第94回アカデミー賞で国際長編映画賞を受賞した映画「ドライブ・マイ・カー」(濱口竜介監督)で注目され、連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』(NHK)、大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(NHK)、『エルピス−希望、あるいは災い−』(フジテレビ系)など、次々と話題作に出演してきた三浦透子さん。
彼女の初単独主演映画となる「そばかす」が、12月16日(金)に全国公開。
他者に恋愛感情を抱くことがない30歳の女性・蘇畑佳純が、未来に向かって小さな一歩を踏み出すまでの日常を描いた本作で、三浦さんは、コミュニケーションが苦手で孤独を抱えた佳純を演じます。
また、羊文学の塩塚モエカさんが作詞作曲を担当し、三浦さんが歌う主題歌「風になれ」は、物語のラストに爽やかな後味を残します。
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フジテレビュー!!では、今、最も注目すべき俳優の1人である三浦さんにインタビュー。作品との関わり方や、佳純を演じて感じたこと、そして今後について聞きました。
この台本が私のところに届いたことに感謝しています
<三浦透子 インタビュー>
――まずは「そばかす」という作品を、どのように受け止めたのか、聞かせてください。
私自身、世間の常識とのズレを感じて悩んだことがあって、「ありのままの自分をもっと大切にできたらいいのに」とか、「自分を理解してくれる人がいると信じられたらいいのに」とか、そんなふうに思っていました。
この本を読んで、そんな自分が救われた気がしたんです。私が佳純の一番の理解者になりたいと思いましたし、そう感じられる役に出会えるのは幸せなこと。この本が私のところに届いてくれたことに、改めて感謝の気持ちでいっぱいです。
佳純は、他者に性的な欲求や恋愛感情を抱かない「アセクシャル」というセクシュアリティを持っています。この作品がアセクシャルについて知ってもらうきっかけになれたらうれしいですし、自分がマイノリティなのではないかと感じたことがある人の心の葛藤や、それを受け入れてくれる人の温かさに触れる機会となりえる作品をいま作ることは、とても意味があることだと思っています。
――劇中に「アセクシャル」という言葉は出てきませんね。
今回協力してくださっている当事者の方からお話を聞いて、アセクシャルは自認するのがとても難しいセクシュアリティだということを知りました。
作品の中で「アセクシャル」という言葉を使わないことで、佳純が自分でも答えの出ない葛藤の中にいることがリアルに表現できていると思います。
また、自分の性的嗜好について相手に理解できる名前で提示しなければいけないのかという、そもそもの問題を考えるきっかけにもなるのではないでしょうか。
彼女が他者とのコミュニケーションのどういった部分に難しさを感じているのか、撮影に入る前に玉田真也監督と丁寧にディスカッションしました。「私はこういう人間です」「こういうふうに考えています」という思いを正直に伝えても、他者に理解してもらえないことこそが、佳純が他者と関わるときに一番生きづらさを感じる部分だと思います。
そんなふうに、自分のことを理解してもらうことを諦めていた彼女が、他者に理解してもらう努力から解放されたら、佳純はもっとラクになれるだろうと感じたんです。
本来、自分の中でモヤモヤしている複雑なモノについて、必ずしも相手に説明する必要はないし、定まらないものはそのままにしておいていいはず。劇中で自身のセクシュアリティを明言しないことで、そういったメッセージも伝えられると思いました。
自分ときちんと向き合って自分を理解している。そこが佳純の魅力
――劇中、人間関係が苦手な佳純と再会して急速に親しくなる中学時代の同級生・真帆を、前田敦子さんが演じています。前田さんとの共演はいかがでしたか?
