『イチケイのカラス』最終話完全版
裁判官であるみちお(竹野内豊)が、元同僚の弁護士・青山(板谷由夏)と癒着し、無罪判決を出しているという告発記事が週刊誌に掲載された。そんな折、みちおを呼び出した日高(草刈民代)は、「地裁の裁判官の任期は10年。任期満了後にはほとんどが再任される。問題のある裁判官以外は――」と告げる。
坂間(黒木華)は、日高がみちおを呼び出した理由を知ろうとした。しかしみちおは、カレー店を開くという話だけだったと嘘をつく。
その夜、坂間は日高が訪ねてきた真相を知るために、みちおの部屋を訪れる。するとみちおの部屋には、甥っ子の柳沢道彦(武井壮)と、姪っ子の柳沢美知恵(筧美和子)がいた。
3人は「人は何のために働くのか」について話していて、美知恵いわく、その答えは童話「三人のレンガ職人」にあるという。そんな話をしているうちに、結局、坂間は日高のことを聞くことができず……。
あくる日、坂間は、日高がみちおに、裁判官をクビになる可能性があると伝えにきたことを知る。みちおの任期終了まであと3週間。再任は、最高裁裁判官会議の指名により内閣が任命するが、実質的にはみちおと因縁のある相手、香田健一郎(石丸謙二郎)が事務総長を務める最高裁事務総局の決定によるものだった。
坂間や駒沢(小日向文世)は、ゴシップ記事の裏で何か大きな力が働いていると考え、みちおが職権発動している重過失致傷事件を検証し直すことに。
事件の被告人は大学生の笹岡庸介(菅原健)。自転車競技部に所属する笹岡は、大会に向けて深夜に自主練習をしていた際に、かなりのスピードを出していた上、左側通行を守らず、旅行から戻り自宅に向かっていた家族連れと衝突事故を起こす。その事故で、7歳の向井愛が意識不明の重体となっていた。
笹岡は、左側通行を守っていたが、角を曲がる際にライトで視界を遮られ、さらに工事用のガードフェンスがあったために右側を走るしかなかったと主張していた。だが、検察の調べによれば、深夜に工事を行っていた記録は一切ないという。
坂間は、大きな力で真実を捻じ曲げるなら司法はそれを許さない、と言ってみちおへの協力を申し出る。みちおは、そんな坂間に「この案件が最後になろうとも、僕はいつも通りやるよ」と返す。
自転車事故の現場検証を行ったみちおたちは、この現場を含む付近一帯が、来年オープン予定の大型複合施設「Tokyo Scramble City」に接続する地下鉄の拡張工事エリアであることを知る。
実は坂間は、その地下鉄工事で起きた落盤事故を担当していた。この事故で、現場監督だった本庄昭(大西ユースケ)が死亡。責任の所在は、本庄ともう1人の現場監督・青柳健作(岡田優)、そして工事を担当したイバタ工業にあったが、本庄は被告人死亡により不起訴になっていた。
ただ、この案件の問題は、事故が本当に業務上過失によるものかどうか、という点にあった。本庄は5歳の息子を持つシングルファーザーで、母親の由美子(三谷悦世)と一緒に暮らしていた。由美子は、会社の命令で納期に間に合わせるよう違法な過重労働を強いられていたことが事故の原因ではないかと証言していたのだ。
「Tokyo Scramble City」のプロジェクトリーダーは、大物代議士・安斎康雄を父に持つ二世議員の安斎高臣(佐々木蔵之介)。そしてこの工事の元請けは、巨額脱税事件を起こした鷹和建設だった。みちおは、重過失致傷事件と、業務上過失事件を併合して審理することを決める。
併合審理1日目。弁護側には笹岡の弁護人を務める曽根山(松本誠)だけでなく、関東弁護士会の理事長でもある江原諭(橋本さとし)の姿もあった。そこで曽根山は、みちおたちとともに行った自転車事故の実証実験の映像を提示し、地下鉄拡張工事のための搬入口だった現場で何かしらの作業が行われていた場合、被告人の主張通り事故は避けられない可能性が高いと指摘する。
一方、検察の井出(山崎育三郎)は、由美子の証言を元に、違法労働があったかどうかを青柳に尋ねた。しかし青柳は、事故の原因は過重労働ではなく、人手を増やしたために人件費がかさみ、本来やるべき地盤の補強作業を本庄が止めたからだと主張する。そこでみちおは、作業に関わった者全員から話を聞くことにする。
