『イチケイのカラス』第9話完全版
坂間(黒木華)は、ここ何日か誰かに後をつけられているような気配を感じていた。それを聞いた石倉(新田真剣佑)は、坂間のボディガード役を買って出る。
そんな中、みちお(竹野内豊)たち“イチケイ”が扱うことになった「世田谷家政婦殺人事件」が、裁判員裁判で審理されることになった。
書記官の川添(中村梅雀)を中心にさっそく裁判員の選任手続きが行われ、その結果、塾講師の大前正一(山崎銀之丞)、結婚相談所勤務の落合清美(池津祥子)、土木作業員の田部公平(山口森広)、主婦の立原理沙子(太田順子)、証券マンの西園寺勝則(永田崇人)、大学生の小中渚(羽瀬川なぎ)の6名が選ばれる。
補充裁判員として選ばれたのは、派遣社員の新村早苗(行平あい佳)、「みちおを見守る会」メンバーでもある自由業の富樫浩二(明樂哲典)だった。
事件の被告人は高見梓(春木みさよ)、被害者は桐島優香(八木さおり)。梓は家政婦として桐島家で働いていたが、ある時、柵が破損していることを知りながら3階のバルコニーで優香と争い、突き飛ばして転落させたのだという。
梓は、転落後もまだ息があった優香をそのまま放置。たまたまやってきて異変に気づいた配達員が救急車を呼んだが、優香は命を落としていた。また優香は、梓に多額の遺産を残すことを1年前に弁護士に書面で伝えていたという。
優香の娘・希美(松風理咲)も見守る中で行われた第1回公判で、梓は、自分は殺していない、あれは事故だと主張。遺産の件も知らないと証言。そんな中、中庭に落下してくる優香の姿が映ったホームセキュリティーの映像に少なからずショックを受けた理沙子は、裁判員を降りたいと言いだす。
実は、梓が5年前に火災事故で夫と娘を亡くし、譲り受けた夫の会社を売却して多額の資産を得ていたことがネットを賑わせていたこともあり、梓に対する裁判員たちの心証は悪かった。
そんな彼らに、裁判は提出された証拠のみで判断しなければならない、という原則を伝える駒沢(小日向文世)。それでも、「救急車を呼ばなかったのは助からないと思って呆然としていたから」という梓の主張は説得力にかけるとして、全員が梓の犯行だと判断する。
ただし、判決を下す際は、裁判員による意見だけで被告人に不利な判断を下すことはできず、裁判官1名が多数意見に賛成していることが必要だった。
第2回公判では、検察側の証人として救急車を呼んだ配達員と、救命医が証言台に立った。配達員は、まだ息があった優香が「お願い」「助けて」「許して」という言葉を繰り返していたと証言する。また、救命医は、優香が亡くなったことを伝えられた梓が安堵しているようだったと証言した。
一方、梓の弁護人となった辰巳(夙川アトム)は、優香の娘・希美を証人として呼ぶ。心臓疾患を抱えていた希美は病院が家代わりであるような生活を送っていたが、11歳の時に心臓移植を受け、少しずつ普通の生活を送れるようになったのだという。
梓は、そのころから桐島家で働くようになり、もう1人家族が増えたような気持だったと証言する希美。続けて彼女は、優香と梓はまるで姉妹のようで、自分にとって梓は叔母のような存在だったと話し、深い信頼関係があったことを証言する。
さらに弁護側は、梓の同僚だった家政婦から、家族を失った彼女がどうして一緒に死ねなかったのかと苦しんでいる中で、家政婦の仕事に復帰したことで生きる気力を取り戻し、自分が優香たちを支えているのではなく、自分が支えられていたんだと話していたという証言を得る。
そうした証言を受け、どう判断すべきか迷い始めた裁判員たちは、その責任の重さ故、裁判員制度そのものへの不満も口にするようになる。そこでみちおは、正反対の意味を持つことわざに疑問を抱いている姪っ子の話を始め、被告人の気持ちを知るための新たな証拠や証言を集めるために、職権を発動し裁判所主導で改めて捜査を行うことを提案する。
第3回公判では、ホームセキュリティーの映像に残されていた音声が公開される。そこには、「止めて、離して」と叫ぶ優香の声と、「許さない」という梓の声が記録されていた。しかし梓は、優香が転落した際のことは答えたくないという。