以前も同じ作品に出演したことはあったのですが、お芝居をご一緒するのは今回が初めてです。前田さんは真帆ちゃんに通じるカッコよさをもっていらっしゃる方で、現場にいてくださるだけで助けになる瞬間がたくさんありました。
佳純というキャラクターについて考えるときに、真帆ちゃんがなぜ久しぶりに再会した佳純に声をかけたのか、そこが大きなポイントだと感じていました。
佳純は、ずっと他者との「ズレ」を感じて生きてきた人。それってちゃんと自分と向き合って生きてきたということだと思うんです。自分というものをちゃんと持っている人だからこそ抱ける悩みだと思いますし、そこが佳純と真帆に共通する魅力だと感じました。だから、真帆も佳純に声をかけたのではないかと。
真帆ちゃんとの関係を丁寧に演じていけば、佳純が本来持っている優しさや芯の強さが表現されて魅力的なキャラクターになるのではないか。そう理解してから、佳純が演じやすくなりました。
――物語の終盤のチェロの演奏シーンと、ラストの走るシーンがとても印象に残りました。
最初は、チェロの演奏シーンはカットを割って撮影するということだったので、手元がしっかり映るヵ所だけを練習していました。ですが、全編を通して、玉田監督は1シーン1カットで撮影することが多かったので、演奏のシーンも本当はカットを割りたくないだろうなという思いを感じて(笑)。結果的に、1曲まるまる演奏することになりました。
時間もあまりなかったので緊張しましたが、リテイクをそんなに多く重ねることなく撮り切ることができてホッとしています。
走るシーンに関しては、台本を読んで考えていたことよりも、現場で実際に走っている中で生まれた感情が大きかったです。作品の中で佳純は映画「宇宙戦争」のトム・クルーズの走り方が好きだと何度も言うんですが、それは、トム・クルーズが抗えない脅威からただただ“逃げる”姿に、共感したからだと言っています。
そんな彼女を演じる時間を経て、最後のシーンでは、佳純は”逃げる”ということを肯定的に捉えられるようになったんだな、と感じて。楽しんで逃げているような、そんな気持ちで走っていました。
2022年は「新しい出会いが多くありました」
――2022年はさまざまなことがあったと思いますが、どんな1年でしたか?
新しいことにたくさん挑戦できた1年だったという実感はあります。今までは割と映画がメインで、何度かご一緒しているスタッフのみなさんとお仕事することが多かったのですが、今年はドラマやミュージカルなど、新しい出会いが多くありました。
とはいえ、「新しいことをやってやろう」みたいな野望があったわけではなくて。常に、目の前のお仕事に備えることに必死で、あまり先のことを考えられないというのが正直なところです。
今、いただいているお仕事でも「自分はまだまだ足りないな」と思うことばかりですし。そもそも「自分が納得するパフォーマンス」なんていうものがあるかどうかわからないですが。
ただ、そうやって丁寧に積み重ねてきた過去の自分のお陰で今の自分があるのだと思っていて。今だって、同じように未来のための時間を生きているはずだから、変わらずに、今までやってきたことを続けていきたいと思っています。
そういう積み重ねの先にある未来は、きっと素敵なものだと信じたいです。
――2023年にプライベートで挑戦したいことはありますか?
(「ドライブ・マイ・カー」の撮影のために)あんなに練習して取った免許なのに、今年あまり使えなかったのがもったいないと思っていて。日常の移動手段として、もっと車に乗りたい。
運転があまりに下手だと映画をご覧になってくださったみなさんの期待を裏切ってしまうとも思うので(笑)、もうちょっと、車に乗る機会を増やせたらいいですね。
撮影:河井彩美
取材・文:須藤美紀
スタイリスト:佐々木翔
ヘアメイク:秋鹿裕子(W)
<映画「そばかす」概要>
ストーリー
地方都市で家族と暮らしながら、30歳を迎えた佳純(三浦透子)。他者に対して恋愛感情を抱くことがない彼女は、結婚を願う母・菜摘(坂井真紀)に無理やりお見合いをさせられ、その相手・小暮(伊島空)と意気投合するが、彼から男女の関係を迫られると拒否してしまう。
そんな中、佳純は中学時代の同級生・真帆(前田敦子)と再会し、彼女と急速に親しくなるが…。
監督:玉田真也
企画・原作・脚本:アサダアツシ
出演:三浦透子、前田敦子、伊藤万理華、伊島空、前原滉、前原瑞樹、浅野千鶴、北村匠海、田島令子、坂井真紀、三宅弘城
主題歌:三浦透子「風になれ」(EMI Records/UNIVERSAL MUSIC)
映画「そばかす」は、12月16日(金)新宿武蔵野館ほか全国公開。
最新情報は、映画「そばかす」公式サイトまで。