「かわいそう」「悲しすぎる」とかって思われないように

――執筆している間、つらくなるようなことはありませんでしたか?

思い出したくない記憶はゼロではなかったですけど、つらくなるようなことはなかったです。書きながら「ああ、あんなこともあったな」とわりと冷静に思い出していく感じでした。

親父のことも「もしかしたら、こういうことだったのかも?」みたいに見えてきたというか。

わりと最低な雰囲気から始まっていますけど、話が進んでいくうちに、「なんか違う。最低なんじゃない。親父は親父でカッコつけてたんだ」って。そこを軸に、書き直しもしていきました。

親父はもういないので、僕の予想でしかないけど、そうだったんじゃないかって思うことが結構あって、今までゼロだったのが、結果、38%くらいは理解できた気がします(笑)。

――書くうえで心がけたことはありますか?

一番は、「かわいそう」とか「悲しすぎる」とかって思われないようにってことですかね。エピソードをしゃべっていても、たまにそういう空気になることがあったんで。

文字になるとテンポや抑揚がつけにくいので、明るく伝えたい場合もそうならないこともあって。そこはめちゃくちゃ気を付けました。

――その塩梅は難しそうです。

そこは、ツッコミの感覚がいきたかな。感情があるところはより意識しました。

――執筆期間は半年だったそうですが、何かエピソードはありますか?

作業にもパンパンにカッコつけが入っていて。あえて、人の多い喫茶店やカフェに行って書いていました(笑)。横並びのカウンターテーブルで、会社員ふうの人が書類をまとめている、学生さんが勉強をしている隣で書くという。

本当はノートパソコンでカチャカチャと書いていたら、カッコよかったんでしょうけど、僕は原稿用紙のような紙のほうが相性がよかったので、手書きでやって、あとは携帯で打ったりもしました。

カフェでは両サイドにいる人を意識して、ちょっと中身が見えるようにしたりして。俺、本書いてます、みたいにできるのが一番よかったです(笑)。

あとは、又吉(直樹)さんをマネして恵比寿の個室のバーでウィスキーをゆっくり飲みながら書こうとしたことも。カッコよかったんですけど、いざ書こうと思ったら、暗くて見えなかった。

居酒屋さんも失敗パターンですね。シンプルにうるさいですし、あとはお酒飲んじゃう。飲みすぎちゃって、家に帰りたくなっちゃうのでダメでした。