「科学者としてのスタート」

2019年のノーベル化学賞の受賞者にスマートフォンやパソコンなどに広く使われている「リチウムイオン電池」を開発した旭化成名誉フェローの吉野彰さん(71)ら3人が選ばれた。

日本人がノーベル賞を受賞するのは、アメリカ国籍を取得した人も含めて27人目となる。

吉野彰さんは1948年、大阪府出身。

「科学者としてのスタート」とも言えるきっかけは、9歳の時だ。

それは、ファラデーの『ロウソクの科学』という本に出会ったこと。そこに秘められたエネルギーや科学現象の話に夢中になったという。

一冊の本との出会いから、そのまま研究者への道に進むことになった吉野さん。京都大学工学部を出て、1972年に総合化学メーカーの旭化成に入社した。

「未来の電池」

当時は「ポータブル」「コードレス」「ワイヤレス」といったバズワードが世の中に溢れていた頃。しかし、それを実現するのにどんな電池が必要なのかがわからない時代だった。

吉野さんは「未来に必要なのは小型で軽量、何よりも充電して繰り返し使える電池」と明確に研究の進む先を見定め、材料探しや実験などを繰り返したという。

その結果、リチウムイオン電池の開発に成功。すぐに実用化と大量生産が可能となり、いまや現代生活に欠かせない存在に引き上げた。

吉野さんは、研究によるリチウムイオン電池の開発・改良の功績が称えられ、2004年には紫綬褒章を受章。ノーベル賞以外にも 2019年欧州発明家賞(European Inventor Award 2019) など数々の賞を受賞してきた。

ところが、吉野さんはそこで満足するのではなく、71歳になった今も、現役で研究を続けている。

現在のテーマは「未来の電気自動車」。運転はもちろん自動で、情報メディアを活用してオフィスとして使えるという構想だ。目標走行距離800キロを達成するため、さらに新しい充電池が必要だと考えている。

私たちの生活が、吉野さんのさらなる発明で大きく変わる日が再び来るかもしれない。

(画像提供:欧州特許庁)