――しかも、今回の物語は、草薙にとって因縁の相手・蓮沼との再対決から始まります。いざ、現場に入ってからの感触はいかがでしたか?

東野先生の原作の中での草薙も、年を重ねて成長しているので、そこは入りやすかったです。もしこれが、草薙の年齢が30歳や40歳で止まっていたら、現実の時間がどれだけ流れていても同じように演じなきゃいけないので、すごく大変だったと思いますけども。

人間、9年あれば物事に対する考え方や対処する力量が変わります。草薙も、かつて蓮沼が完全黙秘を貫き無罪になった少女殺害事件をはじめ、いろいろな経験を重ねているので、9年の変化というのは、自分で作っていける部分でもありました。そして、蓮沼との再会については、それほどしんどいというふうには考えてなかったですね。

むしろ大変だったのは、蓮沼が殺害されたあとに、ある重要人物を取り調べるシーンです。僕、取調室で、その方に怒鳴られたりするんですけど、(心からの怒りが伝わってきて)本当に怖かった。同時に、本心を言うと、その方がおっしゃることは本当にごもっともで、「ごもっともです!」と言いたかったくらい。

でも、草薙というのは、法の下で警察として取り調べをしているわけで、その方の理屈がもっともでも、だから罪を犯していいということにはできない。だからこそ草薙は、どんなに無念でも、絶対に涙を流せないんです。あなたたちのほうがつらいわけで、その前で泣くことはできない、という思いがずっとありました。

北村一輝 『沈黙のパレード』の内容に「警察や法律が本当に正しいのか?と考えさせられる」

――草薙の苦悩や葛藤が痛いほど伝わってきますし、「それは罪か、愛か。」という映画のキャッチコピーの意味にもつながってくるシーンですね。

彼らがやったことが罪だったとしても、それは本当に断罪されるべき罪なのか?というと、“愛ゆえ”に起きたことだというのがわかります。

そうなったときに、世の中、警察が言ったらなんでも正しい、法律なら正しいと思っている人が大多数の中でも、警察や法律が本当に正しいのか?この人たちと警察のどっちが正しいのか?と考えさせられると思います。

実際、法の抜け道はあるものだし、法律では守ってもらえないこともあります。この映画では、人間としての正義の話に重点を置いているところが僕はすごく好きですし、そういう繊細で複雑で温かな人間の内面が描かれていて、素晴らしい作品だなと思いました。