2日目の併合審理前、イチケイには、由美子と本庄の息子・歩(有山実俊)の姿があった。由美子が出廷している間、歩をここで預かることになっていた。そこでみちおたちは、歩が「ジャスティスヒーロー」という人気漫画を愛読していることを知る。
傍聴席に鷹和建設社長の的場直行(金井良信)も姿を見せた併合審理2日目。集められたイバタ工業の作業員たちは、違法な労働はなかったと口をそろえた。
一方、証言台に立った由美子は、息子が会社からの命令で違法な労働を行っていたこと、事故の直前には頭痛や耳鳴りを訴えていたことを証言する。孫の歩から「お父さんは悪いことをしたから死んだのか」と尋ねられたという由美子は、歩には本当のことを知ってもらいたいと訴えた。
そんな由美子に対して江原は、本庄が妻と離婚したのは妻のギャンブルが原因で、本庄も多額の借金を肩代わりしていたとして、過労による事故だと訴えれば金を奪い取れると考えたのではないかと追及した。みちおは、労働基準監督署に設置されている過重労働撲滅特別対策班・通称“カトク”への情報提供の有無や、「Tokyo Scramble City」プロジェクト側の話も聞くために、職権を発動し、裁判所主導で改めて捜査を行うと宣言する。
別の日、駒沢や井出たちは、カトクの責任者・戸田(山崎画大)に会いに行く。戸田によれば、「Tokyo Scramble City」に関して匿名の告発はあったが、調査の結果、違法労働はなかったという。
一方、「Tokyo Scramble City」プロジェクトのメンバーに会っていたみちおや坂間たちは、工事の遅れで、スタートを先延ばしにするべきかどうかの議論があったが、遅れた場合、莫大な損失が発生するという試算が出たために工事を急いだとの証言を得る。
するとそこに、安斎の秘書・田之上幸三(篠井英介)が現れ、工事を急がせたのは安斎の指示によるものだと告げる。田之上は、安斎のほうから法廷に出向いても良いと言いながらも、みちおの任期があと10日であることに触れると、結果次第で裁判官再任もありうるから賢明な判断をすべきだと圧力をかける。
その夜、みちおたちは「そば処いしくら」に集まった。安斎の父親・康雄は建設族であり厚労族、そしてカトクの責任者・戸田は、康雄の後輩で同じボート部でもあった。故に、仮に違法労働があってもなかったことにされたのかもしれない、という駒沢。石倉(新田真剣佑)は、安斎高臣を法廷に呼ぶしかないと訴えた。
しかし、みちおの反応は鈍かった。みちおは、国が相手となると、坂間や駒沢だけでなく、石倉らイチケイメンバーの今後に悪影響があるのではないか、と危惧していたのだ。
坂間は、そんなみちおに「正しい裁判を行うなら、どれだけ周囲に迷惑をかけようがお構いなし。事件関係者のために、何があっても真実を持って正しい判断を下す――それが入間みちお!」と激を飛ばし、全員一丸となって戦う意思を確認する。その突破口になるかもしれないのは、雲隠れしている鷹和建設の人事部長・原口秀夫(米村亮太朗)だった。
川添(中村梅雀)たち書記官チームが原口を探している間、みちおは、もう1人、本当のことを知っているかもしれない人物に会いに行く。それは歩だった。
みちおも坂間も、「ジャスティスヒーロー」を読み、その魅力にハマっていた。そんなみちおたちに心を開いた歩は、お父さんに勇気をあげたと話す。それは、自分の胸に手を当て、思いを込めて、相手の胸に思いを注入するジャスティスヒーローの得意技だった。
歩は、会えない代わりにやっていた父親との交換日記をみちおたちに見せた。そこに、駒沢から電話が入る。駒沢は、ある判例を見て、幼稚園へと向かっていた。みちおは、君も戦ってくれないかな、と歩に頼み…。
併合審理3日目。浜谷(桜井ユキ)と糸子(水谷果穂)は、連れてきた原口に、傍聴席に座るよう告げた。証人の話を聞いてもらいたい、というみちおの指示だった。
