まるでリアル侍!ドラマ『ルパンの娘』の第1話で、藤岡弘、演じる和馬(瀬戸康史)の祖父・和一が見せた「居合斬り」。鬼気迫る雰囲気で剣を抜き、巻き藁をズバッ、ズバッと袈裟斬りするシーンは、本格的な時代劇さながらだった。
「藤岡弘、すげえ!」「あれはCGでしょ!?」とネット上もザワついたが、実はあれ、本人の私物の真剣(!)での撮影だったという。
そこで、あの迫力を体験すべく、藤岡に居合いの再現をリクエスト。藤岡はそれを快諾してくれ、今回の撮影となった。さらに、武士道精神に貫かれた自身の生き方、『ルパンの娘』出演にかける思いなど、侍・藤岡弘、の素顔に迫るべく話を聞いた。
<藤岡弘、居合い斬り動画>
<藤岡弘、インタビュー>
Q.ものすごい迫力でした!居合いに必要なのは…やはり、精神統一でしょうか?
集中力です。邪念があるとダメなんです。心が乱れると大事故になってしまう。僕は、6歳から真剣を扱っていますが、何回か危機に直面したことがありました。胴断斬りで巻き藁を斬ったあとに刃先が折れて胸に飛んできて、それがズバッと床に刺さった。胸に当たったのが峰だったからよかったけど、そうじゃなければ即死でした。心の臓が止まるような恐怖でしたよ。だから、どんなに熟練しても初心を忘れてはいけないし、剣を扱う時はいっさい安心はないんです。
Q.集中するまでの時間の短さは、普段からの修行のたまものでしょうか?
“気練”といって、気を消す、気を入れる、気を出す、気を込める、気を殺す…そういう気をコントロールしていく、それが「武士道」なんです。その中で、侍というのは、決意、決断、覚悟、信念を一瞬のうちに頭の中で整理する。迷わない。迷ったらそれが剣に現れて、事故になってしまうから。
雑念、邪心、邪念はすべて捨てて、無心の境地…言葉で言うと簡単なんだけど、実際にそこまでいくのは大変だし、自分はまだまだ未熟だから、修行の中で見つけていくための自己磨きの旅をしています。年は関係ない。心臓が止まるまでが修行なんです。
Q.居合いとは、精神統一の儀式なのですか?
かつて日本には、流派が何百とありましたから、それぞれ型も違うし、隠し技、秘伝というものがあるんです。相手に手の内を見せないんです。その技が相手にわかってしまうと、戦ったときに負けてしまうから外に出さない。今は、そういう時代ではないですけれど。その中で、精神を統一する儀式の一つとして、四方斬りというものがあります。巻き藁を前に2本、後ろに2本立てて、前後左右、真剣で切るわけです。そういうことを多くの先人が、日本を背負って、未来の世を思いながら修行をしてきたわけです。
Q.話題になった第1話の収録は、一発OKだったそうですね。
そうですね。侍に、二刀はないんです。僕が本番に強いと言われるのは、そういう訓練を積んできて、すべてが本番で、そこに全力で取り組むからです。甘えがないんですよ、生き方にも。すべては天命です。天命に生き、運命に挑戦し、使命に燃え、宿命に感謝しながら、試練に立ち向かう。これが侍精神です。
日本には、素晴らしい伝統文化がありますが、今は後継者が少ないのが悩みです。先人が継承してきた伝統文化を大事にし、その思いや生き様を残していくために、僕は俳優と武道家という両方をうまく活用しながら、世のため人のために少しでも貢献できたらという思いから、要望があればメディアの中でお見せしているんです。今、日本は精神が沈没し、失われつつあることに愁いていて…生意気なことを言っていますけれども(笑)。
瀬戸康史との“仮面ライダー共演”も話題!
Q.藤岡さんと孫役の瀬戸さんには、“仮面ライダー”出身という共通点もありますね。
冗談を言えば、僕はもう昭和の「サムライダー」(笑)。仮面ライダーの元祖で、CGなんかない時代ですから、スタントマンを使わずに命がけで体を張ってやっていましたよ。ライダースーツを着て、バイクでジャンプしていました。大けがをして生死をさまよったこともありましたし、毎日、恐怖との闘いでしたね。
今のようなハイテクで軽いキャメラもなかったから、重いキャメラに重い照明を背負って、スタッフのみなさんも大変でした。そういう中で真剣に取り組んだ経験を僕たちが積み重ねてきたことによって、だんだん完成されてきたわけです。
今はデジタルの時代だけど、アナログと両方を兼ね備えている強さがないとダメだと思います。たとえば、僕の居合いのシーンもCGではないわけです。斬ったものを置いたってできない(笑)。だから、ただ形や表層的なものだけではなく、見る人の心をつかむには本物も必要だと思います。CGなどの先端技術と本物の両方をうまくコラボさせることが、ポイントだと思いますね。
瀬戸くんは、屈託がなくて明るくて、さわやかな好青年。今の時代の象徴的な青年だと思いました。ハイテクなものがなくても生きられる昭和の男である和一。ハイテクを網羅しながらどんなことでも吸収してがんばっていく平成の男・和馬。これがうまく融合していけば、さらにおもしろい作品になるんじゃないかと楽しみにしているんです。
Q.これから後半に向けて、和一と、華(深田恭子)の祖父・巌(麿赤兒)との因縁が明かされそうですね。
それが楽しみでね。どんなふうに描かれるのかワクワクしているんです。昭和の男同士の世界が出せればいいな、と。そこには、知も理も家も財も関係ない、男の絆の深さ、男同士の約束がある。その絶対に裏切らない友情、覚悟、そういう男同士の会話がわかる団塊の世代の人たちが、ホロッとくるような場面が出せたらと思います。ちょっと願い過ぎかな(笑)。