“錦秋”という言葉にふさわしい壮大な作品に、真摯に向き合っている時蔵さんと梅枝さん。実りの多い日々を過ごしているようで、丁寧に言葉を紡ぐ表情からも充実していることが伝わります。

中村時蔵 作品や役柄とのめぐり合わせに感謝

――『盛綱陣屋』は時蔵さんの父である中村萬壽さん、時蔵さん、梅枝さん、さらに、時蔵さんの弟・萬太郎さんと親子三代での共演が大きなトピックですが、どのような思いで臨んでいますか?

時蔵:役とは本当にめぐり合わせで、父が(佐々木盛綱の母である)微妙(みみょう)を初役で勤めることもめぐり合わせですし、息子の私が早瀬という役を勤め、そして、私の息子・梅枝が子役の中でもたいへん大きなお役である小四郎を勤められる年齢に達している。

中学生くらいになると声変わりが始まるので、子役として出られる期間は実はあまり長くないのですが、今回は素敵なめぐり合わせで三代そろって同じ演目に出演できることになりました。私よりも父のほうが喜んでいまして、本当にありがたいことだと感じています。

――梅枝さんはどんなお気持ちですか?

梅枝:いつもより、ほんのちょっと緊張しています。

――祖父の萬壽さんからアドバイスなどはありましたか?

梅枝:いっぱいありました。

時蔵:基本的には私が教えているのですが、昨日、初めて父(萬壽)と一緒に稽古をしたところ、「ここはこうしてほしい」という指導が要所、要所でありましたね。

――「時蔵」襲名を打診された約2年前には戸惑いや葛藤があったそうですが、現在は時蔵という名跡についてどのような思いがありますか?

時蔵:この2年の間で時蔵でなければ任せていただけなかったような大きな役をたくさん勤めさせていただきました。そういう意味では襲名させてもらえてよかったと思います。

――梅枝さんも同時期に「梅枝」として歩み始めましたが、気持ちの変化はありましたか?

梅枝:ちょっとだけですけど、緊張感が増したのと、自信もつきました。

中村時蔵「先人の顔に泥は塗れない」古典を演じるうえでの重責

――今年、時蔵さんがエボシ御前を演じた『もののけ姫』が大変な評判になりましたが、古典と新作とでは舞台に立つ姿勢に違いはありますか?

時蔵:舞台に立つにあたって心持ちはまったく変わらないですね。強いて挙げるなら、プレッシャーの差でしょうか。

皆さん「お芝居に正解はない」とおっしゃいますけど、やはり古典というものは先人たちがある程度、正解に近いものをなさっていて、皆がそこを目指しているので、ある種、一つの答えができているんですよね。

先人たちを超えられるわけがないと心の中ではわかっていても、どうしても比べられてしまうプレッシャーがあって、「先人たちの顔に泥は塗れない」という重責もあります。

一方で新作は、そうしたプレッシャーはないものの、『もののけ姫』は映像として皆さんの目に強烈に焼き付いている作品ですし、舞台ではアニメと比べて説明も増えますし、演じるうえでもキャラクターの心情の変化をあらかじめきっちり筋道を立てないと演じられないお役でした。

ジブリさんが答えを出していないものをこちらが勝手に答えをつけていいものかという葛藤もあり、稽古場でも皆でそのようなお話をしましたし、どういうふうに受け取られるのかという怖さも抱えていました。

――梅枝さんは新作と古典ではどちらが好きですか?

梅枝:正直に言うと「新作のほうが面白い」というのが子ども的にはあります。

時蔵:わかりやすいしね。

梅枝:だけど、古典は古典でいいところがあるので、どっちも魅力的です。

――時蔵さんが女方として人気を博している一方で、梅枝さんは以前、立役を希望していると話していましたが、今も同じ思いですか?

梅枝:はい、変わりません。

――どのようなところに立役の魅力を感じていますか?

梅枝:女方と違って立廻りが多くてカッコいいことや、単純に僕は男なので立役がやりたいという気持ちが強いです。特に、荒事(※)をみると、自然にテンションが上がります。

※荒々しく豪快な歌舞伎の演技。

――歌舞伎は、映画『国宝』によって新たなファンを獲得していますが、まだ観たことがない、久しく足が遠のいている人にどのようなことを伝えたいですか?

時蔵:さまざまなエンタメが存在しているこの時代において、歌舞伎は決してやさしいエンタメではないと思うんですよ。でも、とても懐が深い世界で、ご覧になればきっと何かしら刺さるところがあり、それが魅力だと僕は思っています。

より深く知るには何度か足を運んでいただかないといけないかもしれませんが、日本人が作った演劇ですので、日本人の美意識や感性がちりばめられていますし、そういう意味ではふれやすい演劇だと思います。そんな世界をぜひ楽しんでいただきたいです。

――梅枝さんは歌舞伎にふれたことがない同世代の皆さんへ伝えたいことはありますか?

梅枝:歌舞伎を楽しみたいのなら、まず新作を見たほうが面白いと思います。

時蔵:パパよりいいことを言うのはやめて(笑)。確かにそうだね。

――公演を楽しみにしている皆さんへメッセージをお願いします。

時蔵:第二部では私たちが親子三代で出ておりますし、第三部では私は女方の大役を勤めさせていただいております。両方とも古典の中でも大きな作品で、世界観も壮大。歌舞伎座という広い劇場に合った作品ですので、ぜひ生でご覧いただきたいです。

梅枝:僕が勤める小四郎は、人生で1回くらいしかできないお役なので、ぜひ観て欲しいです!

撮影:今井裕治

<公演概要>

『錦秋十月大歌舞伎』

東京・歌舞伎座 10月2日(金)~20日(火)

【第一部】
一. 湧昇水鯉滝『鯉つかみ』
二.『義経千本桜』川連法眼館

【第二部】
一.『近江源氏先陣館』盛綱陣屋
二.『山帰強桔梗』

【第三部】
一.『義経千本桜』渡海屋 大物浦
二.上『屋敷娘』下『近江のお兼』

歌舞伎座公式サイト「歌舞伎美人(かぶきびと)」
https://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/play/985/