「死ねばいい!」(主人公ドアップ)

こんなあからさまに殺意を表す、っていうかセリフで言っちゃう、よりにもよって主人公が、しかも女性、何なら看護師、というドラマがかつてあっただろうか。

このドラマが放送されている「オトナの土ドラ」枠は、ある家族を異常なまでに執着し追い詰めていく主人公のユースケ・サンタマリア主演『火の粉』(16年)や、その団地バージョンで住民を巻き込みながら狂気を爆発させていく佐野史郎主演『限界団地』(18年)など、異常すぎる主人公が登場人物たちを追い詰め、殺人まで犯してしまうという狂気の“ヤバい主人公シリーズ”でお馴染み。

今回はその最新作で「ラブストーリー」版といっていいだろう。だがそれら二作との違いは、最初は良い人そうに見せながら“ヤバさ”を徐々に発揮していったのに対し、今回の『リカ』は、愛した男が身に着けた医療用手袋を持ち帰り、ハーバリウム(オイル漬け)にし、「綺麗…(うっとり)」、という序盤から何の疑問も抱かせないスタートダッシュの“ヤバさ”。いくらハーバリウムでも医療用手袋だからちっとも「綺麗…」じゃないし、もちろんうっとりできるはずもない。これから回を重ねるごとにどんどん狂気のハーバリウムコレクションが増えていくのかと思うと、何度“ヤバい”を連呼しなければならないのか心配になってくる。

また、何度も登場するのでおそらくリカの大好物であろう “ミートソーススパゲッティ”もヤバさのポイント。ことあるごとに登場するミートソーススパゲッティは、フォークで麺を絡める際の“音”を強調させることによってヤバさの演出が施されているのだけど、初回後半のダメ押しで登場する“あるミートソーススパゲッティのシチュエーション”によって主人公のヤバさがさらに強調されることとなる。どんだけミートソーススパゲッティ!!と、これに関してもこれから何度“ミートソーススパゲッティ”を連呼することになるのか、ミートソーススパゲッティにすら狂気を感じてしまう仕上がりだった。

肝心の感想がこれらの単語連呼を心配するだけになってしまったので襟を正すと、今作はリカが愛した二人の男性を描くという二部構成とあって展開は先ほど紹介した二作と比べかなりスピーディで、ヤバさの理由が“ある男性を愛してしまったから”というシンプルな動機のため、より物語に入り込みやすい作り。

そしてともすればツッコミドラマと化してしまいそうな設定だが、高岡早紀の大袈裟すぎない演技と生々しい質感の映像によって、リアリティが絶妙なラインで保たれている。それを特に感じたのが、主人公の「雨宮リカ、28歳です」というこのドラマを象徴するヤバいセリフに対するリアクション。周りの人物が心の声や表情で「なわけねーだろ!」というツッコミを入れないあたりが妙にリアルで好感が持てた。女優・高岡早紀の実年齢を知らない世界であればあの容姿で「28歳」はかなりギリギリのライン。それをドラマだからと言ってやたら大袈裟にツッコんでは冷めてしまうのだ。

ただ一点心配なのが、このドラマの前に「さんまの向上委員会」が放送されること。まったく別物のハイテンションを続けざま、リアルタイムで見る視聴者にとって、土曜夜の安らかな眠りを妨げるのではないか。夢がカオスになる予感。

text by 大石 庸平 (テレビ視聴しつ 室長)