弁護人の辰巳は、優香の知人を証人として呼ぶ。その知人によれば、事件の1ヵ月前、優香と一緒に食事をした際、長野県の山林で土砂崩れがあり身元不明の男性の遺体が見つかったというニュースを見た優香が、急に過呼吸を起こしたのだという。
この遺体は頭蓋骨が陥没しており、殺人の疑いがあった。さらに優香が亡くなる1週間前には、クラブを経営する女性が優香を訪ねてきたこともわかっていた。発見された男性の所持品には、そのクラブの記念品だったライターがあったのだ。
公判後、浜谷(桜井ユキ)と糸子(水谷果穂)は、優香と梓に関して調べ上げたことを時系列で記入したホワイトボードを運んでくる。それを見ていたみちおは、あることに気づく。
火災事故で亡くなった梓の娘・沙耶は、一酸化中毒で脳死状態になり、事故から3日後に亡くなっていた。そしてその日に、優香の娘の希美が心臓移植手術を受けていたのだ。
するとそこで、渚が裁判員を降りたいと言いだす。覚悟を持って裁くことができないというのだ。みちおたちは、渚の申し出を受け入れ、補充裁判員の早苗を加えて審理を続けることにする。そこで裁判員たちが出した答えは、梓の心を開くために、もう一度、希美から話を聞くというものだった。
第4回公判で、希美が再び証言台に立った。みちおは、事前に希美に伝えていたこと――移植された心臓は梓の娘・沙耶から提供されたものであることに言及する。
希美は、この事実を知っても驚きはなかったという。梓が自分に対して、娘の面影を重ね合わせているような気がしていた、という希美。また、梓が希美のことを知ったのは、心臓移植で救われた感謝の思いを希美が新聞に投稿していたからだった。
検察側は、山林で見つかった遺体が優香の夫で、希美の父親でもある桐島重利だったことを明かす。それを受け、黙秘を続けていた梓が、優香の思いを捻じ曲げられたくないといって、ついに真実を話し始めた。
事件があった日、優香は、予定より早くやってきた梓に、重利のことを打ち明けたのだという。優香は、重利に騙されて結婚したこと、重利が勝手に会社を作って借金を重ね、さらに金を必要としていたことを梓に話した。
そして13年前、重利から長野の別荘に呼び出された優香は、彼から渡されたものを口にして殺されかけたことを…。重利は、重度の小麦アレルギーだった優香を事故に見せかけて殺そうとしたのだ。
重利は、優香と幼く心臓が弱い希美も死ねば、すべての金を自由にできると目論んでいたらしい。優香は、隙を見て重利を殴りつけ、息を引き取るまで放置したあと、山林に埋めて失踪したように見せかけていた。
だが、重利の遺体が見つかり、行きつけのクラブの女性から金を要求された優香は、希美を守るために梓の制止を振り払って事故を装い、自ら命を絶とうとしたのだと。
法壇を降りたみちおは、助けを呼ぶべきだったと思うか、そのまま死なせてあげて良かったと思うか、と梓に問いかけた。すると梓は、「分かりません。私はどうするべきでしたか。教えてください」と返し…。
判決が下される第5回公判。裁判員たちは、みちおに促されて、それぞれ被告人の梓に対する思いを伝えた。下された判決は、懲役1年・執行猶予3年。梓の行為は、殺人ではなく自殺ほう助という判断だった。
その際、みちおは、傍聴席にいたメガネの男・藪下健斗(堀家一希)がじっと坂間を見つめていることに気づくが…。
公判後、坂間は、裁判員に渡す記念品を取りに行く。評議室に戻ったみちおは、裁判員の1人がメガネを外す仕草を見て、傍聴席にいたのが、集団カンニング事件の被告人だということに気づく。
みちおは、「千鶴も見守る会」のサイトで、坂間の説諭に対して誹謗中傷の書き込みをしている人物がいることを知り、ここ最近、坂間が扱った公判資料を見直していたのだ。
坂間の前に現れた藪下は、彼女を階段から突き落とそうとした。そこに駆けつけ、身を挺して坂間をかばうみちお。藪下は警備員に取り押さえられた。
みちおは、頭を打ったものの、幸いケガもなく無事だった。そこに、坂間の妹・絵真(馬場ふみか)から「その後、入間さんとはどう?」というSNSのメッセージが届く。
思った以上にみちおのことが理解できない、と返した坂間に、食事に誘ってみてはどうか、と提案する絵真。すると、タイミング良くみちおのほうから食事の誘いを受けた坂間は、「はい」と答えて…。