Kis-My-Ft2の北山宏光が主演を務める舞台『THE NETHER (ネザー)』が、10月11日に東京グローブ座で開幕。同日行われた公開ゲネプロの模様をリポートする。

2013年に劇作家ジェニファー・ヘイリーによって発表された同名作品がもととなっている本作は、上演台本・演出を瀬戸山美咲が手がけ、日本では初上演となる。原作では女性だった主人公をあえて、性的なことに恐怖心や嫌悪感を抱く男性にすることで、男女の枠にとらわれない人間同士の物語として再構築されている。

舞台は近未来、インターネットがかなり発展し、仮想空間が一般化された世界。自らのイメージする容姿を選択し、自分の魂のみがログインできる仮想空間《ネザー》。自分の好きなアバターを設定し、チャットを通じて他者とコミュニケーションを楽しむソーシャルゲームを想像する人も少なくないと思うが、ネザーは、それを遥かに超越したリアルな世界だ。

働き、学び、1日のほとんどをネザーで過ごす人間も多く、それほどまでに拡大されたネザーの秩序を守る捜査官モリスを、北山宏光が演じる。

尋問室でモリスが対峙するシムズ(平田満)には、自身の管理する「ハイダウェイ」というエリアで子供との性行為を提供しているという疑惑があった。並行して進める尋問の相手は、ハイダウェイの顧客だったドイル(中村梅雀)という男。そして、モリスがハイダウェイに送り込んだ潜入捜査官・ウッドナット(シライシケイタ)は、そこでアイリス(長谷川凛音/植原星空)という美しい少女と出会う。

本作に登場するのは5人のキャストのみ。少数精鋭と言うべきだろうか。現実と仮想空間の2つが存在する膨大な世界を、たった5人で表現しきってしまうのだから驚きだ。

2017年の『あんちゃん』以来2年ぶりの舞台出演となる北山。尋問を行うシーンでは、対峙する相手によって微妙にトーンを変え、緩急をつけた台詞回しで、舞台に緊迫感を生み出す。囲み取材では「実力派の方々に囲まれて、頼ってばっかり」と謙遜したが、堂々の演技で座長たる姿を見せつけた。

中村梅雀と平田満はそれぞれにベテランの貫禄を感じさせる圧巻の演技。尋問を受け疲弊していく様子に、見ているこちらも息苦しくなってくる。

人々の想像によって生まれた”仮想空間”をテーマとした本作。「イメージが現実を作り上げる」「現実と想像は違う」「人は想像の中では自由であるべき」「想像に飲み込まれないようにしなければいけない」散りばめられたセリフたちに、オンラインとオフラインの境界が曖昧になりつつある現代への皮肉が感じられる。

上演台本・演出を手がけた瀬戸山は、これまでも振り込め詐欺や原発事故、イラク戦争などの目の前にある社会問題を題材にした作品を送り出し続けてきた。人間の欲望や犯罪倫理だけでなく、性自認や性的嗜好に着目した今作。想像が生んだ世界で、人はどこまで自由なのか。

セリフの裏を読み解くためのディスカッションが何度も交わされながら、稽古が進行したという本作。あまりに広く、奥深い世界が目前で展開され、観客も想像と推理を余儀無くされるだろう。

公式サイト:https://www.thenether2019.jp