証言台に立った安斎は、「Tokyo Scramble City」の重要性を訴え、国民の利益、国益を守るのが政治家だと言い切る。そのために犠牲が生まれたとしても覚悟を持って選択しなければならない局面が多々ある、と続ける安斎。そこでみちおは、もう1人の証人・歩むを呼んだ。
歩は、毎日たくさん働いていた父親に、勇気をあげた日のことを話す。ある晩、歩が目を覚ますと、枕元で本庄が泣いていたという。理由を尋ねると、間違っていることを間違っているという勇気がない、女の子が自転車とぶつかって大けがした、と話してくれたと言うのだ。歩から勇気をもらった本庄は、間違っていることをちゃんと言えたと、交換日記に記していた。
それに対して江原は、証言能力に問題がある、として異議を唱えた。そこで曽根山は、歩が通う幼稚園の先生たちから、彼の成長が他の園児たちより早く、十分な証言能力があるという証言を証拠として提出する。満5歳9ヵ月の幼児の証言を認めた判例を見つけた駒沢が、曽根山と一緒に調べてきたものだった。
みちおは、傍聴席にいる作業員たちや原口に、あったことをなかったことにしてどれだけの人が傷つくのか、どれだけの苦しみを抱えて生きていくことになるのか、そして勇気を出して一歩踏み出したときに失わずに済むものを想像してほしい、と訴えた。
「一歩踏み出す勇気――それは本庄歩くんからもらったはずです。証言をしたい方はいますか?」
みちおの言葉に、次々と手を挙げる作業員たち。そして最後に手を挙げた原口は、自分が代表で証言すると言って証言台に立った。
原口は、本庄からの直訴を受け、カトクに違法労働を訴えたのは自分だと証言し、事故の原因は過労であり、会社の指示で偽装したことも認めた。それを受け、みちおは、自転車事故そして落盤事故の原因は違法労働であり、その責任の所在は鷹和建設にあると判断する。
法廷を出た安斎と田之上の前に、城島(升毅)ら東京地検特捜部の面々が現れる。城島は、鷹和建設が脱税した金の一部が、安斎の父・安斎康雄の政治資金団体に流れていることを解明していた。すると田之上は、鷹和建設に違法労働を指示し、その隠蔽に動いたのは自分だと言い出す。
安斎は、「Tokyo Scramble City」をめぐる前代未聞の不祥事を受け、父親と秘書を告発し、捜査への全面協力を打ち出し注目を集める。また、自転車事故の被害にあった女の子が意識を取り戻したことも報じられていた。
坂間は、駒沢からみちおがクビになるという知らせを受ける。みちお自身も納得しているのだという。香田に会いに行った坂間は、納得がいく理由を説明してほしい、と迫った。そこで香田は、みちおは正しい裁判を行うが、裁判所という組織においては問題があり過ぎると返す。刑事訴訟法の建前から逸脱した職権発動捜査を多発し、こちらの注意にも耳を貸さないというのだ。
続けて香田は、坂間の責任にも言及した。赤字解消のために第3支部に派遣されたにも関わらずそれを助長させたとして、幹部として事務総局に入る話は白紙になるはずだった。しかしみちおは、責任は自分にあるとして、坂間の責任を問わないよう頼んだというのだ。それでも納得できない坂間は、去っていく香田に食い下がった。
そのとき、野球のユニフォーム姿の駒沢や石倉ら裁判所チームと、井出、城島たち検察チームが現れた。駒沢は、懲戒処分を受けた香田の息子・隆久が近々復帰することに触れ、みちおの処分に異議を唱えた。「法曹界は入間みちおを必要としているんです」。駒沢たちは、香田にそう訴え…。
数日後、熊本地裁第2支部には、みちおの私物であるふるさと納税の返礼品の数々が運び込まれていた。困惑する部長の富永大悟(野崎数馬)たち。その中には、東京地裁第3支部から送られてきた「赴任する裁判官に関する取扱い説明書」まであった。
イチケイには、カラスの絵だけが残されていた。みちおが坂間にプレゼントするつもりで残していったのだ。みちおに電話した坂間は、ギリギリでクビにならなかった温情人事を無駄にしないよう、釘をさす。「そっちも約束を忘れないでよ」。みちおからそう言われた坂間は「はい。私は、イチケイのカラスになります――」と返す。
熊本地裁に着いたみちおは、さっそく馬刺し用の馬10頭が盗まれた案件に興味を示し…。