で感情が出しづらくなっている」と打ち明けました。
広末:私生活で自分の気持ちを、抑えられるようになってきちゃったというか。
寺島:それ、良くないんじゃない?
広末:すごく、良くないと思うんですよね。
豊川:うん。
広末:どこかから、客観視しちゃってるのかな。出産を初めてしたときに、長男が出てきた声を聞いたときに「うわ、泣きそう」って思ったんだけど、「ああ、ここで泣いたらドラマみたいだ」と思って、我慢しなきゃって思って。その話を妹にしたら「そこ、泣いていいところだよ」って。
豊川:実生活での、そういうちょっとドラマティックな瞬間とかに、ちょっと俯瞰(ふかん)で見るクセはついちゃったかなっていう気がする。子どもが生まれたり、親が死んだりとか、そういときに、素直にそこに飛び込んでいけない、みたいな。自分を俯瞰しておいちゃうっていうのは、たぶん俳優業の副作用じゃないけど。「あれ、これどこかで、芝居で使えるかもしんねぇな」とか。
寺島:あ、それはある。
豊川:このときの感覚を覚えておこうって。ちゃんとメモしておこうみたいな。自分の中にね。自分にとっては初めてのことだけど、仕事では、前に予行演習みたいにやっちゃってるシーンとかあったりとかするわけじゃない?
寺島:なるほどね。
広末:ああ。
豊川:そうすると、本物の瞬間のときに感動が薄れちゃってる自分がいたりとかさ。
広末:そうか。薄れちゃったり。
寺島:なるほどね。でも、私、本当に芸能界に友だちってほとんどいなくて。同年代の、もう小学校から大学生まで一緒だった子たちとよく遊ぶんだけど。そういう子たちのほうがよっぽど芝居の勉強になるね。しゃべっていて「これ、今度いただきます」みたいな。
広末さんが「わかります」と言うと、豊川さんも「僕らの仕事の目的地ってそこだもんね。そういう、普通の人っていったら変だけども、そこに自分を持っていくわけだから」と共感していました。
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