フジテレビの木曜劇場『モトカレマニア』も、いよいよ中盤を過ぎた。元カレ・マコチ(高良健吾)への思いを断ち切れない“モトカレマニア”のユリカ(新木優子)だったが、ここへ来て、マコチがユリカを断ち切れない“モトカノマニア”になりそうな予感が!?
そんなドラマでは、毎回暴走するユリカの妄想シーンが見どころのひとつだが、セットが建つまでの舞台裏にも、妄想に妄想を重ねた苦労があった。
ドラマセットのデザインを手がけたデザイナーの齋田崇史に、『モトカレマニア』のセット制作の裏側について聞いた。
大掛かりな4つのセットを1ヵ月半で制作
齋田:主人公2人が勤めるオフィス、マコチのマンション、ユリカのアパート、ユリカの行きつけの「BARネコ目」、とレギュラーセット4杯を建てました。ドラマセットは、通常は2杯、多くて3杯なので、今回は4杯と大掛かりな制作でした。
セットは決まってから2週間程度で(一気に)詰めて制作するので、ロケハンや事前打ち合わせを含めると8月頭から撮影が始まる9月中旬まで1ヵ月半、ノンストップで進行しました。
原作にないオリジナルキャラクター 犬の「チロリアン」誕生裏話
齋田:メインのセットはユリカとマコチが勤める「チロリアン不動産」です。不動産屋さんって、窓に物件情報がたくさん貼ってあるところが多いですよね。このドラマでは並木(道子)監督が、“かわいらしさ”を多く取り入れたいとのことだったので、出入口は実在するポップな雰囲気の不動産屋さんの外観をお借りしてロケをすることに。
装飾に関しても“かわいらしさ”を取り入れる一方で、リアリティをなくしたくなかったので、既存の不動産屋さんの情報を多く集めて参考にしました。
また、“かわいらしさ”を表現する仕掛けとして、「会社のキャラクターを決めたらどうか」という提案を監督にしました。原作では、社長が会社で犬を飼っている設定なので「チロリアン」という名前の犬のオリジナルキャラクターをデザインしてみました。
そのキャラクターをオフィスのあちこちに忍ばせています。キャラクターのフィギュアを外注すると仕上がりが間に合うかわからなかったので、自分の手で粘土をこねて小さな犬を作りました。美大時代の専攻が陶芸でしたから得意分野です(笑)。
デザイン優先でも安全面に最大の配慮
齋田:最も苦労したのは、「チロリアン不動産」 のオフィスの柱です。社長室が2階にある設定なので階段を作りました。本当は柱がないと支えられないのですが、柱があると画的に邪魔になってしまうという指摘があり…。撮影の邪魔にならず、なおかつ安全面でも問題ない構造にすることに一番苦労しました。
結局、2階のセットを撮影に映らない奥の方まで必要以上に伸ばし、見えないところで天井から吊り、下からも固定することで、人が上り下りしても耐えられるように組み上げました。
2階建てのセットは空間に広がりができるのが利点です。階段の上り下りの芝居はもちろんですが、2階から1階へ、1階から2階へ話しかける芝居もできる。芝居の幅を広げることも、スタジオセットだからこそ可能な表現だと思っています。
原作の1カットを頼りに広げる妄想セット
齋田:こだわったのは「BARネコ目」の装飾です。内装だけでしたが監督とも綿密なイメージのすり合わせを行いました。店のあちこちに“ネコ感”を出したくて、漫画原作に1回だけ出てきた猫の目のマークをヒントに、店名のロゴデザインから決めました。それから、コースターなどをデザインして小道具にしています。
その他、欄間やステンドグラスを爪でひっかいたような模様にしたりと、至る所に猫を連想させるパーツを盛り込みました。
細かい“遊びゴゴロ”をたくさん発見して欲しい
齋田:特に見つけていただきたいのが、柱の石模様の1つが肉球の形になっているのと、手すりの柱に使っている猫の爪とぎ用の麻縄です。おそらく猫を飼っているような方じゃないと気づかないのではないでしょうか?(笑)
「チロリアン不動産」では、犬の「チロリアン」もセットの中にたくさん散りばめています。そういった細かい遊びの部分がたくさん隠れているので、それを想像しながら見つけて楽しんでいただけると嬉しいですね。
<プロフィール>
齋田 崇史/フジテレビ美術制作局デザイナー
2005年入社。『民衆の敵〜世の中、おかしくないですか!?〜』『とくダネ!』『Mr.サンデー』などの多岐にわたるスタジオセットを担当。